髑髏窟⑦
鹿野郎に向き直る。
大剣を握ったままの拳をこちらに向け、もう逃げられないぞと言わんばかりのポーズを取っている。
骨だから表情はないが、ふんぞり返るように斜めに顎を上げた首が鼻につく。
さっき放ったフレイムダガーは掻き消されたのか、もう消えていた。
あるいは命中したが全く効いていないのか。
「ちょっとまじめに相手してやるよ。」
アイシクルを撃ちこもう。
アイシクルは訓練に訓練を重ねた結果、一瞬でイメージを構築して即撃ちできるようになっているが、無詠唱で放てる氷柱は6本までだ。
なので頭の中でしっかりとイメージを展開する。氷柱を増やすだけ。そう難しいことではない。
「アイシクル。」
パキパキと言う音と共に俺の周りに20本の氷柱が形成された。
手をスッと前に出す。
魔法発動には必要のない動作だが、敵の挑発への意趣返しにはなるだろう。
「指一本だ。」
人差し指を少しだけ動かし、これに合わせて氷柱を一斉に放つ。
――ガシャァン!
ロースリッシュが大剣を横振りすると氷柱が破壊され、ガラス窓を割ったような音が鳴った。
だが、防げたのは一部だけで、肩と下半身に数本突き刺さっている。
「アイシクル。」
もう一度。
今度は30本。
――ガシャァァン!
流石にもう通用しないか。
大剣2本でうまく捌かれてしまった。
相手も苛立ったのか、こちらに突進してくる。
『スサノオ』を構えて俺も前に進む。
――ブォン!
敵の横薙ぎを姿勢を下げて回避。
そのまま脚の横を通り抜けざまに弱点を探す。
色の違う骨―ルイたちは急所骨って言ってたな―をまずひとつ発見。右膝の皿だ。明らかに黒い。
「カァァァ!」
ロースリッシュが振り向きながらまた横薙ぎ。
体勢を整えるため大きく跳んでかわす。
「うげ。」
人間なら関節が壊れるようなところまで腕が曲がっている。
距離を取って良かった。
ギリギリで回避していたら動揺して次の一撃をもらっていたかもしれない。
さて、と。
「アイシクル!」
目くらましの氷柱を2本、鹿頭めがけて放つ。と、同時に踏み出す。
――ギン!
ロースリッシュは俺の目論見どおり剣で氷柱を防いだ。
隙だらけの右膝を『スサノオ』で砕いてやる。
「コァァァァ!」
間を置かず大剣2本の振り下ろし。
飛び退いてよける。
急所骨を1つ破壊したのにダメージを受けた素振りすら見せない。
少しくらいよろけても良さそうなのだが。
――ジャラジャラジャラ…ガァン!
鎖の音と砕ける音。
フィネが仕掛けたようだ。
鎖の先は…背骨か肩甲骨だろうか。
「イズミ!左手の薬指!」
左薬指…?
急所骨があるのだろうが、見てもわからない。
とりあえずロースリッシュがフィネを攻撃しそうなので斬り込む。
――ガン!
隙だらけだ、と思ったのだが、剣で防がれた。
すぐさまもう1本の大剣が襲ってくる。
今度は俺が防御する。ついでに薬指をよく見てみると、指先から2本目の骨の色が黒くなっている。
「そんな細かい骨まで…っと!」
次の攻撃が来る。
二刀流による隙のない連撃だ。
しかも並みの魔物より力が強く、一撃一撃が重い。
とはいえ太刀筋そのものは単調で、防御に徹すれば大した問題にはならない。
しかし薬指の破壊は『スサノオ』では難しそうだ。
「そのままあと10秒耐えて!」
フィネから指示。
打ち合い中に10秒とはなかなかひどい注文だ。
「了解!」
引き続き連撃を捌く。
7合、8合と受け流していくうちに、段々と慣れが出てきた。
多分やり返せるな…。
フィネからオッケー出たら反撃するか。
――コォン。
自分の打ち合いの音とは別の音が上の方で鳴った。
ロースリッシュの頭の辺りからかな。
「イズミ、オッケー!あと多分薬指だけだからよろしくぅ!」
だから注文がひどいって。
敵の右の大剣を大きめに弾く。
そして間合いに踏み込んで左腕に真下から斬り上げ。
――ザッ
人間で言う肘の位置を斬ってやると、腕が回転しながら落下を始めた。
間髪入れず拳に向かって『スサノオ』を叩きつける。
薬指ピンポイントは難しいので、ひとまずバラバラにしてやろう。
左前腕が剣を落として吹っ飛んでいく。
「フィネ!止めを頼む!」
俺は次の攻撃に備えなければ。
まだ右腕は健在だ。
「コォォォ……」
…と、思ったがロースリッシュが砂になっていく。
さっきの一撃で急所骨も破壊できたのか。
「ふぅ~…」
剣を下ろして深呼吸する。
後ろからフィネの足音が近づいてきた。
「自分で止め刺しておいてアタシに何させようっての。」
からからと笑っている。
「適当に当てたから薬指破壊できてないだろうと思ったんだよ。しっかし小さい骨が弱点だと面倒だな。」
「そだね。見つけ切るのに結構時間かかっちゃった。その間の抑えどうもね!」
「おう。他の急所骨はどこにあったんだ?」
フィネがニッと笑って口を指差す。
「肩甲骨と歯。イズミが膝やったから全部で4つかな。」
「歯!?そりゃきついな。」
「だね。でもこれ見てよ。」
フィネが小石を見せてくる。
青っぽい色の普通の石…いや、魔力を帯びているように感じる。
「それ魔石か?」
「多分!アタシわかんないけど。」
魔石を受け取る。
魔力はそこまで強くないが、魔石としてはサイズが大きい。
「ああ、魔石だ。ステイナドラーの相場はわからんが、そこそこ高値で売れると思うぞ。」
「お、やったぜ!」
フィネに魔石を返し、ポーチに入れてもらう。
「てかさ、なんか扉閉まってるよね?」
「ああ、ボスが魔法使って閉鎖しちまってな。想定外だわ。」
「ほっほう、スケルトンも魔法使うんだね…でも戦闘中は使ってこなかったよね?」
「そういえばそうだな。…ん?」
扉を見るとまだ防御魔法がかかったままだ。
術者を倒しても消えていないなら、時間経過が必要な型なのだろうか。
まぁ集中する余裕があれば俺の魔法で破壊することはできるだろう。
「あ、イズミ、真ん中のあれが光ってるよ。」
「ホントだ。」
大広間の中央の石筍のようなものが光を発している。
2人で近寄ってみると、腰丈くらいの石柱が地面から伸びていた。
先端に拳大の水晶みたいな透明な石が嵌められており、それが光っているようだ。
―ァサイ…―
「ん、なに?」
「え?」
「あれ、今なんか言わなかった?」
「なんも?あ、ここに頭に触れって書いてあるよ。」
フィネが石柱の側面を差す。
“頭に触れ”と書いてあった。
「本当だな。光ってるところに触ればいいのか?」
「かな?」
フィネが石に手を伸ばす。
『待って待って!触っちゃダメです!』
「フィネ!ストップ!」
「え?」
今「触っちゃだめ」という声が聞こえた。
「誰かいるのか?」
『え!?聞こえてる!?おーい!』
くぐもったような中性的な声が聞こえるが、どこから声がしているかがよくわからない。
これだけ広ければ反響ってことではないだろうが…。
「聞こえてるぞ。だがどこにいるかがわからない。」
『目の前です!人工魔石の中!』
人工魔石?
「それはこの光ってる水晶みたいな石のことか?」
『ですです!わたしはその中にいます!』
「イズミ?」
「うん?」
「あー…っと、今誰かと喋ってる?」
「……っ。」
フィネが変な奴を見る顔をしているから察した。
この声は俺にしか聞こえていないらしい。




