捜索と救出③
足跡を追って森に着いた。
何の変哲もない…とはまるで言い難い森だ。
魔物の気配が濃いと言えばいいのだろうか。
気配に鈍感な俺でも嫌な気配をビンビン感じる。
殺気を隠す気はまるでないらしい。
変なところはほかにもある。
森に道が通っている。
街道とは異なり、単に木を切り倒してどかしただけのような道だ。
俺が『スサノオ』を振り回せるくらいの道幅になっている。
町からは結構離れているから木こりが材木を運び出すための道ってこともないだろう。
それに、ぬかるみには大きな足跡が刻まれている。
群れの残りがこの森にいるのは間違いない。
「イズミ、そこらじゅうにいるよ。小型種だと思うけど、10匹か、もう少し多い。」
「流石に俺も感じてるよ。数まではわからんけど。」
そういえば昔読んだ魔物図鑑には、レッサードラゴンは低温に弱いと書いてあったな。
移動中に出していた『ツキノワ』にスキル【属性付与】を発動して氷の魔法剣にした。
氷が弱点になるといいが…。
「なんていうか、森に入った瞬間に襲ってきそうだな。」
「だね。勘なんだけど、小さいやつなら2、3匹は同時に相手できると思う。でもほとんどの相手は任せちゃうけど、いい?」
「あたぼうよ。下手に突入して囲まれるより、手前から順に倒していこうぜ。」
「りょーかい!」
頭の中で風の刃をイメージしながら道を進む。
森と草原の境界を越えると、たった3歩で両脇からレッサードラゴンが飛び出してきた。
小型種が数体。
すぐに魔法を発動する。
「エア・カッター。」
俺たちの周囲に風の刃が走り、レッサードラゴンどもを真っ二つにする。
少し遅れて右から2匹、左から1匹。
まずは右を相手にしよう。
爪を回避して細長い首を斬る。
お、大型種と比べるとかなり楽に刃が通るんだな。
もう1匹もさっと倒して反対側の1匹を向くと、フィネが連打をかましているところだった。
硬い竜の皮に打撃はあまり有効でないのかもしれない。
大したダメージは与えられていないように見える。
援護しようとしたところで次の集団が森から出てきた。
フレイムダガーで牽制しつつ撫で斬りにするが、さらに後続が出てくる。
1匹1匹は問題ないが、数が多すぎてフィネのフォローをする余裕がない。
「フィネ! 大丈夫か!?」
「だいじょおおぉぉぉ!」
大丈夫と言い切れてないが、本当に大丈夫なのか?
と思うと、フィネが隣にやってきた。
目の前の2匹にアイシクルを放って倒すと、周りに生きている敵はいなくなった。
「―ぅぶ! っと。はぁ、攻撃はかわせるけどアタシの攻撃あんま効かない!」
「刃物は効いてるぞ。創剣でクローか何か用意しようか?」
「あ、それいいね。ちょーだい。」
「…創剣!」
――パシッ。
短時間でイメージしたため、武骨な鉄のクローが出現した。
腕に固定するベルトすらない、手甲に付けた握りを握って振るだけの武器だ。
「はい。」
「あんがと。」
「見た目はイマイチだが、切れ味と丈夫さは保証するよ。」
「じゅーぶんだよ。」
フィネが軽く腕を振って使用感を確かめた。
「敵はまだまだいるのか?」
「森の奥からどんどんやってきてる。しばらく続くよこれ。」
「了解。やばそうなら1回退くしかないけど、スケルトンみたいに際限なく出現することはないだろうからちょっと粘ってみよう。」
「超賛成。アタシはどんどん調子が上がって来てるよ。多分だけど、新スキルの【略奪】が発動してる。」
「敵を倒すほど強くなるやつか。」
「…あ。」
「うん?」
「でっかめのやつ来てるかも。森の中じゃなくてこの道走ってるね。」
「よくわかるな。」
「地面揺れてるから。んっと、中くらいのサイズかな?」
「わかった。そいつは任せてくれ。」
「もっちろんよろしくぅ! さて、あと30秒くらいで次の団体さんがご到着だよ。森の中走ってる。道の両側、どっちも。」
「まだ30秒もあるのか。ストレッチでもするかな。」
「言うねぇ。アタシは余裕ないから本気出すよ。」
――ドクン!
心臓が鳴ったような音が聞こえた…というよりも鼓動を感じたと言った方が正しいかもしれない。
そして目の前にいるフィネの気配が大きく変わった。
気配だけでなく見た目もだ。
狼の耳と尻尾が生えいる。
かわいい。
「これが解放だよ。」
「へぇ…良い言葉が見つからないが、なんだ、その、すごい存在感だ。」
「にひっ!」
この状況でかわいいと思うのは緊張感がなさすぎるのだろうか。
しかし笑うともっとかわいいいな。
ザザザザ…と、森の中を何かが走る音が俺にも聞こえた。
次の波が来る――
―そこからはただただ戦い続けた。
矢継ぎ早に来る敵を端から斬り捨て、フィネに向かうやつには牽制のフレイムダガーを放って一部を引きつける。
そして近づいてくるやつをまた斬り捨てる。
その繰り返し。
敵の数は増える一方だった。
まさに数の暴力で、一匹一匹は弱くても休む暇がないから体力がごっそり持っていかれる。
独りで戦っていたら何度か撤退しないとならなくなっただろう。
だが今はフィネがいてくれる。
フィネは持ち前の素早い動きと、魔物の陰に入りながら闘うことで敵を翻弄した。
さらに俺がよく狙いもしないで放つフレイムダガーをうまく利用して魔物の目先を変え、俺の負担の調整もしてくれている。
正直、めちゃくちゃ頼りになる相棒だ。
その上、フィネ自身もクローで的確に急所を貫いてレッサードラゴンの数を減らしてくれている。
俺がクローを作ったことで攻撃が通るようになったのもあるが、それよりも解放の効果が凄まじい。
身体能力が目に見えて強化されている。
たまに俺の視界に入ったかと思えばすぐに消え、魔物が地面に倒れるのだけが見える状態だ。
しばらく戦い続けていると、道の奥から中型のレッサードラゴンが向かってきているのが見えた。
巨大なサイといった感じの外見だ。ただし頭は随分異なる。かなり大きい頭部には角が3本あり、襟というのかヒレというのか、首を守るように大きな張出があった。口もまるで鳥の嘴のようになっている。
見るからに守りが堅そうだ。
こういう手合は腹が弱点であることが多い。
ぶっとい土の棘を地面から生やせば止まりそうだな。
周りの雑魚を風魔法で吹き飛ばし、地面に手を付ける。
「ランドニードル。」
――ドドド!
やはり腹には装甲がなかったらしく、中型種が沈黙した。
「イズミ。」
「どうした!?」
フィネの声。
慌てて振り返ると、すぐ目の前にフィネがいた。
「おわ!」
「解放が切れちゃった。もうちょっとで敵も打ち止めっぽいけど、疲れたし一回退こ。」
「わかった。」
解放の効果時間は10分と言っていた気がするが、もっと永い時間戦い続けたような気分だ。
しかしたくさんの敵を倒した割に全然前に進めなかった。
おかげで森から出るのは容易なのだが。
また風魔法で小型種を吹き飛ばし、森の外へ出る。
さて、この見通しの良い平野でどうやって追っ手を振り切るかが問題だ。
走りながら詠唱して飛翔風を使うか…?
「イズミ、あいつら追いかけて来ないよ!」
「え?」
振り返ると、確かに魔物の姿がなかった。
走るのをやめる。
「追って来ない…ってどういうことだ?」
「わかんない。でもこっち見てはいるね。いち、にぃ、さん…左6匹、右9匹かな。」
森に隠れた小型種がこちらを見ているらしい。
俺からは見えないが。
「後続は?」
「もう来てない感じだったよ。」
「…ふむ。」
大型種はまだ倒していないから森の奥に残っているのだろう。
しかし、森に入るなり襲ってきて、出れば襲ってこなくなるなんて…
「誰かが命令してるよね。」
俺の考えと同じことをフィネが言った。
「…俺もそう思う。だけど複数種の魔物を操れる魔物なんて聞いたことないよな。」
「ビーストテイマーなんじゃない?」
確かにビーストテイマーのスキルなら可能だろう。
しかしそうなると誰か人間がこれを行っているということになる。
「……。」
「それを考えるのはヒゲに任せて、アタシたちは休憩しよっ。後ろ見てみ。」
フィネが地面に座り込んで変身魔法を唱え始めた。
後ろ?
見ると誰かがこちらに走ってきている。
あれは…おそらく、支部長だ。




