捜索と救出④
「アドルフィン、イズミ君。私も行こう。」
支部長が言った。
「どうしてここが?」
「バールートの風のセインは目が良いんだ。君たちがこちらに向かったのが見えたと教えてくれたよ。」
「それでなぜここに?」
「手がかりを掴んだんだろう?馬よりも早く現場に着いて、しかもすでに移動している者がいたらそう思うのが自然だ。」
「え、馬で来たのにここまでは走って来たのか?」
「馬を使ったのはバールートの風だよ。私は町からずっと走ってきた。」
走ってきた!?
息切れもしていないが、体力無限とかそういうスキルでもあるのだろうか。
「君たちはどうやってここに?」
「魔法だ。」
「ふむ…いや、今はそれは置いておこう。聞きたいことが増えすぎる。それで、手掛かりは?」
俺たちは休憩がてら事の顛末を話した。
「…あの大量の魔物は君たちだけでやったのか?」
「アタシはたった14匹。ほっとんどイズミだよ。」
「それは…アドルフィンも私が思っている以上の実力があるようだが…イズミ君は我々の見立てを遥かに上回る実力者なのだな。このあいだベーゼアルラウネを倒したの、君だろう。」
うわ、ばれた。
「俺たちは死体を発見しただけだよ。」
「…ああ、そうだったな。」
ゲオルグがそそり立った髭を指でなぞる。
「うむ。今はマンヴェンを探すのを最優先にしよう。知らないうちに森に通された道も妙だが、それよりもすぐそこにいて襲ってこない魔物どもが奇妙だな。」
「森に入れば3歩以内に襲ってくるぞ。」
「余計おかしい。縄張り意識がある魔物がいるのはわかるが、極端すぎる。それに我々はレッサードラゴンという名で一括りにしてしまっているが、D-RPTとS-TRCは別種の魔物だ。群れを構成することはないはず。」
S-TRCはさっき倒した角が3本あるサイのような中型種だ。
「だからさ、ビーストテイマーなんじゃない?」
フィネが言う。
「…だとすると、危険な魔物の発生災害ではなく、人による凶悪犯罪ってことになるね。」
ゲオルグがまた髭を撫ぜる。
癖になっているようだ。
「なんにせよ、私も行こう。」
ゲオルグが背中に着けていた大剣を抜いた。
俺の『スサノオ』と同じくらいの大身の剣だ。
マンヴェンといいジャックといい、この町は冒険者もギルド職員もごついのが多いな。
「フィネ。」
「反対はしないよ。」
「俺もだ。よろしく、支部長。」
「ああ。」
森に、正確には森に通された道に足を踏み入れる。
と、またすぐにレッサードラゴンが襲いかかってきた。
あらかじめフィネから位置を教えてもらっているから魔法の準備は万全だ。
「アイシクル。」
全ての敵に氷柱を突き刺すと、すぐに動きが止まった。
周囲にもう魔物はいないようなので、奥に向かって小走りで進む。
「すさまじいな。イズミ君のジョブは武装支配者だったか。物理職かとおもっていたのだが。」
「物理職だよ。剣術レベル8が付いてる。」
「っ!? その上であの魔法力があるのか。」
「魔法はジョブとは別のものだろ。」
「しかし魔法に長けた者は魔法職を選ぶのが普通ではないかね。」
「だろうな。俺は普通じゃないらしい。」
俺は生まれつき魔力量が多かった。
師匠も魔女だし、ゲオルグの言うとおり魔法職を選ぶのが自然だろう。
しかし、ジョブチェンジの儀式を行っても、俺には選択肢が一つも出なかった。
俺は武装支配者以外のジョブには就けないということらしい。
「ふむ…あとで君の人生について詳しく聞きたいところだな。ちなみに私はギルド職員になって指導者にジョブチェンジしたが、元々はレベル68の戦士だ。」
「え、ヒゲって高レベ戦士だったの?」
「そうだ。ちょっとは尊敬しろ。」
フィネ、まさかとは思ったが、本当に支部長をヒゲ呼ばわりなんだな…。
「ジョブは指導者でも戦士のスキルは残ってるから戦闘に関しては放っておいてくれていい。下手な連携は却って危険だしね。」
「「了解。」」
道の先に岩場が見えた。
「あの岩の下、魔物の気配がするよー。でっかいのが3つ。小さいのが1つ。」
でかいのがいるなら武器を『スサノオ』に替えておくか。
「アドルフィンはこの距離で魔物の気配が察知できるのか。」
「なんとなくだけどね。」
「…優秀だな。」
少し進むと魔物の姿が見えた。
大型種が2匹、中型種が1匹だ。
「あれか。」
「牽制で魔法撃って怯んだ隙に1匹落とすぞ。」
「待ってイズミ、真ん中のやつの上に誰か座ってるよね。」
誰か座ってるだって…?
中央にいるのは中型種だ。
扁平だが厚みのあるトカゲという感じのレッサードラゴンの上…目を凝らすと確かに何か突起のようなものが見える。
角のようでもあるが…。
そういえばフィネが言った気配の数は4だ。
今見えているのは3…数が合わない。
「よく見えないが、人なのか?」
「気配は魔物に近い感じがするけど、人っぽいね。」
「なら魔族だろう。肌が浅黒いのではないか?」
そうゲオルグが言った。
「うん、茶色っぽく見える。」
魔族か。
エキゾチックな浅黒い肌に真っ赤な目の種族だ。
人間と同じで、良いやつも悪いやつもいる。
魔力に長けているから、ちゃちな魔法を使っても簡単に防がれるだろう。
「なら魔法で攻撃はやめておくか。もし話が通じる相手なら印象を悪くするだけだ。」
「話が通じるならまず私が話そう。」
「頼んだ。」
レッサードラゴン3匹と魔族らしき者の前に着いた。
フィネの言うとおり、中型種の上に片膝を立てて人が座っている。
長いぼさぼさの黒髪で顔も体型もよく見えないが、肌の色から判断するにやはり魔族で間違いないようだ。
周りの大型種が襲ってくる様子もない。
ここはひとまずゲオルグに任せよう。
「人間か。」
先に口を開いたのは魔族の方だった。
女の声だ。
「君は魔族か?」
「ああ? …人間、それはオレに言ったのか?」
「ああそうだ。」
ゲオルグは凄まれても物怖じせずに答えた。
「チッ!」
露骨な舌打ち。
あまり関わり合いになりたくない相手だな。
「君は魔族か?」
二度目の質問。
俺はメンタルが弱い方だから、ゲオルグの精神力に素直に感心する。
「ああそうだよ! で!? だったらどうしたって言うんだ!?」
「君がレッサードラゴンを操っているのか?」
「チッ! てめぇむかつくな。殺すぞ?」
殺気立った魔族が中型種の上で立ち上がった。
そこで気付いたが、上半身には服を着ていない。
トップレス…だが、体は男のようだ。
声が高いだけか?
「魔族というのはまともな会話もできないような低俗な種族だったのかな?」
「ぁあ!?」
諭すような口ぶりだが、挑発にも近い発言だ。
魔族の殺気が強くなる。
いつでも動けるようにしておこう。
「私の名はゲオルグ・ランゲ。冒険者ギルド、オーベルン支部長だ。もし君に名乗る名があるのなら教えてくれ。君は?」
「……ったよ、冥途の土産に教えてやる。オレは大魔国の六業! 暴力のベーンガン様だ!」




