冒険者ギルドにて
「支部長、新規登録者の報告です。」
支部長室をノックしながら声をかける。
「おーう。ユリアナだな。どうぞ。」
扉を開けると真正面のデスクにゲオルグ支部長が座っていた。
手紙を書いていたようだが、脇に寄せたので書類を手渡す。
「こちらを。」
中身は冒険者の新規登録の一覧、と言っても記載してあるのは二人だけ。
今朝登録したイズミさんとフィネちゃんだ。
「ああ、イズミ君と…アドルフィン?」
支部長が怪訝そうな顔をする。
「はい。」
「アドルフィンは冒険者登録はしないってはっきり言ってなかったか?」
「言っていましたね。」
支部長の言うとおり、フィネちゃんを何度誘っても登録はしないの一点張りだった。
もっとも、冒険者登録をしないまま魔物の素材を売りに来る人は珍しくない。と、冒険者ギルド職員教本に書いてあった。
冒険者になることで起こる面倒ごとを回避するためなんだそうだ。
「それがどうして急に?」
「イズミさんとパーティを組んだようです。」
支部長が自慢の髭をなでる。考え込むときのクセだ。
「…イズミ君と出会ったのは昨日という話じゃなかったか?」
「そうなんですか?私は伺っておりませんが。」
これは嘘。
昨日初めて会ったというのは昨夜イズミさんから直接聞いたので知っている。
だけどそれはプライベートな会話であって、職務中に聞いた話ではないからここはしらばっくれておこう。
「確かにそう言っていたよ。ふむ……ん、二人とも上位職か。」
「はい。念のため確認しましたが、ジョブ名鑑には載っていませんでした。」
「だろうな。両方とも聞いたことのないジョブだ。上位職は種類が多すぎるんだよ。」
確かに上位職は種類が多すぎると思う。
でもそれを私に言われても困る。
「イズミ君の武装支配者はすごそうだな。」
「そうですね。」
名前から判断すると武器の扱いに長けたジョブだと思われる。
あれ?
でもイズミさんて武器は持ち歩いていなかったような?
「…そういえば武器を持っていませんでしたね。」
「っ確かにそうだな!一体どういうことだ…?」
支部長も武器は見ていないらしい。
人差し指の先を顎に当てて考えてみる。
「荷物に入るサイズのダガーとか、隠し武器とか?」
「隠し武器か。ふむ…あるいは体そのものを武器化とかな。武装支配者って名前にピッタリじゃないか?」
じゃないか?って言われても。私ジョブのことは詳しく知らないし。
それに、業務中はジョブについてはあまり話さないというのがギルド職員の暗黙のルールになっている。
でも後でイズミさんに聞いてみようっと。
「えぇと、上位職のことを予想してもあまり意味はないのでは…?」
「それもそうだな。」
報告は以上なので、退室しようとしたら支部長が言った。
「…そういえばユリアナ嬢、コプトで勇者が見つかったというのはもう聞いたか?」
「いえ、初耳です。」
勇者と言えば一番有名な上位職だろう。
過去の勇者は英雄譚となって、多くの人に知られている。光の勇者ガウリナ、退魔の勇者、大勇者メライ…すぐに思い出せるだけで3人。
あ、もう1人いる。前代の勇者ジョー・オイカワ。25年前に悪帝を倒したらしい。私が物心つく前だから知らない話のような感じだけど。
「コプトの王都でジョブチェンジしようとした青年の初期ジョブが勇者だったんだと。」
「はぁ…。あ、この間、聖女が見つかったのもコプト王国でしたっけ?」
思い出した。
コプトで聖女が見つかったと、先月支部長が漏らしていた。
聖女も伝説的なジョブだ。男の子が勇者の英雄譚を聞かせてもらっているとき、女の子は聖女物語を読んでいるものだ。
私も聖女なら何人も思いつく。
「そうだ。その後すぐにアロンでも聖女が見つかったって発表したが、本物はコプトの方なんだろうな。」
「聖女に勇者…」
「何か悪いことの前触れでなければいいんだがな…」
支部長が髭を撫でながら言った。




