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出会い

 しばらく歩くと、ザザザザザと草をかき分けるような音が近づいてきた。

 姿が見えないから地面すれすれを移動しているのかもしれない。


「虫か…。焼けば楽勝だけど、山火事になっても問題だしな…」


 音が近くまで来ると姿が見えた。

 名前はわからないが大ムカデだ。

 一つ一つの体節が大きく、あまりわしゃわしゃしていない。


 体を低くして迎撃の姿勢を取るが、ムカデは跳び上がって俺の頭を狙ってきた。


「跳ねるかい、そこで。」


 ただの(まと)になったそいつを、剣の角度を変えて斬り上げる。

 虫なら体を二つに分けたところで動き続けるだろう。

 斬った勢いをそのままに一回転し、頭の方を再度両断した。


 ぼとりと地面に落ちる。


 俺は少し距離を取って身構える。頭の方は死んだようだ。尾の方もしばらくもぞもぞしていたが……動かなくなった。


「ふぅ。」


 虫は外殻が売れるらしいが、嵩張(かさば)るし()がすのが気持ち悪そうなので放置だ。


「ヴァオン!!」


 鳴き声がした。

 見れば犬の集団が向かってきている。

 休む間もない。


「妙に魔物が多いな!しかも群れって!」


 犬ではなく、兎サイズの小さい狼のようだ。

 観察する時間がないが、おそらくリトルウルヴズだろう。

 10頭に届かないくらいの数。


 魔法を使おう。


「アイシクル!」


 10本のつららが横向きに飛ぶ。


 数本が命中。ひるまないで突撃してくるのが2頭いた。


 剣をくるっと逆手持ちに変える。

 噛みつきをかわしながらすれ違うように1頭斬り抜く。

 その勢いのままもう1頭。


 アイシクルに怯んでいた狼が遅れてやってきた。

 同じ要領で2頭斬り抜ける。


 残りは…つららが直撃していたようだ。


「うーん、遭遇率は高いけど弱い魔物ばかりだな。」


 狼から素材を採っていく。

 熊と同じで爪と牙。

 あとは尾も状態がいいのがあれば採っていく。

 毛並みが均一で長くふさふさしたものだけを。


「……ぁぁ」


 4頭から採ったところで遠くから悲鳴が聞こえた。

 反射的に走り出す。


 声のした方は下り坂になっていて、比較的遠くまで見通せる。


 大きめの岩を飛び越すと…人が見えた!……が、なんだかよくわからない状態になっている。


 木々に白い帯のようなものが張られ、囲いのようになっている。囲いの中には薄着の女性。インナーシャツに白い短パン姿で走っているようだ。


 あ、女性の前に白い帯が張られて行く手を塞がれた。なるほど、何者かに閉じ込められているらしい。


「やあぁっ!」


 悲鳴がはっきり聞こえるようになった。


「よっ、と。」


 木の幹を蹴って白い帯を飛び越え、囲いの中に入る。

 よく見ると白いものは帯ではなく、何本もの糸だ。

 ちょうど跳び越えた糸に衣服がくっ付いていた。

 彼女が着ていたものだろう。


 囲いの中央には何かがいるようだ。

 何かというか、蜘蛛だ。蜘蛛の頭が地面から生えている。


 これで理解できた。


 あの蜘蛛はイトジゴクという魔物だ。間違いない。糸で網を張って待つのではなく、地面でじっと獲物を待っていて、獲物がやって来ると周囲に糸を張って逃げ場をなくしてから捕縛し、ゆっくりと食事を行う。

 つまりはこういうことだろう。女性がイトジゴクに遭遇し、逃げようとしたところ糸を張られた。その糸に服がくっ付いてしまったので付着した服を脱いで逃げている。


「きゃっ!」


 状況把握をしている間に、女性がつまずいて転んだ。

 女性の元に急ぐ。


 確かイトジゴクは群れを作って狩りをする。

 中央のメスが司令塔で、周囲に複数潜伏したオスが糸を張る役目を持つ。

 殲滅するのは難しいが、司令塔を潰せばあとは有象無象のはずだ。


「やだぁぁ…来ないで…!」


 剣を握り直し、地面から体を出して女性に近づくメスに斬りつける。

 頭と脚を数本落とすと動かなくなった。


「へ?」


 女性が(ほう)けた顔で俺を見る。

 しかし、方々に散るオスの数匹がこちらに向かってきている。

 声をかける前にこいつらの処理が必要だ。


「アイシクル。」


 よし。

 しっかり狙って撃った氷柱(つらら)は正確にオスグモを貫いた。


 …これ以上近寄ってくる個体はいないようなので女性に声をかける。


「もう大丈夫だ。」


 灰色のロングヘアがぼさぼさになっている。17、18歳(じゅうしちはち)くらいだろうか。


「す…」


「す?」


「すっ、すごいすごい!イトジゴクを一人で倒すなんて!お兄さん何者!?」

「名前はイズミだ。冒険者志望のただの旅人だよ。」

「いやおかしいって!ただの旅人の強さじゃないから!剣の動き見えなかったし、無詠唱魔法まで使えるなんてあれだよ、伝説の勇者とかだよ?」

「それは褒めすぎだよ。それより、早く服を着た方がいいんじゃないか?」

「え…あ、そうだった!」


 女性はそう恥じらう様子もなく服の付いた糸束に駆け寄る。


 服の下あたりに鞄が落ちており、中から布を取り出して足元を見まわし始めた。


 俺も遅れて追いつく。


「何か足りないのか?」

松明(たいまつ)作るのにちょうどいい枝がないかと思って。」

「こんなに明るいのに松明(たいまつ)?」

「イトジゴクの糸は熱に弱いから、火であぶって剥がすの。」

「裏からあぶればいいのか?」

「うん…ってお兄さんそれは魔力がもったいないよ!?」


 手から発した火魔法に驚かれる。


「俺は魔力量多いから問題ないよ。」


 また木の幹を蹴って囲いの外に出る。


 服のひっ付いたあたりの糸に、着火しないように気を付けながら火を寄せると、案外あっさりと服が落下した。


 彼女が服を着るのを待って、木についた糸束の端を焼き払って合流する。

 荷物を拾うのを手伝いながら横目で女性を伺い見る。

 武器は持っていない。小柄だが筋肉質な体つきだから冒険者かと思ったが…どうだろうか。


「これも君の?」


 金属のレリーフが落ちていたので渡す。動物の尻尾が彫られているが、硬貨にしては大きいのでお守りか何かだろう。


「うん…何から何までありがとうお兄さん。ごめん、名前なんだっけ?」


 改めて目を合わせるとドキリとする。

 ぼさぼさだった髪を指で()いたらしい。

 色白の肌に、綺麗な灰色の髪がつり目気味の整った顔立ちを引き立てている。


「…イズミだ。」

「そっか、ありがとうイズミ。アタシはアドルフィン。長いからフィネって呼んで?」


 初対面なのにフレンドリーだ。

 まぁ、本人が言うんだから遠慮することもないだろう。


「フィネか。よろしく。フィネはこんなところに一人で何をしていたんだ?」


 こんなところと言いつつ、俺はここがどこかわかっていないのだが。


「何をって…この森にベーゼアルラウネが出たのは知ってるよね?その雫を取りに来たんだよ。」


 知らない。

 けども話を合わせることにしよう。


 ん?…邪悪な(ベーゼ)アルラウネ?確か植物系の魔物で、滅多に出現しないんじゃなかったか。

 魔物図鑑の挿絵が印象的だった。草から女性の上半身が生えている姿だ。

 しかし、滅多にいないなら別にいいやと思ってよく読まなかったな。


「雫って?」

「あれ、知らない?アルラウネの雫は色んな毒の毒消しに使えるから高く売れるんだ。移動中に落とした粘液を漁るだけだから、移動痕(いどうこん)さえ見つければ安全に採取できて儲かるんだけど。」

「そうなのか。さっきの見る限り、あまり安全そうじゃあないがな?」

「だってイトジゴクに出くわすなんて想定外だったんだもん!普段もっと奥でしか出現しないし!」

「そうか…まぁ助けられて良かったよ。まだベーゼアルラウネを探すのか?」

「うん。もうでっかい不運掴んでるし、流石に一日に二度も危険な目に()うことはないでしょ。移動痕探してたら本体に襲われるとか。ありえないよねー。」


 そう言ってフィネは鮮やかに死亡フラグを立てた。

 またピンチに陥って、あげく死にでもしたら寝覚めが悪い。


「念のため俺も付いて行くよ。」

「え……助けてもらったのは感謝してるけど、雫を見つけても分け前はあげないよ?」

「構わないよ。」


「ふーん…ところで、イズミはこんなところで何をしてるの?」

「修行。」

「ベーゼアルラウネの出現報告がある森で?」

「俺、強いから。」

「それはさっき見たけどけど…」


 疑われているようだ。

 女性の一人行動に同行しようなんて普通に怪しいしな。


 心配だけでなく打算も一応ある。

 フィネの荷物は少ないから日帰りだろう。

 このまま付いて行けば町まで案内されるということだ。

 それを話して納得してくれればいいが。


「オーケー、本当の理由を話そう。実は道に迷っているんだ。フィネに同行すれば帰れると踏んだんだよ。」

「ああ、そういうこと。…だったら最初からそう言えば疑ったりしないのに。」

「見栄張るくらいいいだろ。」


「…アタシ、ギリギリまで粘るよ?帰るのは夜になるけどそれでもいい?」

「いい、いい。ありがとう。」

「お礼言われるようなことまだ何もしてないって。」


 フィネはそう言ってくすっと笑った。


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