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捜索と救出⑤

冥途(めいど)土産(みやげ)に教えてやる。オレは大魔国(たいまこく)六業(ろくごう)! 暴力のベーンガン様だ!」


 ドーン!

 という効果音が鳴っても良さそうな自己紹介だが、大魔国(たいまこく)なんて国は聞いたことがないな。


大魔国(たいまこく)…? 二人とも知っているかい?」

「いいや?」

「知らない。」

「ふむ…」

「は! てめぇらが知るわけねぇだろ。大魔国(たいまこく)は人間が西域って呼んでる大陸の奥にあるからな。」

「西域だって!?」


 ゲオルグが驚くのも無理はない。

 俺たちが今いる大陸の西に、もう一つ別の大陸があり、そこが西域と呼ばれている。

 魔物しか生息していないと言われる、いわゆる未開の地だ。

 そんなところに国があるなんて聞いたことがない。


「おうよ。で、ほかに聞きたいことはないのか? 殺す前に教えてやるぞ?」


 敵意を隠すこともなく、にたにたと嫌な笑みを浮かべて聞いてくる。


「さっきも聞いたが(きみ)…ベーンガン(くん)がレッサードラゴンを操っているのか?」

「あーそうだよ。」

「なんのために?」

「調教だ。てめぇらが全部殺したせいで台無しになったがな。」


 調教か…。

 やはりビーストテイマーなのだろうか。

 フィネは特殊な例として、獣人はジョブに就けないというのが知られている。

 が、魔族やエルフについての話は聞いたことがない。

 魔族もジョブに就けるのだろうか…?


「なんのための調教なんだい?」

「そりゃあ大祭(たいさい)のためのリラパの収穫さ!」

「大祭? リラパ?」

「あーあー、人間は知らないことばっかだよなぁ。大祭は大魔国(たいまこく)の50年に一度の大切な祭典だよ。その祭典ではリラパを大量に使うから、今のうちから集めるんだ。」


 話が見えない。

 リラパってなんだ?


「魔物を作って調教してよ、人間の村を囲うんだよ。そんで降伏勧告をするとあっさり降伏すっかんな、全員大魔国(たいまこく)に連れ帰ってあとから新鮮なリラパを取るんだ。」

「魔物を作って?」

「あん? そうだよ。なんで魔物を殺しても殺してもまた現れるかって考えたことねぇか?」

「大いにあるね。諦めにも近いものがあるが、それでもいつか殲滅(せんめつ)できればと考えている。」

「は! 無理だな。オレたちが親を生み出すかんな。」


 魔物って、魔族が生み出しているのか?

 そんな話は聞いたことがないが。


「それは初耳だな、ベーンガン君。詳しく教えてくれないか?」

「人間は頭が悪いってのは本当だよな。わかりやすく言うとだ、オレたち古い魔族が魔物のつがいを生成するんだよ、特別な魔法でな。あとはそいつらが勝手に繁殖して数が増える。わかったか?」

「実に勉強になるな。今生成して見せてくれることは可能かな?」

「無理だっての。準備も要るしな。」

「そうか、どんな準備が必要なんだ?」

「…魔力と体力の回復だよ。1匹生成するだけでかなり持ってかれるかんな。」

「なるほどなるほど、それじゃあ調教というのは?」

「魔物を戦わせて戦闘能力を高めんだよ。あとはオレの命令をしっかり聞くように教え込む。」

「君がビーストテイマーというわけではなく、魔族だから魔物が従うと?」

「ああ。いや、あー…『古い魔族』な。こっちの大陸にいるオレたちの子孫の血の薄い魔族にはできないかんな。」

「…なるほど。合点(がてん)がいった。『古い魔族』というのも気になるが、その前に、リラパとは何かな?」

「あー…そうか、てめぇらの言葉で言うとなんだっけな、フォアグラ?」


 恐ろしい不快感が走る。


「…恐らく違う言葉と間違えているのではないかな? 君たち古い魔族は50年に一度、たくさんの人間を殺しているという風に聞こえてしまうぞ。」

「そうだが?」

「なぜ?」

「本っ当に頭が悪いな、人間ってやつは! 大祭で使うからだってさっき言っただろ。」

「その大祭というのは…」

「うるさい! もう死ねよ。」


――フォン。


 ベーンガンが恐ろしく(はや)い動きでゲオルグに近付いた。

 そして蹴りが放たれると、ゲオルグが今走ってきた道を戻るように吹っ飛んで行った。


「よっわ! ギャッハハ! よっわ!! まだ軽く蹴っただけじゃねぇか!」


 ゲオルグが飛んで行った方を指差して笑うベーンガン。

 さっきの速さなら防御はできそうだが、それが「軽く蹴っただけ」か。

 ちょっと面倒そうだな。

 フィネに小声で話しかける。


「俺がやるから支部長を頼む。」

「わかった。」


 フィネはすぐ承知してくれ、ゲオルグが飛んだ方に走っていく。

 こういうとき阿吽(あうん)で動いてくれるのはありがたい。


「なぁなぁ、おいおい、アンタ。」


 ベーンガンが俺に顔を向けた。


「今なんつった?よく聞こえなかったなぁ。」


 地獄耳かよ。

 もう少し話を聞きだせないだろうか。


「なぁ、ベーンガンさん、聞こえなかったんなら聞き流してくださいよ。」

「あー?」

「女の子の前でかっこつけたかっただけなんですよ。大魔国(たいまこく)六業(ろくごう)様ならそんな小さいこと気にしませんでしょ?」

「…六業(ろくごう)が何かも知らねぇでよく言うなぁ?」

「ええ、存じ上げません。大魔国(たいまこく)のことも、六業(ろくごう)様のことも、大祭のことも。ですから、冥途の土産、わたくしにもいただけないでしょうか?」

「口の利き方は(わきま)えてやがんな。いいぜ、何が聞きたい?」

「昨日、人間の群れを襲ったとき、ほとんどの人間が逃げる中に一人だけ、レッサードラゴンと戦った者がいたはずです。その者は今どこに?」

「ギャハハハハ!! そうだ、いたいた! むかつくからオレが直接殺してやったよ。こいつらのエサにしたから骨くらいしか残ってねぇけどな。多分その辺に落ちてるぞ。」


 ……そうか、マンヴェンは死んだのか。


「……。」

「なんだ、黙っちまって?」


 なら敵討(かたきう)ちだ。

 悲しむのは遺体を見つけてからにしよう。

 今はただ、ふつふつとわき上がる怒りに身を任せることにしよう。


「…もう聞きたいことがないなら、すぐ死ぬか?」

「魔導の門よ。」

「ぁあ?」

「全ての魔力を差し出そう。全ての尊厳も差し出そう。魔導を裏切り、力のみを望む。今この時を生きる力を。」


 会話をやめて詠唱を行う。

 さっきゲオルグを蹴り飛ばした動きからして、こいつの戦闘能力は尋常じゃない。

 本気を出さなければならない。

 しかし半端な魔法では避けられて終わりだ。

 そういう相手に対する処方は一つしかない。


「何言ってんのかよくわかんねぇな。」

「魔導の門よ。閉じて全てを力と変えよ。超絶強化(ムスキル)!」


 俺の全魔力を肉体強化に()ぎ込む魔法だ。

 師に頼んで俺専用に組んでもらった最高効率の強化魔法。


「まぁいいや、死ね!」


 ベーンガンがさっきと同じ動きで間合いを詰めてくる。

 疾風のような蹴り。

 改めて見るとブーツの先から鉤爪が出ている。

 普通なら俺も吹っ飛んで終わりだろうが、さっと(かわ)す。

 ついでにブーツに触れ、魔力を消費せずに発動できるスキル【武器劣化】を発動する。

 効果は『錆び』だ。

 ちょっと時間がかかるが、その金属製のブーツはどんどん錆びていくはずだ。


「っらぁ!!」


 蹴りを放った姿勢から、体を回転させて地に着いている脚での蹴りが放たれた。

 器用なやつだ。

 これは受け流す。

 もちろん【武器劣化】で錆びさせてやる。


「チッ、ちょこまかと!」


 今度はこちらから。

 『スサノオ』で斬りつけてやると、腕で防がれた。

 金属の手甲を装備している。

 ここでも【武器劣化】させ、もう一薙ぎ、今度は逆の腕で防がせる。

 これで手甲もブーツもボロボロだ。


「まだ気付かないのか?」

「ぁんだって?」

「手と脚の防具のことだよ、ベーンガン。」


 これは時間稼ぎだ。

 喋りつつスキル【武具収納】でマンヴェンのパルチザンを取り出し、『スサノオ』を地面に落とした。

 マンヴェンへの手向けとして、最後はこの槍で飾ることとしよう。


「なんだこれ…てめぇの魔法か?」

「たぶんな。」

「ハッ、それで勝った気かよ。おめでたいやつだな。」


 ベーンガンはそう言って防具を捨てた。


「ちょっとはやるみたいだからオレもマジで相手してやるよ…」


 ベーンガンが拳を腰に当てた。

 何かする気みたいだが、待ってやる理由もない。


「はぁぁぁ、戦士の威(クシャトリア)!!」


 ベーンガンの全身から魔力が噴き出た。

 魔力の流れが風を生み、強い上昇気流ができて髪が逆立つ。


「うがあああああ!!!」


 そして叫ぶベーンガン。

 無理もない。

 魔法かスキルかの発動直後に俺の槍…いや、マンヴェンの槍が胸を貫いたのだ。

 最大強化した体で本気で突いてやった。

 隙だらけだったのも相まって全く反応できなかったらしく、防御の素振りすら感じなかった。


「て……ひきょ…」


 てめぇ!ひきょうだぞ!とでも言いたいのだろうか。

 さっきゲオルグに不意打ちしたのは忘れてしまったのか?


 槍を横薙ぎして戦いを終わらせ、ついでに周りのレッサードラゴン3匹を斬り倒した。

 うち一匹は(ディノ)=ORN( ド ル ン)だった。

 これでギルドも安心だろう。


「さて、効果時間はまだまだ残ってるが…」


 超絶強化(ムスキル)の効果が切れれば、俺は魔力切れで意識を失う。

 だから誰かが回収してくれないと野良モンスターにやられてしまうが、すぐにフィネが来てくれるだろう。

 今日はそう不安もない。


「よっ、と。」


 地面に『マンヴェンはこの周辺』と大きく彫った。

 遺体と書かなかったのはもしかしたら生きている可能性があるかもという俺の甘さだ。

 そして仰向けに寝転がって体の力を抜く。

 このまま魔法の効果が切れるのを待とう。


「はぁ~…」


 大きなため息を一つ。

 地上で起こっていることなんて何の関係もないというふうに、澄んだ青空はいつもどおりの姿を見せていた。


「なんだよ……上を向いても涙ってこぼれるのかよ…」



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