新しい朝と新しい武器③
「んー、そうですねぇ…うん!75点!!」
「うぇっ?」
思ったより低い。
情けない声が出てしまった。
「だってこれって材料は鋼ですよねぇ。ミスリルにしてください。」
「ミスリルか…」
名前は知ってるが、どんな金属だか知らないんだよな。
ミスリル製の武具も見たことがないし。
「イズミさんならスキルでちょちょいですよね?」
「いや、見たこともない金属は無理だ。しっかりイメージできないとならない。」
「えぇー。」
まぁ、買って入手するしかないな。
「フィネ、ミスリルってどこで売ってるか知らないか?」
「あー…州都に行けばあるだろうけど、ミスリルダガーですら金貨500枚くらいの値段するから買えないと思うよ。ぁ、500枚は言いすぎかもだけど。でもめっちゃ高いイメージ。」
「…無理だな。」
「えー、嫌です嫌です。ミスリルで作ってくーだーさーいー。」
ハルミゥクが騒ぎ出す。精霊ってこんなに奔放だったのか。
「そうは言ってもな、手に入れられないもんはしょうがないだろ。」
「えー、なんでですか?」
「話聞いてただろ。高すぎるんだよ。」
「人間の価値観なんてわかりませんよぅ。だったら特別にわたしが用意してあげますから。」
ハルミゥクが近くの岩に触れた。
「はい、この岩の内部をミスリル鉱石に変成させました。ちょっと雑にやっちゃったので【精錬】使って取り出してください。」
岩をミスリル鉱石に変えた!?
そんなんことが可能なのか?
外見上は変化がないが、もし本当なら、彼女の言うとおり【精錬】を使えばミスリルのインゴットが取り出せるはずだ。
しかし俺がスキル【精錬】を持っていることは言ってないよな。ハルミゥクは俺のスキルを完全に把握しているような物言いをしているが、精霊ってそんなことまでわかるのだろうか。
ちなみに【精錬】は【達人鍛冶】の内在スキルで、金属から不純物を取り除いたり、岩石から特定の金属を取り出すことができる。これは対象金属の名前さえわかれば使用可能なスキルである反面、その岩石に目的の金属が含まれていなければならない。だから当然、金や銀を容易く得たりはできない。
「……」
岩に手を伸ばし、そっと触れる。
対象はミスリルだ。
「…精錬。」
パアッと光が立ち、ミスリルが…大量に流れ出てくる。
思ったより地中部分が大きい岩だったようだ。
ランスを全部ミスリルで作っても余りそうなほどの量になった。
フィネが怖がって飛び退いている。
「おー、まぁまぁの量になりましたね。」
「いや、物凄い量だろう、これは。」
「そうですか?でも足りないよりはいいですよ。さ、スキルでランスを作り直してください。」
言われるがままミスリルに触れる。【創剣】のときのイメージは残っているし、実物も見えるところにある。スキル【鍛冶】を使えば簡単にコピーできるに違いない。
「…鍛冶。」
ミスリルが光ったかと思うと形を変えていき、全ミスリル製のランスが出来上がった。
土色にめっきした『イイズナ』とは異なり銀色に光っている。
「えー?色付けてくださいよぅ。」
「わかったわかった。鍛冶!」
『イイズナ』に施していためっきを新しいランスに移した。
「イズミさーん、最後の注文です。この石突は輪っかにしてください。」
「輪?」
「はい。ランスに石突なんていりませんよね?」
「まぁそうだが…鍛冶。」
柄の先を変化させて輪に変えた。
「きゃー!かんっぺき!!超かわいいです!」
ハルミゥクが空中で踊り出した。
いささか注文が多かったが、やっと満足してくれたようだ。
「イズミイズミ。」
いつのまにか隣にいたフィネが耳打ちをしてくる。
「ん、どうした?」
「その余ったミスリル、【鍛冶】で適当な武器にして【武具収納】でしまっといてよ。あとで売ろ。」
「あざといな。」
思わずにやける。そういうところは嫌いじゃない。
【鍛冶】を発動してミスリルをロッドにし、【武具収納】で片づけた。
「イズミさん!!」
「はいっ!」
やば、勝手にミスリルを使ったらまずかったか?
「名前はどうします?」
「…名前?」
「そう、このランスの名前です。」
キリッとした顔で聞いてくる。
ごく真面目な相談のようだ。
「鋼で作った方には『イイズナ』って名前を付けてたんだけど。」
「…良い砂?」
「俺の故郷にそんな名前の動物がいるんだよ。イタチの仲間で、こいつに似てるところがあるんだ。」
「イタチ……そのイイズナ?は、かわいいですか?」
「かわいいよ。」
「んふっ」
ハルミゥクがにやける。
「では『イイズナ』に決定です!やっぱイズミさん、わたしのこと大好きなんですねぇぇ。」
正直に言おう。
口には出せないが、心の中でなら大声で言おう。
イラッとしたぞ!
「イズミ…」
フィネが同情するような目で俺を見る。
俺の気持ちを察してくれているようだ。
「それじゃあイズミさん、『イイズナ』を持って。」
「わかった。」
再び『イイズナ』を持つ。
そういえば軽く持ててしまった。ミスリルは鋼より随分と軽いらしい。
「手を出してください。」
「手?」
左手を前に出す。
「そうじゃなく、こう。わたしと手を合わせるんです。」
言われたとおりにする。と、ハルミゥクが何か唱え出した。
『我は大地。ここにあって遥か深きもの。万物の根源であり地上の母。父は天下になく、天にこそある。天は大なり、地は大なり、貴公もまた大なり。我、貴公と等しく共にあることをここに約せん。』
――ファァ…
ハルミゥクと俺の左手、そして『イイズナ』が輝いた。
数秒かけて光が消えていく。
『ふふっ』
目の前のハルミゥクが微笑んだ。
こうして見るとやっぱり美人だ。
精霊というだけあると思う。
「あれっ、ハルミゥク消えた?」
フィネが言った。
俺には見えているが、フィネには見えなくなったようだ。
おそらくもう声も聴けなくなったことだろう。
『イズミ様、ハルミゥクはあなたの武器になりました。イズミ様の求めに応じて働きますので、これからもよろしくお願いします。詳しくはあとでジョブカード確認してみてくださいね。あ、また魔力がなくなったのでおやすみしますけど、実体化すればアドルフィンさんにも会えますのでご安心ください。でも3日くらいは寝かせてくださいねー。』
そこまで言ってハルミゥクが消えた。
いや、武器に還ったと言うべきか。
「また魔力切れだってさ。実体化すればまた会えるから安心しろだってよ。」
「ほぉー…そりゃ安心だね。アタシ的にはそんなでも…ま、もし二度と会えないって言われたら寂しい気もするから良いか。」
「ん、それはどういう意味だ?」
「気にしないで。それでそれで、『イイズナ』はどう変わったの?」
「ちょっと待って。詳しくはジョブカード確認しろって言われたんだ。」
ジョブカードを取り出し、『オープン』と唱える。
【イズミ】
冒険者ランク F
武装支配者
レベル33
ステータス
筋力 337
防護 218
敏捷 262
魔力 X
天運 260
スキル
天賦の才(剣術lv8、槍術lv3、鎚師lv5、投擲lv3、操鎖lv1)
達人鍛冶(精錬、抽出、鍛冶、創剣、武器強化、武器劣化、
属性付与、精霊付与*new、武具収納、武霊解放*new)
ステータスに変化はないが、スキル【達人鍛冶】に【精霊付与】と【武霊解放】が追加されている。
詳細を確認しよう。なになに…
【精霊付与】:武具に精霊を宿す。精霊との交渉が必要。
【武霊解放】:武器に宿る精霊の力を全開放し、一時的に強い力を発揮する。
なるほど。
ハルミゥクが『イイズナ』に宿ったことで2つの新スキルが発現したようだ。
【達人鍛冶】の内在スキルになったということは、元々【達人鍛冶】のいちスキルとして存在していたってことだよな…。
「お待たせフィネ。武器に宿る精霊の力を解放して強い力を発揮するってスキルが発現したよ。」
「もしかして、昨日の化物スケルトン倒したような感じ…?」
フィネの顔が引きつる。
「いや、それはもう使えないってハルミゥク本人が言ってたし、違うんじゃないか?でも強そうなスキルだよな。すぐにでも試してみたい。」
「魔物探す?」
「そうしたいけど、ハルミゥクが3日は起こすなって言ってる。今日はここまでかな。」
「りょーかい。じゃあ帰ろっか。なんかアタシ体がだるいんだよねー。」
「ん、風邪か?」
「そういうのじゃなくて、筋肉痛までいかないけど全身重いみたいな。」
今朝もかなり眠そうだったし、肉体の回復が必要なのかもしれない。
「オーケー、帰ろう。」




