髑髏窟③
夜明けと共に起き上がり、二人で髑髏窟に向かった。
1時間も経たないうちに昨日フィネが小屋があると言っていたところに着く。
高い木の柵壁に門が付けられており、その脇に壁よりも高い櫓、隣に小屋が建てられていた。
門には小さな板が張られており、文字が彫ってある。
【ここは髑髏窟。入りたい者は詰所の守り人に申し出ること。】
「詰所?」
フィネが言う。
「この小屋のことだろ。入ってみよう。」
と俺が言うと、詰所の戸が開いた。
中から男が出てくる。
「髑髏窟に入りたいのか?」
低い声だ。寝起きだろうか。
無精ひげに伸びた髪。
結構長いことここにいるのだろう。
「うん。入れて。」
フィネが言う。
「髑髏窟は初めてか?」
「うん。」
「ならルールを伝えるから、中に入れ。」
そう言って男は詰所に戻った。
戸は開けたままだ。
ルールがあるなら聞いておいた方がいい。
素直に中に入る。
「座れ。」
男がぶっきらぼうに言う。
秒でフィネが木椅子に座ったので、その隣にかける。
――コン。
テーブルにカップが置かれた。
「水だ。茶なんてないからな。」
男が言う。
「いいよ、早く説明して。」
心なしかフィネもぶっきらぼうになった感じがする。
「名前は?」
「アドルフィンとイズミ。」
フィネがまとめて答えた。
「冒険者ランクは?」
「F。」
男は巻紙を広げると、一番下の行に俺たちの名前を書き入れた。
その上には人の名前が書き連ねてあり、ほとんどの名前の上に見え消し線が引かれている。
入場者の管理なのだろう。
入る時に書いて、出た時に消すんだと思われる。
「まず、髑髏窟に入るのは自己責任だ。」
当たり前のことを言う。
「もしお前らが何日も出てこなくても救助を呼んだりはしない。」
「ああ、わかった。」
俺が答える。
「入る条件はそこの門から洞窟入口までのスケルトンの一掃だ。櫓から縄梯子を下ろすからそれを使え。出るときは門を開ける。だから帰りもスケルトンを一掃しろ。でなければ門を開けない。」
「ああ。」
「夜も開門しない。洞窟を出て夜だったら、日が昇るのを待て。」
それはなかなかの条件だ。呑むしかないが。
最悪の場合、夜通し戦い続けることになるかもしれない。
「出るときは、何か合図を送る方法があるのか?」
「俺は毎日2、3時間に一度櫓に登る。だから必ず気付く。」
「わかった。」
「ルールは以上だ。この仕事の一環として、アドバイスもするってことになってるが、聞くか?」
フィネが俺を見る。
一応聞いておいた方がいいだろう。
「聞かせてくれ。」
男はテーブルに肘をつき、面倒くさそうに説明を始めた。
「…洞窟入口までのスケルトンは数が多いだけの雑魚だ。ある程度距離を取っていれば襲ってこないから、休憩もできる。ランクGが1人でも3時間あれば一掃できるくらいだな。」
あまり人も来ないんじゃないかと思うのだが、会話に飢えたりはしないんだろうか。
緩慢だがすぐ次の言葉に繋げ、わざと相槌を入れづらく話しているように感じる。
「洞窟内は緩やかな下りになっていて、天井の岩がなぜか発光しているから灯りは必要ない。スケルトンは奥に入る程強くなっていく。見た目が同じでも高レベルになっている場合があるから注意しろ。ランクFなら、壁や足元の岩が青くなったら進むのをやめたほうがいい。」
「なんでだ?」
「経験則だ。無事帰ってきた冒険者にはどこまで進んだか聞いてるんだが、それより奥に進んで五体満足で帰ってきたやつは2割くらいだって話だ。」
「岩が青くってのは、どのくらい青くなるんだ?」
「さーな。俺は見たことがない。続けるぞ。ある程度進むと、黒い霧のようなものを纏ったやつがいる。そいつは一段階強いから気を付けろ。それと、」
男が再び巻紙を広げる。
「お前らより先に入ったパーティが帰ってきていない。ランクDのアランとダンとルイで、盾を持った剣士と、鎧を着た格闘家風と、多分魔導師の女だ。ん…?全員男みてぇな名前だからどれが女だかはわからんが…まぁいい。入ったのは一昨日の昼過ぎ。会うことはないだろうが一応知らせておく。」
「一応確認するが、助けろって意味じゃあないんだな?」
「無論だ。知らせる決まりだってだけだ。」
救助を呼ばないと言いつつ可能なら救助させる腹があるのか、単純に狩場争いを避けるためか、それとも先客がスケルトンを倒したことで楽に進めているということを後発の者にわからせるのが目的か…いや、考えてもしょうがないことかもしれないな。
「俺から伝えることは以上だ。」
「ああ、ありがとう。フィネ、行こう。」
飽きて寝かけていたフィネを起こし、外に出て櫓を上る。
周囲を見回してみるが、スケルトンはいないようだ。
一昨日のパーティが一掃済みだからか?
「イズミ、これ飛び降りでいいよね。」
「まぁ…いけそうだけど。」
「ほっ!」
フィネが櫓から柵の中に跳び、危なげなく着地した。
「…お前ら本当にランクFか?」
「ああ。一昨日冒険者になったばかりの駆け出しだよ。」
そう答えて俺も跳ぶ。
後ろから声がした。
「一昨日だって!?」
まだ何か言っているようだが下までは聞こえなかった。
「さっ、て、イズミ、髑髏窟の入口まで一気に行こ。」
「了解。」
スキル【武具収納】で片刃剣の『ツキノワ』を取り出し、先に駆けだしたフィネを追うように俺も走り出した。
髑髏窟までは一本道になっているようで、道中に何体かいたスケルトンはフィネに頭を蹴り飛ばされて崩れ落ちていった。
フィネを見て道脇の森から出てきたやつを俺が斬り捨てる。
全部一撃で崩れていく。本当に弱い。
しばらく走ると岩山に着いた。
これが髑髏窟の入口なのだろう。スケルトンがたむろしている。
フィネが止まったので俺もならう。
「んー、30体くらい?もっといる?」
「奥が見えないからもっといるんじゃないか?」
「面倒…」
「とりあえず魔法撃つか。ちょい待って。」
氷柱とか炎とかよりも面で攻撃する魔法がいいだろう。
だったら風だ。
集中する。
魔法はイメージ。
強い風。
爆風のような強い風だ。
「ゲイル!」
前に出した掌から魔力が風となって吹き出した。
その風はスケルトンの集団に当たり、四方に骨を散らす。
「ふはっ!全滅してっし。さっすがー!」
「これで入口まで一掃って条件は達成だよな。」
「だね。じゃー張り切っていきましょー!」
「おう!」
髑髏窟の入り口は幅20メートル以上ありそうな大きな横穴だった。
足を踏み入れると、奥でぼーっとしていたスケルトンが一斉にこちらを見る。
「怖っ。」
思わず声に出てしまった。
とはいえ雑魚には違いない。
「ゲイル!」
風魔法をもう1発打ち込んで道を作る。
それなりの強さのが出てくるまで一気に進んでしまったほうが良さそうだ。
進路にいるやつだけを倒しながら小走りで進む。
「ほいほいっ、ほっ!」
フィネは軽快な動きで敵を蹴り飛ばしていた。
しばらく進むと、剣を持ったスケルトンが見えた。
「おっ!」
少し先を行っていたフィネも気付いたようで、バックステップで俺のところまで下がってくる。
「ちょっと休憩ぃ。」
フィネが大きく深呼吸している。
外の雑魚は距離を取れば襲ってこないと聞いたが、この辺のやつらも同様のようだ。
「この辺からレベル上げ開始にするか?」
「そだね。ヤバそうになったら助けて。」
「任せとけ。」




