モフワ狩り
「とうちゃーく!」
狩場には思ったより早く着いた。
ここでモフワを探せばいいらしい。
「いた。イズミ、あれあれ。」
「あれって…」
フィネが指を差す方を見ると、白くて丸いものが転がっている。
触り心地が良さそうだ。
「あれがモフワ?」
「そうだよん。アタシでも楽勝だし、イズミにとっては雑魚中の雑魚だけどね、とりあえず狩ってみなよ。」
「確か、中心の核を破壊すればいいんだよな。」
「そのとおり~。」
モフワに近づきながらスキル【武具収納】を発動してナイフを取り出す。
小さい的には小さい得物だ。これも『ツキノワ』と同じ自作武器で、イメージを練りに練って【創剣】した特性品――『カワセミ』。素材剥ぎの工具としても使えるよう、背に鋸刃を切り、柄の先端には破砕用の突起を付けた肉厚ナイフだ。
「そういえばそのスキルも鬼便利だよね。」
後ろからフィネの声が届く。
フィネの言うとおり【武具収納】は便利だ。
武器・防具に限るがいくらでも収納できる。
その上、収納するときに血糊や水が落ちるから手入れもかなり楽だ。
モフワの目の前まで来た。
体積の割に軽いのか、そよ風に転がされている。
毛に覆われているため核は見えないが、中心にあるということなので、真っ二つにするようにナイフを振った。
――シャッ。
中心にかすかな抵抗を感じたが、あっさりと斬れた。
さっきまで丸かったのが、しおれたように地面に落ちている。
「雑魚どころか、植物みたいなもんだな…」
「でしょ?」
「っ!?」
真後ろから声。驚いて跳びのく。
着地前にフィネの声だとは気付くが、まったく気配を感じなかった。
「っはは、びっくりしたでしょ。」
「びっくりしたぁぁ。」
「足音消してたんだ。イズミ油断しすぎ。」
「…それも【一匹狼】の効果なのか?」
「いやいや。これはただの技術。そういや逃げ足だけじゃなくて忍び足も成長してたなぁと思って。」
まだ心臓がばくばく言っているが、フィネがいたずらっぽく笑っているのを見ると怒る気が失せる。ちらっと見える八重歯のせいかな。
「痛感したよ。」
「さて、モフワは軽いからいっぱい狩らないとだよ。」
モフワを拾うと、重さはあってないようなものだった。
鞄に放り込む。
「400gで銀貨1枚か…。何匹で達成できるんだこれ?」
「さぁ…?夕方まで狩れるだけ狩ろっか。二手に分かれて競争!」
「了解。じゃあ俺は街道のあっち側でやるわ。」
「アタシはこっちね。」
モフワは意外とすぐに見つかった。
基本的に丈の高い草に隠れて見えないが、風が吹くと舞い上がって複数匹同時に発見できる。
見つけて狩っての繰り返しだ。
数匹固まっているところでは、攻撃したのとは別の個体から針が飛んできた。が、速度がないので見てから回避しても十分間に合う。
新米向けとはいえ、楽な狩りだった。
途中、テールラビットとホーンラビットからの攻撃を受けたのでついでに狩る。それぞれ尻尾と角が売れるし、兎肉は後で干そう。
「イズミ~!」
フィネが近づいてくるのでこちらからも近寄る。
「そろそろいいんじゃない?」
言われて見上げる。
そろそろ空が赤くなりそうだ。
「そうだな。帰るか。」
重さはわからないが、数はそれなりに手に入れたし上出来だろう。
「何で勝負する?数?重さ?」
「重さでいいんじゃないか?」
「オッケー。じゃあ個別計量してもらおうね。」
「おう。」
「おかえりなさい。」
冒険者ギルドに戻るとユリアナが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。モフワの毛、フィネと別で計量ってできる?」
「できますよ。」
「じゃあこれ。」
鞄に無理に詰め込んでいた毛を取り出してテーブルに置く。
結構こんもりとなった。
「あらぁ、すごい量ですね。」
「アタシも負けてないから。」
フィネが俺の毛を脇に寄せ、自分の入手分を出した。
俺と違ってぎゅうぎゅうに詰めていなかったのでふわっとしている。
俺より体積は大きい。
「どうよ!」
「いいや、重さはわからんからな。」
「うふふ、競争ですか?では少々お待…ちょっと量が多いので20分くらいお待ちくださいね。」
二人で頷いて掲示板の前に移動した。
明日の依頼を決めておこう。
「今Gランクだから、E、F、Gの依頼が受けられるんだよな。」
「そだね。あんま数ないけど。」
依頼書はランクごとに張られていて、どこを見ればいいのかはすぐにわかった。
フィネの言うとおり、B~Dの依頼は多いがE~Gは少ない。
Gランクにはモフワの討伐のほか、荷運びなどの雑用のようなものが十数件あるので数の上ではマシな方だ。
Fなんか2件しかない。【呪いの箱の解呪】と、【ロスコ草採集】だ。
「もうFに挑戦したいと思ったが、解呪はスキルないから無理だしな。ロスコ草は…」
【ロスコ草採集】
場所 夕日の丘
近くにブレイブラビットの巣があるので注意
内容 ロスコ草の採集
報酬 50gにつき銀貨1枚(上限なし)
「うぇ、ブレイブラビット…」
フィネが依頼書を見てつぶやく。
ブレイブラビットは人と同じくらいの大きさの二足で立つうさぎだ。
二足立ちだが二足歩行ではない。
なぜなら脚の可動域が狭いからで、ジャンプでしか移動できない。
その分、力が強いから岩をも蹴り砕くし、上半身も筋骨隆々としていて強力なパンチを繰り出してくる。
聖アロンを含む大陸南部ではカンガルーと呼ばれており、何度か倒したこともある。
「特に問題はないな。フィネ、これにしよう。」
「えぇ…」
すごい嫌そうな顔。
「筋力はあるけどそんなに強い魔物じゃないだろ?」
「知ってるけど。あいつ臭いんだもん。」
「臭い?」
「そう、くっさい唾液吐いてくるんだよ。」
「射程外から駆け寄って斬り抜けば問題ないだろ…ああ、フィネは近接だもんな。」
「……いや、普通はそれでもかけられると思うよ?まぁ、出たらイズミが倒してよ。」
「了解、じゃあこれで決まりな。」
「イズミさ~ん、アドルフィンさ~ん!」
ユリアナの呼ぶ声。
依頼書を取って窓口に行く。
「思ったより早かったな。」
「ええ。お二人とも状態が良かったので。えっと、イズミさんが1,442グラムで、アドルフィンさんが1,378グラムですね。」
「っしゃ!」
「ぐっ…!」
「個別だと銀貨1枚減っちゃうので、合計で計算して銀貨7枚です。それと実績も。」
ユリアナがお盆に乗せた銀貨を出した。
隣に紙片が2枚。今日は革袋はない。
「あ、奇数か…」
「いいよイズミ。勝者が4枚で。」
フィネがさっと3枚取り上げる。
「サンキュッ。ユリアナ、これは?」
紙片を指差して聞いてみる。
「すみません、説明がまだでしたね。実績追加カード、略して『実績』です。昨日と同様にジョブカードに重ねると、討伐実績が更新されます。もうFランクになれますよ。」
「え、早くない?」
これはフィネだ。
「Gランクは依頼5つ達成でFランクになります。モフワは400グラムで1つと勘定しますので、今回は7任務クリアの扱いですね。重量計算は分けましたけど、達成実績はパーティメンバー全員が得られますので。」
「なるほど…」
『実績』をジョブカードに重ねると、カードが光り、冒険者ランクがFに上書きされた。
こうやって更新されていくのか…。
「イズミ、さっきの依頼書は?」
「ああ、そうだった。ユリアナ、これも受注したい。」
「…はい。ロスコ草ですね、承りました。明日行かれるんですか?」
「ああ。」
「わかりました。ギルドには寄らなくても結構ですので、直接夕日の丘にお向かいください。それと…」
ユリアナが言いづらそうにしながらも言葉を続ける。
「その、もし唾液攻撃を受けてしまった場合は、川に寄ってからでないと門番が通してくれませんので…」
浴びたことがないからわからないが、そんなに臭いのか。
「…わかった。注意するよ。」
「それじゃね。」
「はい。お疲れ様でした。」




