戦いのあと①
目が覚めると見慣れた天井があった。
宿屋"大麦亭”だ。
意識を失った俺を誰かが運んでくれたようだ。
きっとフィネだろう。
上体を起こす。
どうやら俺の連泊している部屋ではないらしい。
ベッドが2つある広めの二人部屋だ。
「…あ゛ー。」
声を出してみると予想どおりのガラガラ声。
魔力切れの反動で丸一日眠っていたんだろう。
自分の荷物がベッド脇にあったので水筒を取り出して喉を潤す。
「昼か。」
窓の外を見ると日が高い位置にあった。
まずは昨日あのあとどうなったかを確認したい。
フィネがどこに行ったか、ユリアナの姉夫婦に聞いてみるとするか。
「お! 目が覚めたのかい!?」
階下では椅子がテーブルに上げられ、ユリアナの姉が掃除をしていた。
「ああ。こんな時間まで寝てて悪いな。」
「いーのよ!」
彼女は箒を立てかけ、俺とほとんど変わらない身長で俺の顔を覗く。
「元気そうだね。パンならすぐ出せるけど、物は食べれそうかい?」
「ああ、ありがとう。でも大丈夫だ。フィネがどこに出かけたか聞いてないか?」
「ああ…噴水広場はわかるかい?」
「町の真ん中の?」
「そう。朝はギルドに向かったけど、今はそっちにいると思うよ。」
「そこで何かあるのか?」
「うん。マンヴェンさんの葬儀だよ。」
「…そうか。」
わかってはいたが、やっぱり死んだのか。
「わかった。すぐ行ってみるよ。」
「葬儀は今夜だ。それまでもう少し休んでてもいいんだよ。あたしたちが出発するときにちゃんと起こすから。」
「もう大丈夫だよ。怪我したわけじゃあないしさ。」
「そうかい? じゃあ…いってらっしゃい!」
「いってきます。」
噴水広場では、町の入口がある方向を正面にして、木造ステージのようなものが組まれていた。
その周りで大勢の人が忙しく動いている。
知り合いを探すが、冒険者ギルドで見た顔はないようだ。
「…ああ! そうだイズミだ! 思い出した。」
上から俺を呼ぶ声が聞こえたので見上げると、ステージの上に両手にトンカチを持った男がいた。
逆光になって顔までは見えない。
「ほっ!」
スタッ、と男が飛び降りる。
こいつは…昨日の朝の会議にいたランクBの双剣士だ。
あれ、名前なんだっけな。
「目が覚めたんだな。」
「ああ、アンタも無事で良かった。」
「お前とゲオルグ以外は全員無事だよ。誰も戦闘になってないからな。」
「そうか。」
「おかげで今日は大工仕事をさせられてる。バールートの風もいるぞ…ほら、あそこ。」
見ると4人組が巨大なかぼちゃを担いでいた。相当重そうだ。
「支部長の怪我の具合は?」
「両腕とあばらを何本かやられたみたいだが、意識はある。治癒魔術なしだと全治2か月ってとこかね。」
「なら問題ないな。アドルフィンも来てるか?」
「はっは! そうだな問題ない。…アドルフィンはさっきまでいたけどな、今はギルドだよ。」
「そうか、じゃあそっちに行くよ。」
「おー。」
「お、イズミじゃねぇか。」
ギルドに入るとアニーと同じパーティの男が話しかけてきた。
こいつは憶えてる。ダニエルだ。
その奥にジャックもいるが、壁の掲示を見たままだ。
「ダニエル。フィネを見なかったか?」
「奥でアニーと花飾りを作ってるよ。呼ぶなら受付の誰かに頼むといい。」
「そうか。ありがとう。」
「しかし本当にレッサードラゴンを捌けるたぁな。驚いたぜ。」
「ああ、先に言っただろ?」
「信じてなかったよ。なぁジャック。」
「……」
ジャックは無言で掲示を見ている。
相変わらず寡黙な男だ。
「あー、悪いな。なんかたまに機嫌悪いんだよ。」
「いやいいよ、じゃあな。」
そう言って窓口へ。
ほとんど人がいない。
「あー、すみません!」
「はい?」
声をかけると、見たことのない職員が反応してくれた。
「ああ、ユリィのお客さん。呼んできますか?」
ユリィというのはユリアナのことだろう。
「いや、呼んで欲しいのはアドルフィンだ。花飾りを作ってるって聞いたが。」
「あー、わかりました。じゃあ声かけてきますね。」
「頼む。」
女性が奥のドアからどこかに消える。
俺はホールに下がってハイテーブルに肘をかけた。
数分も待たずに、窓口の脇の戸が開いてユリアナとフィネが出てきた。
小走りで近づいてくる。
いや、フィネはダッシュだ。
「もう起きないかと思ったぢゃねーかよー!」
フィネが軽いボディブローを打ってきた。
しっかり手加減がされていて、痛くない。
「悪かったよ。」
「本当ですよ。心配したんですから!」
「ああ、ユリアナも、すまなかったな。」
「で、もう大丈夫なの?」
「ああ。単なる魔力切れだから、もう回復したよ。」
全快まではもう一晩といったところだろうが、今は回復したことにしてしまおう。
「「はぁ…」」
二人が安心したようにため息をついた。
「あのあとどうなったか教えてくれないか?」
「え? あーっと…」
フィネはあのあと、支部長を森の外まで運び出してから俺のところに戻った。
そうしたら俺が倒れていたから俺のことも森の外まで運んだ。
そのとき、さっき噴水広場で会ったランクBの彼、グンターが森の入口まで来ており、支部長を介抱していたそうだ。
フィネはもちろん『マンヴェンはこの周辺』という書き置きには気付いていて、アニーたちを呼んで捜索した。遺体はすぐに見つかったそうだ。マンヴェンの槍も一緒に回収した。
そして馬車を呼んでマンヴェンと俺と支部長を町に運んだ。
マンヴェンについては、昨日の夕方のうちに話し合いが持たれ、葬儀は町を挙げて行うことになった。今冒険者が主になって準備しているものだ。
大半は噴水広場の準備と、門から広場までの道の飾りつけ。
少ない女手は棺の周りに付ける花飾り作りに勤しんでいる。
フィネもアニーも冒険者だから力仕事でもなんの問題もないのだが、『二人の手作りの花飾りがあった方がマンヴェンが喜ぶ』と言って支部長が役割を決めた。
「って感じかな。」
「だいたいわかったよ。ありがとう。」
「んーん。で、あの魔族はどうなったの?」
「魔族…ベーンガンってやつのことか?」
「うん。」
「死体があっただろ。俺の近くに。」
「なかったよ?レッサードラゴンが3匹死んでただけ。あと錆びた武器みたいな防具が4つ落ちてた。」
胸にパルチザンを突き刺した。死んでないはずないと思うが…生きていたのか?
いいや、それなら俺を殺すはずだ。
一体何があったんだ?
「…仇は討ったよ。それは嘘じゃない。」
「そっか。ならいいよ。」
消えた死体は気になるが、考えても答えは出なそうだ。
俺は一旦、宿に戻ることにして、ギルドをあとにした。




