髑髏窟②
「スキルってかその前に。アタシ、獣人とのハーフなんだ。」
「……!?」
驚きで返事ができなかった。
獣人とは、体に獣の特徴を持つ種族だ。
一般的に身体能力が高いが、人間のようにジョブに就くことはできないらしい。
しかしフィネの外見は完全に人間だし、獣拳というジョブもある。
ハーフだからだろうか。
「あ、やっぱり引くよね?」
「い、いや、驚いただけだよ。俺は別に気にしない。」
実際そのとおりだ。
驚きはしたが、俺は獣人を差別する心を持っていない。
ちなみに、獣人と一言で片づけてしまうのも乱暴な話で、例えるなら熊や鳩やムカデを総じて『動物』と言ってしまうようなものだ、と言っている人がいた。
犬人とか猫人とかそれぞれ固有の種族なんだそうだ。
過去には、人間も猿の獣人であると言う説もあった。これは多くの国で否定されたが。
「ホント?気持ち悪くない?」
「まったく。ハーフだからって何か変わることはないよ。」
ただ、聖アロン帝国で獣人に会うことはない。
残念なことに、宗教上の理由から獣人やエルフを差別・迫害する人が多いからだ。
聖アロンの市民は、俺にとっては良い人たちであっても、信仰のこととなると人が変わったようになることが多かった。
そりゃあそんな国に入国しようという獣人はいないだろう。
「だけどフィネ、俺が聖アロンから来たって知っててよく打ち明けてくれたな?」
「まぁ、イズミなら大丈夫かと思って。」
いつもどおり軽い語調で言う。なんでもないふうにしているが、表情は硬い。
「…それに、嫌われたら嫌われたで、この前までに戻るだけだし。」
そして寂しそうに付け加えた。
前に何かあったのかもしれない。
それなら俺の想像できないほど勇気が欲しいことだっただろう。
なのに打ち明けてくれたことには正直、嬉しさを感じる。
「それにさ、どうせ明日バレるし。」
「うん?バレる?」
「うん。アタシ、見た目は人間でしょ?」
「ああ。完全に。」
「これ、魔法で変身してるの。」
なるほど、変身魔法か。ということは獣人的な特徴もあるということだ。
ちなみに俺は変身魔法は使えない。
使える人にとっては簡単らしいが、少なくとも俺には不可能だと思うくらい難しい魔法だ。
「イズミは『解放』って知ってる?」
「ゲネ…?聞いたこともないな。」
「獣人の固有スキルでね、獣の能力を引き出すことができるの。解放を使うとめっちゃ強くなるんだけど、アタシの場合は発動すると変身魔法解けちゃうんだ。」
「ほぉ~。」
知らない知識だ。
「明日は本気で戦うからさ、いざとなったら解放も使うつもり。じゃなきゃイズミに追いつくなんて一生できないと思うし。でも使うと変身解けて耳出ちゃうからバレる、ってわけ。」
「耳?」
「うん。これは見た方が早いよね。今変身解くからちょっと待ってね。」
フィネが腰を抑えるように後ろに手を回して目を閉じると、髪がみるみる白くなっていく。光沢があって、銀に近い白髪だ。それに合わせるように頭から上に向かって動物的な耳が生えてきた。
犬のようだが…ユリアナが前に言っていたことを思い出してピンと来た。
「狼か。」
フィネを動物に例えると、という話だ。
俺もユリアナも猫っぽいで共通していたが、フィネは狼を自称していたそうだ。
「お、正解~。父親が狼人なんだ。」
そう言って体を捻り、しっぽを持ち上げて見せた。
髪と同じ、光沢のある白い毛の尻尾だ。
腰に手を当てていたのはしっぽが生える場所を露出させていたのか。
かわいい。
違う。今何を考えた俺は。
それよりも、声色は大分戻ってきたが表情は不安そうなままだ。
どうにか安心させたいところだが…。
「アタシの解放は『狼化』、身体能力と感覚が大幅強化されるんだよ?」
「シンプルに強いな。」
「でしょ?」
「効果時間は?」
「10分くらい。レベルアップすれば伸びてくみたい。」
「スキルによる強化にしちゃあかなり長いな。再発動までの時間も長いのか?」
「2時間くらいかな。だから奥の手。」
「わかった。」
「じゃあまた変身しとくね。『我は化け猫化け狐、人誑かし人に為る。ファバン・ドロン。』」
フィネが呪文を唱えると耳が引っ込み、髪の色も灰色に戻った。
ちょっと残念な気もする。
「あとね、解放、もうひとっつあるんだけど、」
「うん。」
「使うと狼化より強化されるけど、イズミのことも攻撃しちゃうから、そっちは秘密のまんまね。」
「オーケー。見せられても困るしな。」
秘密と言いつつほとんど秘密になっていない。
しかしなるほど。フィネの素の身体能力は近接戦闘職にしてもかなり高いと思っていたが、ジョブの効果だけではなかったということか。
さらに上昇するとなると、近接に関しては俺なんかあっさりと超えていきそうだな…。
「しかし、ハーフってすごいんだな。」
「え?」
「獣人って素の力が強いんだろ?それに人間のジョブで補正かかって、ジョブとゲネの両方のスキルが使えるなんてものすごいじゃないか。」
「そうかな…?でも、本当の姿は白髪の獣人なんだよ?嫌じゃない?」
「いや?綺麗な髪だったよ。別に今の髪色が嫌ってわけじゃないが、元の髪の方がいいな。」
「ホント…?狼耳とか尻尾とか気持ち悪くない?」
むしろかわいい、と思ったのを飲み込んで答える。
「全然。」
「…えへへ。」
不安そうな顔が一気に綻んだ。




