捜索と救出①
「はよー!」
起きて早々に出る準備を始めていたら、フィネが起きてきた。
両の手を揚げて部屋に入ってくる。
元気そうだ。
「おはよう。調子は良さそうだな。」
「完っ全っ回復! にひ。」
「昨日ユリアナがフィネの部屋に行ったみたいだけど、気付いた?」
「ほぇ、全然?」
きょとんとした顔で首を振る。
昨日とは打って変わって表情がころころ変わるが、その方がフィネらしいな。
さて、あまり時間もないし、本題に入ろう。
「やっぱ寝てたよな。手短に伝えるぞ。」
「うん…なーに?」
「昨日、ギルド前で聞いたレッサードラゴンの件で、ユリアナが頼みがあるって言いに来た。あのあと派遣された調査隊が帰ってこなかったなったらしい。その調査隊の指揮を執っていたのがマンヴェンで、今日捜索を出すから参加してくれって。ユリアナ、休憩もなく働いていたみたいで疲弊しきった顔をしていたよ。」
話しているうちに、フィネからみるみると表情が消えていった。
「…で、なんて答えたの?」
怒鳴られる覚悟をして返事をする。
「朝イチでギルドに行く、だ。」
「それは…アタシと話してないから、回答を保留したってこと?」
首を傾げるが、無表情に近いままだ。
心臓の拍動が速くなっていくのを感じる。
変な汗も出てきた。
「いや、もしフィネが来てくれなくて俺一人でも参加するって意味だよ。」
「…そっか!」
にかっ! とフィネが笑う。
「だったらいいよ! びっくりしたぁ。最初から『モンヴァンを助けに行くから出発の準備しろ』って言えばいいのに。」
「勝手に決めたから怒ると思って。」
「えー?友達助けるのは当たり前じゃん。もし断ってたら激怒りだけど。」
安心した。
フィネはやっぱり良いやつだ。
「じゃあ改めて。フィネ、行方不明のマンヴェンを助けたい。一緒に来てくれ。」
「はいよ!」
ギルドに着くとすぐにユリアナが声をかけてくれた。
あまり元気そうではない。
「イズミさん。アドルフィンさん。」
「おはようユリアナ。フィネも快く受けてくれたよ。」
「にっ!」
「お二人ともありがとうございます。まずは打ち合わせがありますのでこちらへ。」
ユリアナの案内に付いて行く。
歩きながらユリアナが話し始めた。
「昨日の夜、調査隊の大部分が帰還しました。」
「…大部分か。」
「はい。調査隊はレッサードラゴンの群れに遭遇したそうです。戦えるような数ではなかったので、マンヴェンさんの号令で散り散りに逃走を図り、みなさんバラバラの時間に帰ってきました。」
ユリアナが扉の前で止まった。
この部屋で打ち合わせをするんだろう。
だが、扉を開けずに話し続ける。
「そのとき、マンヴェンさんが敵を引きつけてくれたそうで、マンヴェンさんを除く全員が帰還しました。帰還者の有志の協力で朝まで警戒を続けましたが、ここまでやってくるレッサードラゴンはいませんでした。でも、マンヴェンさんはまだ戻っていません。昨日からの進展は以上です。」
ユリアナが扉を引く。
先に入れと促されたので二人で中に入る。
会議室のような部屋だ。
「あれ、アドルフィン?…と、イズミ。どうしたの?」
アニーだ。隣にジャックと、もう一人知らない男が座っている。
別の席には腕組みをした男が一人。俺たちには興味がないのか、目を閉じている。
「お二人は私が特任推薦しました。」
ユリアナが先に答えてくれた。
「へー…なんか特殊スキルでもあるの?」
「いえ、戦闘能力での推薦です。」
「ふぅん…?」
「ランクは?」
アニーの隣の男が言う。
ユリアナが答えに詰まったので俺が答える。
「Fだ。」
「は?」
「新米でな。だがレッサードラゴンの討伐経験はあるぞ。」
「…は?」
「ユリアナ、それホントかい?」
アニーがユリアナに向かって聞く。
「…はい。D-REX種の討伐をされています。」
腕組み男がピクリと動いた。顔の向きを変えず片目でこちらを一瞥する。
「そん…!」
「ユリアナが言うなら本当だろ。」
アニーが隣の男を制して言った。
それ以上は文句がなさそうなのでフィネと席に着く。
少し待つと次のパーティが入ってきた。
4人組の男だ。
アニーたちとあいさつをしているが、フィネが声をかける様子はない。知らないパーティなのだろうか。
――ガチャ。
俺たちが入ってきたのとは反対側にあるドアが開いて、誰か入ってきた。
髭が猪の牙のようにそそり立った男。
支部長だ。
名前は確か、ゲオルグ。
「集まったみたいだな。協力、感謝する。」
ゲオルグが胸の前で拳と手の平を合わせた。
パンッ!という乾いた音が部屋に響く。
「前置きは以上だ。早速状況を説明するぞ。」
そう言いながら椅子に座った。
短い挨拶だな。
合理的とも言う。
「昨日、諸君に依頼した時点から状況が変わった。調査隊の指揮者を除き、全員が夜のうちに帰還した。指揮者はまだ帰っていない。」
「じゃあ何があったかわかったってことか?」
4人組パーティのうちの一人が口を挟む。
ここで初めて腕組み男が口を開いた。
「わかりきったことを聞くなよボウズ。」
「あ?」
「ゲオルグ、続けてくれ。」
腕組み男は無視してゲオルグに続きを促した。
まぁ、ちゃちゃを入れるなってのには俺も同感だ。
「調査隊は昨日一日かけて周辺調査をしたが痕跡すら見つけられず、一度帰還しようってところで、小型のレッサードラゴンの群れの襲撃を受けたそうだ。見通しが良いところだったから早期に発見できたのが幸いして、隊員の逃走はうまくいった。その時、指揮者が魔物を引きつけたらしい。だから依頼内容を変更したい。指揮者の救出だ。指揮者の名前はマンヴェン。裏門の番兵をしている男だから皆知っているだろう。」
捜索ではなく救出か。
腕組み男が同じことを思ったらしく、直接聞いてくれた。
「捜索じゃないのか?」
「実質的には捜索に近い。帰還した調査隊の者たちは、魔物を町に連れてくることがないよう、かなり迂回してきている。だから到着が夜になったわけだ。マンヴェンも同様に迂回しているだけの可能性が高いが、それならそれでいい。」
「ゲオルグ。」
「だが、まだ戻っていないということは負傷している可能性もある。どこかに一時的に…」
「ゲオルグ!」
腕組みがゲオルグの名を呼んで話を止めた。
彼はゲオルグを真っ直ぐ見て言った。
「……生きていると思うか?」
「ああ、彼とは旧知でね。マンヴェンは絶対に生きている。絶対絶命のピンチでも生き残るのがマンヴェンという男なんだ。」
「わかった。」
迷いのない返答。
腕組み男もあっさり引き下がる。
希望的観測のようにも聞こえたが、ゲオルグなりに確信があるのかもしれない。
生きている可能性が高いのは歓迎だ。
「それじゃあ、遅くなったが各々の名前くらいは確認しよう。おれはゲオルグ・ランゲ、冒険者ギルド、オーベルン支部長だ。では順に。」
ゲオルグがジャックに促す。
「…ジャック。」
「あたしはアンネ。隣共々ランクはC、よろしく。」
「ダニエルだ。」
次は4人組だ。
「同じくランクCパーティ、バールートの風だ。おれらはチーム単位で動くから個人名は省略な。」
冒険者とはいえ、随分な言い草だ。
名前くらい名乗ってもいいだろうに。
だが、誰も文句を言わなかった。
となると次は俺たちの順番だ。
「アドルフィン。」
「俺はイズミだ。よろしく。」
フィネも淡白な自己紹介だ。
そして腕組み男。
「グンター、双剣士、ランクはB、よろしく。」
ランクB!
この中では一番の手練れか。
偉そうにしているのも頷けるな。
「よし、これで全員だ。」
ゲオルグが立ちながら言う。
「現場は見通しが良い。諸君は小型のレッサードラゴンに後れを取ることはないと思うから、基本はパーティ単位で行動とする。ただし、群れを発見した場合は他のパーティとの合流を優先すること。調査隊がレッサードラゴンの群れと遭遇した場所を示した地図を今から配るから、各自そこに一度行って、そこからマンヴェンを探し始めてくれ。他のパーティを待つ必要はない。以上!」
「「おう!!」」




