ルイ・ガートゥ
私の名はルイ・ガートゥ。
異世界転生者ですわ。
3年前、地球から転生しましたの。
地球での名前は加藤 瑠依。
冒険者登録のとき、英国風にLouis Katouと名乗りましたらなぜかルイ・ガートゥと表記されたので以後そう名乗っています。
何の変哲もない名字ですけど、祖父には加藤嘉明の遠戚と言われて育ちました。
よく知りませんけど。
それよりも下の名前の方が問題ですわ。
西洋では男性に使われるんです。
中学校では男子からずっと14世と呼ばれていてこれが腹立たしかったこと。
…コホン。
異世界転生は大学からの帰り道で起こりました。
私が大学3年生のときは、世界的大不況が始まって就職活動がとっても厳しい年になっていましたのよ。
でも必死に頑張ってやっと内定をいただき、就活でかなり遅れてしまった卒業論文に勤しんでいた時期でした。
遅れたとはいえ、私は優秀な方ですから、研究の本体部分である理論分析から実証分析まではとうに終わっていました。ですが歴史的背景の文章化や語句の説明などを後回しにしていたので、その辺を大急ぎで書いていました。
それと参考文献の引用ページですわ。先輩……共同研究の相手が、参考文献の引用メモが入ったUSBメモリを失くしてしまって、作り直しになったんです。
もちろん引用した本は覚えていますけど、ページ数や筆者の名前、国家研究機関のレポートの掲載ホームページアドレスなどを調べ直すのが大変な作業になりましたし、地方自治体が発刊した冊子なんかはまた見せてもらいに行かなければなりませんもの。
ああ、思い出しただけでムカムカしてきましたわ。
あの先輩、私がいなければ卒論を完成させられずまた留年でしょうね。ざまぁないわ!
…いけないいけない、話が脱線してしまいましたね。
えーと、そう、遅れを取り戻すために夜中まで卒業論文を書いていたんですの。
そして帰り道、ハンバーガーショップで食事をしたあと、大型バスに轢かれてしまいました。
次に気が付いたときは知らない街でした。
汚れた石壁の路地で、治安の悪そうなところ。
私、パニックになって駆け出してしまいました。
そうしたら大きな通りに出て、今は恩師と仰ぐアルフォンソ・テルメス様と運命的な出会いを果たしましたの。
アルフォンソ様は高ランク冒険者で、凄腕の魔導師です。
まさに西洋人!という顔立ちなのですが、不思議なことになぜか言葉が通じました。
そして親切なアルフォンソ様は、困り果てていた私を助けてくださいまして、その上、魔法の師として様々な魔法を教えてくださりました。
そう!この世界では魔法が使えますのよ!
体の内側から湧き出る『魔力』という目に見えない力を使って、火を放ったり石の矢を射ったりできるのです。
基本的には、魔法の発動に必要なものは魔力と明確なイメージなんだそうです。
私は想像力が豊かな方ですから、アルフォンソ様から教わった魔法を次々と習得しましたわ。
でも、頭の中でイメージするのが難しい事象もあります。
例えば回復魔法ですわね。
傷を直接修復するものや自然治癒力を高めるものなんかがありますが、自然治癒力を高めるなどは、体の中で何がどう作用しているかがわからないので頭の中でのイメージができませんわよね。
そういうときのため、詠唱文とか呪文とかって言われるものがあります。
先人が魔力理論や経験則によって考案したもので、これを唱えることで勝手に魔力が制御されて、イメージできていなくても魔法が使えるのですわ。
ただし例外もあって、イメージも詠唱文も両方必要なものや、個人の才能が必要なものもあるそうです。まぁ私にはあまり関係のないことでしたけど。
そうそう、ジョブを確認したところ私も【大魔法師】という魔法職でした。
これがとんでもないジョブで、テレビゲームの裏技と言いますか、反則技みたいなスキルを備えておりましたの。
才能だけではアルフォンソ様を凌ぐとまで言われるほどに。
なにしろ、一度使ったことのある魔法は詠唱を省略して行使できるのです。しかも消費魔力は少なくなり、威力は上昇した状態で。
裏技と言いつつもちょっとしたリスクはあります。
自分が傷を負ってしまうと、代償スキルという悪い効果を生じるスキルが自動発動するのです。具体的には、傷がより大きな怪我になってしまうとか、血と一緒に魔力が流れ出てしまうとか、負傷中は消費魔力が3倍になるとか。
でもでも、怪我さえしなければいいのですわ。
私は後衛ですもの。前衛の方に守ってもらいながら戦えばずっと反則的な攻撃力で魔法を撃ちまくれます。
ですから私の新しい人生には希望が満ち溢れていました。
冒険者ランクもDになり、アルフォンソ様にやっとソロ活動を認めてもらえましたし。
もちろん前衛の方とパーティは組みますけれど、これからは自由に冒険者活動ができます。
でも、これがスタート地点だと思います。
そう、ここからが私の大冒険者物語の始まりですわ―
―と、思ってましたのに!!
「なぁ、ルイだけでも逃がせないかな?」
「無理に決まってんだろ。入口までスケルトンだらけの道を数時間だぞ。途中で3人とも無駄死にするだけだって。」
「だが、このままここにいても餓死するだけじゃないか。」
仲間のアランとダンが言い争っている。さっきからずっと。
原因は単純。私が怪我をしたせい。
ジョブ【大魔法師】の代償スキルで魔力が空っぽで、当面回復しないからだ。
「『だけ』じゃねぇよ。言っただろ、誰かがここに来るかもしれないって。」
「そうは言うけど、髑髏窟なんてマイナー狩場に都合よくDランク以上の冒険者が来るわけがない。週に1組来れば多い方って詰所の人も言ってたじゃないか。」
「だからってどうしようもないだろ。それに賭けるしか。昨日はお前も納得してたじゃねぇか、ダン!」
「だから丸一日待ったよ!だけどもう…」
怪我の理由も単純で、私の足元からスケルトンが出現したから。
『風刃』ですぐに排除すれば良かっただけなのに、スケルトンに脚を掴まれて体が固まってしまった。
私の悲鳴を聞いて仲間の二人が助けてくれたけど、流血と共にほとんどの魔力が流れ出ていった。
「3人生き残るのは無理でも、ルイだけでも逃がしたいんだ。必死で戦えば1人くらい…」
「ルイが怪我してから必死に戦ってやっとここまでだっただろうが!」
「ごめんなさい二人とも。私のせいで。」
「「お前のせいじゃねーよ!!」」
二人が声を揃えて言った。
いいえ、間違いなく私のせい。
ボスのいる大広間が近かったから前に進むことにして、お荷物の私を守ってもらいながら戦ったけど、メインの攻撃手段の魔法がなければすぐに囲まれてしまう。
命からがら大広間の扉の前の安全地帯までは来れたけど、途中で荷物も失ってしまった。
つまり、水も食糧も魔法薬もない。
「私をここに残して二人で脱出できない?それから助けを呼んでくれれば…」
私は怪我が治るまで初級の回復魔法すら使用できない。
それならいっそ、助けを呼びに二人で脱出する方が生き残れる可能性が高いのではないかしら。
「無理だよ、ルイ。この辺のスケルトンはもう、1対1ならなんとかなっても、3体同時は厳しい。それが十数体まとまって来るんだ。ルイの攻撃魔法がなければ突破できない。」
「オレもアランと同意見だ。だから他の冒険者を待つしか」
「来るわけないって!」
「だったらどうしろってんだよ!」
「二人ともやめて!!」
おそらく解決策はないと思う。
ダンの言うとおり、冒険者がここまで進んで来るのを待つくらいしかできない。
もし仮に、誰かがここまで来れたとしても安心できるわけでもない。
他に誰もいない洞窟の中でのことだ。
弱ったパーティを助けるより、殺して荷物を奪った方が楽だと考える冒険者も一定数いるだろう。
「なぁ、アラン。現実的に考えようぜ。お前もわかってるだろ。俺たちにはもう脱出する力はない。」
「……くそ。」
アランが地面に拳を撃つ。
小さな低い音がしてすぐに静かになった。
いえ、音なら他にも聞こえるわね。
骨同士が当たるカシャカシャという音。
大広間の前までは近づいて来ないけれど、数メートル先にはスケルトンが屯していて、私たちが安全地帯から出るのを待っているかのようにこちらをじっと見ている。
「…おい、なぁ二人とも、なんか聞こえないか?」
ダンが言った。
「え?」
耳を澄ませてみる。
――シャン。ガラッ…カン。…ガン。
確かに聞こえる。
まだかなり遠くかもしれないが、何かを打ち合うような音。
戦闘音だ。
「本当ね、聞こえるわ。誰か戦ってるのかしら。」
「きっとそうだよ。ルイ、オレたち助かるかもしれない!」




