捜索と救出②
「ユリアナ。」
ギルドホールに戻ってきて、窓口の奥で同僚と何か話しているユリアナに声をかけた。
ぱたぱたと急ぎ足で近づいてくる。
「イズミさん。もう出発ですか?」
「ああ、行ってくるよ。」
「ちょっとは休みなよ~?」
これはフィネだ。
「もう少しでひと段落しそうなので、そうしたら仮眠するつもりです。」
「仮眠か…ユリアナがしっかり休めるように、俺たちも頑張らないとだな。」
「だね。じゃ、行ってきまーす!」
「お二人ともお気を付けて。マンヴェンさんのこと、よろしくお願いします。」
ユリアナが頭を下げた。
「頭下げなくていいって。友達の頼みで友達を助けに行くだけだから。」
と言ってもユリアナは頭を上げなかったのでそそくさとギルドを出た。
他のパーティはどういう動きをするのかと見渡してみる。
皆こういう状況にも慣れているのか、それぞれがすぐに行動を開始していた。
アニーたちは徒歩だが、もう見えなくなりそうだし、ランクBのグンターはすでに見当たらない。
ここに残っているのはバールートの風だけ。
今は馬に荷を乗せているところで、すぐに出発することだろう。
彼らが一番乗りしそうだ。
別に競争ってわけじゃあないが、俺たちもすぐに出た方が良いな。
「イズミ。」
「どうした、フィネ。」
「髭はモンヴァンが生きてる方に賭けてるみたいだけど、内臓足りてないから危険な状態になってるかもだよ。だから最速で行こ。ディノレクスを追ったときの飛ぶ魔法使ってくれない?」
髭というのは支部長のことだ。
まさか普段からそう呼んでたりしないよな…?
「わかった。じゃあ物陰に移ろう。」
飛ぶ魔法は…飛翔風のことだな。
強風を纏って高速飛行する魔法だ。
詠唱をしながらフィネの手を引いて建物の陰に移動する。
「飛翔風!」
魔法を発動、まずは上昇気流を作って高く飛び上がる。
ある程度高く飛べば町の人を驚かせることもないだろう。
そして風向きを変えていき、移動開始。
鳥よりは遅いが、馬よりは早い。
バールートの風よりも先にマンヴェンが盾になった地点に到着できるな。
しばらく集中して飛行を続けた。
俺はだいたいの場所しかわからなかったので、30分ほどで一度地面に下りてフィネに目的地を確認し、また飛翔風を発動。
そのあとは数分もかからずに調査隊が群れと遭遇したポイントに到着した。
とはいえそれでもだいたいの場所にしかならない。
現場に目印があるわけではないから、焚火跡か何かを見つけて正確な場所を特定して、そこから痕跡探しをする形になる。
しかし。
「なんとまぁ、わかりやすいことで。」
「こりゃモンヴァン、生きてるね。」
「だな。」
死屍累々。
そんな言葉が似つかわしい。
そこらじゅうに小型レッサードラゴンの死体があった。
パッと見では数えられないくらいの数だが、20体は超えているんじゃないだろうか。
首と脚が細長い。足には大きな鉤爪があり、ピンと伸びた尾に羽毛が生えている。
小型種は種類が多いから断言はできないが、外見に加えて群れで襲ってきた点も考慮するとD-RPT種だろうか。
魔物の種類がなんにせよ、とりあえず一安心だ。
「フィネ、周りに人と魔物の気配は?」
「ちょい待ち。」
フィネが目を閉じて耳に手を当てる。
気配って音で判断していたのか。
「感じないね。でも逃げた魔物はいるみたい。ちょっと歩き回ってみる。」
「わかった。」
今度は空気の匂いを嗅ぎ始めた。
音だけじゃなくて五感で判断しているらしい。
獣人はやっぱすごいな。
さて、俺は高いところから見てみようか。
自分の足元に魔法を使い、土の柱を天に伸ばす。
みるみるうちに視点が高くなり、周囲が見渡しやすくなった。
改めて見ると、凄まじい戦闘があったことがわかる。
レッサードラゴンの中に中型の重量級のやつが混じっている。
あの硬そうな装甲を貫けるくらいだから、現役時代のマンヴェンは高位の冒険者だったんだろう。
何が「ナカをやっちまって長時間は戦えない」だ。
思いっきり戦えてるじゃあないか。
お、よく見ると魔物の並び方でなんとなくどこで戦っていたかがわかるな。
あの辺から…あの辺までだ。
倒した魔物が邪魔になるから移動しながら戦ったのか。
どちらかの端っこが戦闘開始地点で、もう一方が終了地点だろう。
終了地点に何か手がかりがあればって感じか。
どっちだかはわからないか…
ん?
何か光るものがあるな。
魔法で土柱を元に戻して光るもののところに行く。
そこには小型のレッサードラゴンに刺さった長柄の武器があった。
…多分、マンヴェンのパルチザンだ。
そう直感した。
「よっ、と。」
引き抜いてみる。
やっぱりそうだ。
一振りして魔物の血を落とすと、大きな穂先が鈍く輝いて見える。
よく手入れされている槍だ。
しかしなぜこれがここに残されているんだ?
さっき安心していた分、強烈な違和感が襲ってくる。
こいつを撃破して、丸腰のままどうした?
…いいや、死んだとは限らない。
もし殺されたんなら遺体があるはずだ。
体が限界を迎えて丸腰のまま逃げたか?
あるいは…マンヴェンはここで敗北して、生きたまま連れ去られたとか、遺体を持ち返ったとか…?
なんにせよ情報が足りない。
「ごめんごめん、ちょっと離れすぎちゃった。お待たせイズミ。」
「フィネ。」
振り返ってフィネを見る。
俺と目が合ったフィネの顔が曇り、視線が顔から手に移った。
「え…それって…」
「マンヴェンのパルチザンだ。」
「ここにあったの?」
「ああ、魔物に刺さったままだった。」
「そっか。」
――ジャラリ…
フィネがズボンのサイドポケットから鎖の塊を出して地面に落とした。
ベルクスだ。
雑にポッケに入れるから使うときには毎回絡まりをほぐさなければならなくなっている。
俺は逆にスキル【武具収納】を発動してパルチザンをしまった。
「イズミ。アタシ見つけたんだ。魔物が逃げた足跡。」
「足跡?」
「うん。足跡に沿うように、微かに人間の臭いも感じた。行き先はあそこに見える森。」
フィネが指差す先の森を見る。
ここから見ただけでは特に変なところはない普通の森だ。
おそらくだが、マンヴェンは連れ去られたのだろう。
そんな気がする。
「そうか…数はわかるか?」
「4。大型が1、小型が3だと思う。」
「大型もここにいたんだな。D=ORN種の可能性が高いかね。」
「そうかも。」
支部長を待つべきだろうか。
あるいはほかのパーティを。
逃げたのは4体でも、逃げた先が群れになっている可能性がある。
「ねぇイズミ。」
「なんだ?」
「アタシ一人じゃあの森には入れない。絶対死ぬから。」
「……」
次の言葉を待つ。
「でもモンヴァンがあの森にいるってアタシの勘が言ってるの。」
「フィネ、俺、やっと今朝のフィネの気持ちがわかったよ。」
「え?」
「今朝のこと。ユリアナの頼みの話だ。俺、不安だったんだよ。フィネになんて話そうか迷ってた。」
フィネの表情が変わる。
ハッとしたように。
「ねぇイズミ。」
「なんだ?」
「マンヴェンを助けたい! 一緒に来て!!」
「はいよ!」




