髑髏窟⑨
「精霊術師でもないのに精霊と話すわ力を貸してもらえるわ…イズミはホント規格外よね。さっきのでかいヤバいの消し飛ばしたのもハルミゥクの力?」
「ああ、『加護』だそうだ。もうできそうにないって言ってたな。」
「よくわかんないけど、むしろ良かったよー。今日でちょっとは追いついたかと思ってたのに、実は素であんなことできるんですーなんて言われたらアタシ立つ瀬ないし。」
「無理無理。あの化物見たときゃ俺だって焦ってたよ。」
「へー、本当かなぁ?」
「本当だって。」
「にしし、今の方が焦ってそう。さぁさぁ戻りますか。ルイとアランとダンが待ってるよ。」
フィネが頭の後ろで手を組んで頭を預けながら歩く。
俺も後を付いて行きながらスキル【武具収納】を発動し、『スサノオ』を収納して『ツキノワ』を取り出した。
扉を見ると、防御魔法はもう解けているようだ。
フィネが扉を引く。
「あ、アドルフィンさん!」
「おかえり。倒せたんだろ、ボス?」
女性と男性の声。ルイと、多分アランだ。
「らくしょーらくしょー!見てよこれ。」
俺も部屋を出る。
さっそくフィネが魔石を自慢していた。
「ちょっと心配してたんだぜ。扉開かなくなるし。」
ダンが俺に近付いて言った。
「ああ、ボスが魔法を使って閉めちまったんだよ。」
「スケルトンが!?魔法を使うスケルトンなんて聞いたことがありませんわよ。」
ルイが驚いている。
やっぱりそういうイメージだよな。
「ルイ、やっぱオレたちにボスは無理だな。」
「そうね…。」
「まだ無理だな。でもこの先はわからないからな。」
ダンがアランとルイに言う。
良い励まし方だと思った。
そのあとは5人で髑髏窟の入口の詰所まで戻った。
もう夕方になっていたが、詰所の男の今日最後の見張りに間に合い、門を出ることができた。
「確認だ。中に入れ。」
男はそう言って先に詰所に入っていく。
「あの方、無愛想すぎません?」
「そぉ?普通じゃない?」
ルイが言ってフィネが答える。
「ダンもルイに会う前はあんなだったよな。」
「アラン!余計なこと言うな!」
「はは、悪い悪い。」
髑髏窟を出て安心したのか、さっきまでは気を張っていた男2人も軽口を叩き始めた。
詰所に入ると、椅子はしっかり5脚用意されていた。
テーブルを挟んで男を囲うように座る。
――コン。
それぞれの前にカップが置かれていく。
「水だ。茶なんてないからな。」
今朝も全く同じ台詞を言ってた気がするな。
男は次に巻紙を広げて羽ペンを取る。
「名前は?」
「オレはダン。順にアラン、ルイ、アドルフィン、イズミだ。」
ダンがまとめて答えてくれた。
男が俺たちの名前に取り消し線を引いていく。
「どこまで進んだ?」
「大斧は倒した。そのあとしくじって大広間の前で休んでいたが、進度で言うなら大斧までだ。」
「そっちは?」
男が俺を見る。
「大広間のボスを倒して帰ってきた。」
「冗談はやめろ。こいつは正式な聴取だ。冗談でも虚偽とみなされるぞ。」
Fランク冒険者がボスとか言っても信じないか。
アランが顔の前に手を上げる。
「いいや、イズミが言ってることは真実だ。オレたちが保証する。」
「あ?」
「この2人は、大広間に入って、そして出てきた。ボスとの戦闘は見ていないが、これだけでボスを倒した証明になるだろ。」
男が鼻に触れる。
少し考えているようだ。
「……ボスの特徴は?」
「人型だが、頭蓋骨は鹿のようで、でかい角が生えていた。左右でデザインの違う大剣の二刀流で、あとはそうだな、急所骨が4か所あった。」
「チッ、だったらFランクって方が嘘か?」
「Fランク!?」
アランが驚きの声を上げた。
ダンとルイもバッと首を向ける。
そういう反応になるか…。
ふむ、名前とランクだけを表示してジョブカード見せれば証明になるな。
カードを取り出して『オープン』と唱え、テーブルに置いた。
【イズミ】
冒険者ランク F
「ほら、Fだろ。」
「えええ!?あんなにお強いのになぜですの!?」
「まだ依頼達成数が足りてないんだよ。」
「…櫓から降りるとき、一昨日冒険者になったばかりって言ってたのは本当だったのか。」
男が手元の紙を巻きながら言った。
「アドルフィンさんもそうなんですの?」
「え?うーん…そうではあるけど、アタシの場合は冒険者登録しないでずっと冒険者ギルドに納品だけしてたんだよ。レベル15で初めて登録してランクGスタートってこと。」
「ああ、そういうこと。」
「だったらさっさと数こなしてDランクまで上げとけよ。」
ダンが言う。
うむ、毎度こんなに騒がれることになるならランクは上げておいた方がいいな。
「ああ、明日から頑張るよ。」
おもむろに、詰所の男が立ち上がった。
「で、お前ら、もうすぐ日が沈むがどうするんだ?ここに泊まるなら有料だぞ。」
「泊まれるのか?」
アランが聞く。
「ベッドは4つ。だが男女同室は禁止されてるから、女2人が中、おれを含めた4人が外だな。この辺に魔物が来ることはまずないから、見張りなしで野宿しても問題はない。」
「1泊いくら?」
「中でも外でも一人銀貨2枚。当然、飯もない。」
「外でも?」
「ああ。文句があるなら森に向かえ。」
「わかったよ。払う。アドルフィンたちはどうする?」
「アタシはどっちでも。まだ昨日野宿した丘までは行けそうだし。」
「いいよ、フィネ、泊まって行こう。」
今日だけでかなり疲れただろう。
敏感モードは使わずに寝た方がいい。
「おっけー。じゃあほい。」
フィネが銀貨をテーブルに置く。
それにならって俺たちも銀貨を置いた。
朝日を浴びて目を覚ました。
稜線から昇る太陽が神々しい。
頭上から木の軋む音が聞こえた。
一人だけ櫓の上で寝ていた詰所の男が下りてきたようだ。
「おはようさん。」
「…ああ。」
変わらずの無愛想に少し笑ってしまう。
「なんだ?」
「なんでもない。そういやアンタ、名前はなんて言うんだ?」
「…マグラクラザル。」
「マグラ…どこで区切るんだ?」
「名前だけでマグラクラザルだ。」
「かっこいい名前だな、マグラクラザル。フルネームは?」
「…セティトラコ・マグラクラザル・ヘルケプタハ。」
舌を噛みそうな名前だ。
号も姓もあるのなら貴族か何かの出身なのだろうか。
まぁ詮索はしないほうがいいか。
「良い響きだが、悪いが覚えられそうにない。マグラクラザルって呼んでいいか?」
「好きにしろ。」
そう言ってマグラクラザルは詰所の脇の井戸から水を汲み始めた。
「2人とも、今回は本当に助かったよ。改めて礼を言う。」
ダンが頭を下げた。
「いいって。なぁ、フィネ。」
「うんうん。」
3人はロトバイルを拠点にしているらしく、帰り道が違うからここでお別れだ。
「もしロトバイルに来ることがあったらギルドに寄ってくれよ。ルイが休みで依頼にかかってない日もオレたちはギルドでだらだらしてるから。」
「休み?」
「ええ、私は月に10日間は師の下で修業しているんです。」
「はぁ~、そうなんだ、めんど…あ、なんでもない。」
「ふふ、そんなことはありませんよ。私の師は偉大なお方ですから、身になることばかりですので。」
「あ、もしかして昨夜言ってた人?」
「ええ。」
「へぇ~…師匠だったんだ?」
フィネが悪い顔でにやにやしている。
夜の女子トークで何か聞いたんだろうが、俺やダンたちが聞くのは野暮なんだろうな。
「さ、さぁ、フィネさん!そろそろ出発しないと帰りが遅くなってしまいますわよ。」
「そうだね、うんうん。イズミ、行こっか。」
何か満足げなフィネ。
「じゃあな、ダン、ルイ、アラン。」
「ええ、お気を付けて。」
「「じゃあな!」」
男二人が同時に言った。
本当に仲が良い。
フィネと2人、早歩きでも丸一日かかり、オーベルンに着いたのは日が落ちたあとになった。




