ロスコ草採集
改めて今日こなす依頼を確認する。
【ロスコ草採集】
場所 夕日の丘
近くにブレイブラビットの巣があるので注意
内容 ロスコ草の採集
報酬 50gにつき銀貨1枚(上限なし)
ロスコ草は独特の強い芳香を放つ草だ。
人にとっては悪い匂いではないが、聖アロンの一部地域の魔物がこの匂いを嫌うので街道に植えられていたりする。
見慣れた草だから狩場に行けば迷うことなく見つけられるだろう。
問題はブレイブラビットだな。
先制攻撃できれば問題ないが、魔物に先に見つけられた場合は臭い唾液を吐きかけられる可能性が高まる。
洗浄魔法で体を、洗濯魔法で服を洗っても、染みついてしまった臭いというのはなかなか消えないものだ。
普通は戦闘を避けるべきなのだろうが、俺たちの場合は先に発見して倒してしまうのがむしろ安全策と言える。
それに一度倒してしまえば、次からこの依頼を受注する冒険者が被害被ることもなくなるだろう。
「イズミ、敵。」
さっきまで鼻歌を歌いながら歩いていたフィネが立ち止った。
俺からは見えない。
狩場にはまだ遠いからブレイブラビットではないと思うが。
「どっちだ?」
「左の森の中。5匹以上いると思う。もうすぐ出てくるよ。」
俺は索敵能力に乏しい。
戦闘中は【天賦の才】の効果で気配を感じたりできるが、俺は敵が見えてから武器を取るので基本的に後手に回ってしまう。
フィネが感知してくれたのは非常にありがたい。
スキル【武具収納】を発動して『ツキノワ』を取り出した。
森からは少し距離があるから、敵の姿を確認後、必要なら別の武器に取り換えることもできる。
「ミニオーガ!8匹以上!」
フィネが叫ぶと同時くらいか、森から二足歩行の何かが飛び出してきた。
砂煙を上げながら向かってくる。
その姿を見てやっと俺もミニオーガだと認識できた。
ジョブ特性なのかフィネ個人の能力なのか、フィネはかなり気付きが早いらしい。
ミニオーガは、人より低い身長、髭もじゃの顔、だぷっと飛び出た腹が悪い意味で特徴的な人型の魔物だ。
肌の赤茶色が濃いほど強いと聞いたことがあるが、今見えているやつらは随分と色白だ。
8匹どころか、10をゆうに超える数がおり、新米冒険者ならここで命を諦めるだろう。
「フィネ、俺は左から順にやるよ。」
「じゃあアタシは右に回るね。」
駆け出す。
最初は一番左のチビだ。
近づく俺を見て棍棒を振り上げる。
モフワの針より遅い一撃だ、かわすまでもなく胴を斬る。
次、素手のやつ。こいつも弱い。
特に障害になる魔物ではないようだ。
次々に斬り捨てていく。6匹、7匹…。
11匹目、と思ったらそいつの頭が何かに打たれて吹っ飛んでいった。
数メートル先に転がる。
「どうよー!?」
声の主は空にいた。
スキル【跳躍】で大ジャンプして空中から鎖鉄球で攻撃したらしい。
「すごいな!」
フィネがくるくる回転しながら下りてくる。着地の直前に鉄球を地面に叩きつけ、その衝撃で着地の勢いを殺して綺麗に下り立った。
フィネがやった方を見ると、2体のミニオーガが倒れている。
「…全部で13匹か。」
「え、アタシが3匹やる間に10匹斬ったの?」
「そうなるな。」
「すっご。」
「素材回収は?」
「するに決まってるよ!安くても13匹分あれば宿代になるしね。」
「了解。」
その後は何も問題なく夕日の丘に着いた。
「いるじゃん…」
フィネが呟いた。
丘の中腹にブレイブラビットが寝転がっているのが見える。
顔は兎というよりも鹿だ。長い睫が顔つきをふてぶてしくしている。
大きな耳がこちらを向いているので、ぐうたらしているようでもこちらには気が付いていることがわかる。
「俺がやればいいんだよな?」
「よろしくっ!」
フィネが良い笑顔で言う。
まぁ大した相手ではない。
先制できればいいし、遠距離攻撃でもいい。
出しっぱなしにしていた『ツキノワ』を地面に突き立て、スキル【創剣】を発動して投擲用ナイフを3本創りだす。
「じゃあ行ってくる。」
『ツキノワ』を左手で抜いて走り出すと、ブレイブラビットが手を地面についた。
起き上がるのを待たずにナイフを投げる。
スキル【天賦の才】のおかげで投擲もそれなりだ。
当てるだけなら簡単にできる。
「ア゛ア゛!!」
鋸を引くような鳴き声と共に、ブレイブラビットが跳ねる。
寝た態勢から跳べるとは驚きだ。
ラビットの名の通りジャンプ力は恐ろしいもので、さっきのフィネよりも高い。
その分、滞空時間も長いが。
「ナイフが無駄になったじゃないか。『アイシクル』」
得意魔法を放つ。
空中では回避ができず、氷柱が刺さったブレイブラビットが地面に落ちた。
「おー、すごいすごい!」
「どーも。」
ブレイブラビットは群れない。
これでロスコ草の採集も楽だ。
「それじゃ、採取しちまおう。」
ロスコ草は根で増える草だ。
綺麗に根を抜くともう生えてこないが、根の一部を地中に残せばまた生えてくる。
コツは雑に抜くことだ。
ある程度まとまったら草を紐代わりにして束ねる。
二人で抜きまくると小一時間ほどで束が4つできた。
「イズミ、イズミ。」
フィネが小声で話しかけてきた。
いつの間にか近くまできていたらしい。
「草取りに夢中になってたよね。」
「ああ、まぁ。」
「だからしょうがないと思うんだ。」
「何が?」
「気が付かなくてもしょうがない。」
「いや、何に?」
「……あれ。」
フィネが俺の後ろを指差すので振り向く。
「――!?」
レッサードラゴンだ。
丘の下にいる。
大分遠いが、ここからでも姿形がはっきりわかるほど大きい。
レッサードラゴン――鋭い爪と牙、それに竜の肌を持つ強力な魔物だ。その外見からドラゴンを彷彿とさせるが別種で、背に翼を持たず、竜の息吹を噴くこともない。
ドラゴンと比較すれば弱いとはいえ、小型種でもDランクの冒険者による討伐隊が組まれるくらいの脅威だ。
「どうしようね?こっちには気付いてないみたいだけど…」
レッサードラゴンには様々な種がおり、特徴的な見た目をしているものが多い。
丘の下のやつを観察すると、二足歩行、退化した腕、頭そのものが口になっているような大顎…D-REX種に違いない。それがわかったところで対処法があるわけではないのだが。
「…いなくなるのを待つか。」
「それしかないよね。」
「一応準備はしておくか。もしこっちに来たとき用の目くらましとか作るから、あいつに動きがあったら教えてくれないか?」
「わかった。」
細かい作業用のデザインナイフを鞄から取り出す。
それと、さっきブレイブラビットに当てられなかった投げナイフもだ。
これで目くらましを作る。
まずデザインナイフで投げナイフの側面に魔方陣を刻印していく。
刻む魔方陣は丸と四角を組み合わせただけのシンプルなものだ。
「それ魔方陣?」
こちらをちらりと見てフィネが言った。
「ああ、目印魔方陣。後で魔法を使ったとき、この魔方陣から発動できるようにするんだ。地面に挿しておいて光魔法を使って目くらまししたり、敵に刺してから攻撃魔法を使ったりとか。」
「便利かよ。そんなのどこで覚えるの?」
「俺の師匠、魔女だったんだよ。よし、できた。」
次は武器だ。
大型の魔物用の武器なんて持ってないから【創剣】で創らなければ。
【創剣】には正確なイメージが必要だ。
まずは大きさ。あの頭を落とすには刃渡り150cmは必要だな。
レッサードラゴンの持つ竜の肌…つまり硬い鱗もぶった斬る必要があるから、刃は剣というよりは鋸刃がいい。
両手持ち用に柄は長く。鍔はいらない。余計な装飾もいらない。
重さは欲しいが、材料は鋼鉄で十分。
刃はもっと鋭く。触れただけで怪我をするくらい鋭く。
…よし。
「創剣!」
――ザッ!
目の前の地面に大剣が突き立った。
ギザギザした刃は光を乱反射してギラギラしているが、それ以外は真っ黒だ。
レッサードラゴンはドラゴンとは違うとはいえ、竜を斬る剣だ。
だからこの大剣の名前は…『スサノオ』にしよう。
敵の頭が八つあっても斬れる気がしてくる。
「イズミ、魔物が移動し始めたよ。」
「そっか。」
もう動くのか。
折角、武器を準備したが、無駄になりそうだ。
いや、むしろその方がいい。
「あ。やばそう。」
「え?」
フィネの視線を追うと、レッサードラゴンが向かう先で馬車が走っている。
4頭の馬が引くタイプの馬車だから速度はある方だが、レッサードラゴンの方が速そうに見えた。




