a.プロローグ
鬱蒼と木々が生い茂る林をかき分けて進むと、開けた草原に出る。
ひどい藪の中を進まないと草原に出られないこともあり、地元の者もあまり立ち入らない。
そんな場所で、1人の少年が木刀をふり、剣術の稽古をしていた。
「えいっ!せいっ!」
少年の鋭い声のみが響く。一心不乱に剣を振る気迫は、熟練の剣士にも劣らなかった。
「よう。休憩したら?」
黒髪の華奢な少年が藪を掻き分けて草原に進み、木刀を振っていた少年に後ろから声をかけた。
「ああ、エリックさん。…そうですね、少し休憩しましょうかね」
声をかけられた少年・ハクは、爽やかな笑顔を浮かべて、木刀を腰に刺した。
近くに置いていた布で顔の汗を拭い、そのまま地面に座る。
「いつから振ってたの?」
「うーん、1時間前くらい前からかな」
「ひえ〜、頑張るなあ。ほどほどにしないと怪我するよ?」
心配するエリックに対し、ハクは苦笑を浮かべて答える。
「仕方ないよ。僕は弱い。魔物だらけの世の中に、まだ勇者は現れていない。せめて村のみんなを守れるくらいの力は付けておかないとね!」
ハクの言葉にエリックも頷く。
「そうだね。勇者さえ、現れてくれれば…」
遠くを見つめる2人の眼には、憂いが含まれていた。
世界の希望たる勇者は200年以上現れていない。
その勇者は、当時の魔王を滅ぼしたと同時に姿を消していた。
200年も経っているのだ。もうその勇者は寿命で亡くなっているだろう。
勇者はどこにいるのか、何をしているのか。
いない者にすがっても仕方ない。ハクの心掛けはエリックにも十分に理解できた。
「じゃあ、ハクくん。将来はどうする?
お城の兵士?それとも冒険者?傭兵?自警団って手もあるけど…」
今は戦乱の時代。国同士の戦争、魔物との争い、そして盗賊から身を守る術が必要だった。
そのため、戦う相手は違えど、働く先はいくらでもあった。
「そうだね…。まだ、ちょっと分からないかな…。もっと強くなってから考えるよ。
とりあえず今は、基礎の反復が大事だと思っているよ。」
「うん、ハクくんらしいね。」
野暮な質問をしてしまった、とエリックは反省した。
また、それと同時に、すごい男だとも感じた。
自分のことを冷静に把握し、目標を定め、努力する。
村の同世代の男の子の中で、ハクは下から数えたほうが早い。
…いや、もしかすると一番弱いかもしれない。
性格も闘いに向いているとは思えない。
ただ、周りの人を守りたいという強い気持ちを持っている。
強くなるその日を夢見て…。
…かなわないな。
「オッケー。じゃあ、俺は向こうで修行してくるよ。
日が暮れたら一緒に帰ろうか。」
エリックは苦笑した後、片手を上げて雑木林の方に向かって歩き始める。
「分かったよ。またね。」