髑髏窟⑤
――シャラシャラシャラ…
流れるような鎖の音が洞窟内に反響する。
フィネのベルクスだ。
さっきから一体のスケルトンにかかりきりになっている。
骨に装甲のようなものが張られている個体で、打撃が通じていない。
その上、黒い霧を纏っているので弱点が見つけられないようだ。
だからベルクスで装甲の隙間に鉄球を打ち込んでいるが、有効打には至っていない。
「あー!あー!なんなのこいつぅ!」
フィネがいらだちを露わにする。
俺はせめて邪魔が入らないようにと、周りの雑魚を掃除している。
まぁ、もはや雑魚とは言ってられないくらいの敵が出現し始めているが。
――バキャッ
フィネの方から鈍い音が聞こえた。
見ると、黒霧スケルトンが崩れ始めていた。
「っしゃー!!」
フィネが空中でガッツポーズを取ったあと、鎖を引きながら華麗に着地する。
あれだけ自在に鎖を操れると格好いいな。
「おつかれ。」
「イズミもサポートありがとー。」
「ちょっと休憩しようか。」
「うん。」
フィネが肩の力を抜いて目を閉じた。立ったままだ。
周囲のスケルトンを散らしてあるので数分は休めるだろう。
遠くのやつも徐々にこちらに近づいてきているし、すぐにまた新たな個体が地面から出現してくるので注意は必要だが。
俺たちが話すのをやめたから周囲が静寂に包まれている。
上を見上げてみるとやはり天井が光っている。
なんとなくだが、この洞窟は奥に行くほど明るくなっている気もしていた。
――ェェ…
…ん?
今一瞬、人の声が聞こえた気がする。
「イズミ、なんか声聞こえなかった?」
フィネにも聞こえたようだ。
「ああ、かすかにだけど。奥の方だよな?」
「だね。ボス部屋までどのくらいあるかわかんないし、一回引き返す?」
「え、なんでだ?」
「狩場かぶりでトラブっても嫌だし。」
「いや…」
詰所の男が言っていた先客ではないだろうか。
先に入ったのが一昨日の昼過ぎだから、丸二日も髑髏窟にいることになる。
ならば助けを呼んでいるのではないかと思う。
「助けが必要かもしれない。」
「うん?入口のおっさんに『助けろって意味じゃないんだろ』って確認したのイズミだよね。」
「そうだけど…探す気はなかったけど、見つけちゃったら助けたくなるのが人の性だろ。」
「お人好し。」
「う…」
「いいよ。それでアタシのことも助けてくれたんでしょ。」
フィネがいたずらっぽく笑った。
「か・わ・り・に、」
「うん。」
「こっからは半分お願い。そろそろキツくなってきたけど、人がいるなら解放は使いたくないからさ。」
「了解。」
「じゃあ再開しますか!」
言うやいなやフィネが駆けだした。スケルトンの群れに突っ込んでいく。
俺も同じペースで戦うとしよう。
ある程度近づくと人の声ははっきりと聞こえるようになった。
姿は見えないが、明確に「助けて」と叫んでいる。
こちらからも了解の合図を出したいところだが、大声を出すのは苦手だ。
「はぃさっ!ほっ!やっ!」
徐々にフィネの掛け声が増えている気がする。
おかげで苦戦しているかの判断がしやすくていいが。
――スタッ
フィネが俺の近くに着地した。
「イズミ。残り一気に行っちゃお。」
「了解。」
「あとさ、ファーストコンタクトはお願いね。ほら、アタシって人見知りだから。」
まったくそんなことはないと思うが、助けに行こうって言い出したのは俺だし素直に従うとしよう。
「了解。」
一気に、か。
ここまではほとんどのスケルトンを倒しながら来ているが、先行パーティのところに行くだけなら目の前の敵を散らすだけでよくなる。
深く息を吸って走り出す。
スケルトンたちが俺を攻撃しようと腕を動かすが、武器を振り上げきる前に攻撃を済ませる。
そういえばフィネが「色の違う骨が弱点」と言っていたが、これは本当だった。
弱点の部位はバラバラだが色は大半が赤で、そこを突けば骨が崩れ落ちる。
なので基本は斬撃よりも突きのほうが有効なのだとわかってきていた。
ただし、瞬時に弱点の場所がわからない場合は、武器を持った腕と背骨を一息に断ち切るのが良い。多くのスケルトンはそれで動かなくなった。
――ザッ。ガシャッ、ザバッ。
骨を断つ音は普通の斬撃音より鈍い。
一説には骨は鉄と同程度の硬さがあると聞いたこともあるが、鋼鉄製の俺の『ツキノワ』でなら、刃筋を立てさえすれば容易に断ち切ることができた。
「よっと!」
数えていなかったが、二十以上は倒しただろうか。
長い爪を付けたスケルトンの左鎖骨が青っぽいので貫く。
爪の横薙ぎを回避…しようとしたが、その前にそいつは崩れ去った。
これでやっとスケルトンの群れを抜けたようだ。
洞窟の横幅が不自然に細くなっており、そこに3人の男女と、その奥には扉が見える。
そういえばさっきから彼らの声を聞いていない。
流石に俺たちが彼らに気付いていること判断したのだろう。
後ろをフィネに任せてさっさと3人に近づく。
男が2人に女が1人だ。神妙な面持ちで俺を見ている。
「邪魔するよ。」
声をかける。
誰がリーダー格なのかは外見からは読み取れないな。
「先に確認したいんだが、この奥がボス部屋で、ここが休憩所で合ってるか?」
「あ、ああ。ここは安全地帯だ。」
男の1人が答えてくれた。
「お待たせ、っと。」
フィネが隣に来た。
まだ余裕があるように見える。
「ここは安全だってよ。」
「お、良かった。休憩だ~!」
そう言って地面に座り込む。
「えーっと、俺はイズミ、こっちはアドルフィン。冒険者だ。」
親指で順に指差して名乗ってみる。
さっき返事をくれた男は剣士のようだ。
剣は腰に佩いたままだが、盾を持っている。
「オレはダン。オレも冒険者で、ランクはDだ。」
もう一人の男――ダンが名乗る。
首から下を鎧で守っているが、フルプレートアーマーのようなガッチガチのものではなく、間接を動かしやすいように装甲を革で繋いだタイプの鎧だ。
武器は見当たらない。
「んで、こっちの剣士はアラン、魔術師がルイだ。」
ダンとアランとルイ。3人とも男性名だが女が一人いるパーティ。
詰所の男の話と一致する。
「あの…私たちの声は聞こえていました?」
ルイが言った。
「ああ、それが聞こえたから急いで来たんだ。返事できなくて悪かったよ。」
ルイとアランがほっとした顔になる。
ダンはまだ緊張したままのようだが。
「じゃあ助けてくれるのか?」
これはアランだ。
しかし違和感がある。
助けを求めている割に3人とも大きな負傷はしていないようだ。
「そのつもりで来たんだが、助けが必要そうには見えないな。」
「あ…魔力切れを起こしてしまって。それと、戦闘中に荷物も失って。」
ルイが答えた。
近接職は荷物を置いて戦うのがスタンダードだ。
俺のように鞄を背負ったまま戦う方が珍しい。
それはわかる。
しかし魔力切れだけで荷物を置いて逃げるほどの事態になるだろうか?
フィネも怪しさを感じているのか、座って休んでいる風に見せてはいるが、ピリピリとした気配を放っている。
「…それは災難だったな。水と食料なら分けてやれる。少し休んだら自力で戻れるか?」
「あ…」
ルイが困ったという顔をする。
思ったことが顔に出るタイプのようだ。
「助かるよ。でも、その…」
アランが言葉に詰まる。
まだ何かあるようだが…。
「ルイ、アラン、隠しても怪しいだけだ。えー、イズミ…だったよな?」
「ああ。」
「実はルイはジョブ特性で魔力の回復が異常に遅いんだ。オレたちはルイの攻撃魔法を軸にして連携するから、正直もう戻る力がない。イズミたちが帰還するときに同行させてもらえると助かる。」
なるほど。強力なスキル持ちはその代償としてマイナス効果のあるスキルが出現することがあるというのは聞いたことがある。まだ見たことはなかったが。
「証拠、見せてよ。」
フィネが静かに言った。
「…ああ。ルイ、ジョブカードを。」
「ええ。」
「該当箇所だけでいいよな?」
「いーよ。」
ルイが『オープン』と言ってジョブカードをこちらに向けた。




