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【完結】3度婚約を破棄された姫は護衛の騎士と共に隣国へ嫁ぐ  作者: 七瀬菜々
第二章

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46:とある週末の話(5)

 突然の、わずか10秒足らずの捕縛劇に民衆からは歓声が湧き上がる。

 中心にいる公爵夫人とその騎士は注目の的だ。

 ブライアンはギャラリーの扉を開けて、外の様子を覗った。


「只者じゃないな、あいつら」


 わかっていたことだが、本当に只者じゃない。 

 帝国で幾度となく死線を潜り抜けてきたからこその連携プレー。

 度胸のありすぎる公爵夫人と暗殺者のような侍女、そして腕の立つ騎士。

 そんな人間が友人であることに彼は少し怖気付いた。


「おい、お前。ちょっと来い!」


 ギャラリーからひょっこりと顔を出していたブライアンの頭上からは、汚く低い声が聞こえた。

 自分に影を作る正体がなんなのかと見上げると、そこにいたのは見ず知らずの人相の悪い男。先ほど無様に捕縛された奴らの仲間だろうか。

 直感的に、これはやばいと思った。


「あー。すみません。そういうのは間に合ってます」


 ブライアンは静かに扉を閉めようとする。

 だが当然の如く閉めさせてくれるわけもない。

 大きな手がブライアンをギャラリーから引きずり出そうとした。

 するとその時、視界の端にきらりと光るものが見えた。刃の反射だ。

 男の首元にヒヤリと冷たいものが当たる。


「君はさ、誰に手を出そうとしているのかな?」


 状況に似つかわしくない穏やかな声でそう問いかけるのは、グロスター公爵ことノア・アルダートン。

 にっこりと微笑んだ彼は刃先をぐっと男の首に押し当てる。そこからはわずかに血液が流れ出た。


「僕に用事があると聞いたのだけれど、いいよ?言いたいことがあるのなら今ここで聞いてあげよう」

「……貴様!」

「さあ、どうぞ?話したまえ」

「くそッ!」


 大男は刃を当てられている方と反対側へ駆け出した。

 このまま捕まるわけにはいかないのだろう。

 だがしかし、この状況。どう考えても彼には分が悪かった。


 ヒュンと、男の前を何かが通り抜ける。 

 その何かは大きな音を立てて壁へと突き刺さった。

 きらりと光るそれは暗器。彼は恐る恐るそれが飛んできた方へと顔を向ける。


「あら、外してしまったわ。ごめんなさい。エリザのようにはいかないわね」


 次は必ず、そのこめかみに当ててあげると微笑む公爵夫人。

 その笑みは悪魔の微笑みだった。

 彼女の隣に立つ騎士は、呆れ顔で主人を見下ろす。しかしその手に握られた長剣はいつでも男を斬り殺せそうなほどに隙がなかった。


「ま、参りました」


 結局、男はその場にへたりこみ、大人しく手枷をはめられることとなったらしい。



 *** 



「ごめんね、ブライアン。こちらの不手際に巻き込んでしまって」


 事態の収拾に当たっている騎士団を横目に、予定より早くギャラリーを閉めるブライアンにノアは声をかけた。

 ギャラリーの扉にもたれかかり、優しく微笑む彼はその長い黒髪を後ろで束ね直しながら話しかけてくる。

 普段は見慣れない騎士服の彼にブライアンは思わず頬を染めた。


「どうした?」

「いや、お前って剣を振るえたんだな。もっとヘタレかと思っていた」

「ひどいな、その言い草は」

「これでも褒めてる」

「知ってる」


 ノアは鍵を閉めようとするブライアンの手に自分の手を重ねると、軽く握った。

 妙な沈黙が二人の間を流れる。これはこの後そういう流れになるやつだろうか、とかそんなことを考えたブライアンは体温を急上昇させた。

 しかし…。


「ちょっとノア様?真っ先に()()()の心配とはいかがなものかしら」


 腕を組んで仁王立ちしている公爵夫人モニカが生暖かい視線をこちらに送ってくる。

 ノアはパッと手を離してブライアンと距離をとった。


「すぐ近くに友人がいたから声をかけただけだよ、モニカ。君も無事でよかった」

「…私たちに色々と言っている以上、ご自分も節度を守ってくださらないと困りますわよ?」

「わかってるよ。ごめん、ちょっと気が緩んだ」

「まったく。まだまだ人目があるのですから、気をつけてくださいね」

「はいはい」

「返事は短く一回です」

「…はい」


 モニカは顎でクイっと動かしてこちらへこいとノアに伝えると、その場を去った。

 彼は仕方がないと肩をすくめると、ブライアンに『また後で』と言い残して彼女の後を追う。

 そんな二人の後ろ姿は、夫婦のようで夫婦でない不思議なものだった。


「夫婦というより、兄妹、もしくは友人と表現した方が良いかもしれませんね」

「…え?」 


 今日はもう帰ろうと踵を返したブライアンは、突然フッと現れた人影に進路を塞がれて驚いたように顔を上げた。

 すると、目の前にはジャスパーの友人だという女が立っていた。


「お前は…」

「オリビアと申します。あなたは公爵夫妻とお知り合いなのですか?」

「…まあ、一応は」

「わたくし、公爵夫人に先ほどお助けいただいたお礼をお伝えしたいのですけれど、どうにかできませんか?」


 オリビアはブライアンの右手を両手で掴むと、目を潤ませてそう言った。

 そんな彼女にブライアンは怪訝な表情を向ける。


「どうにかって…。会いたいってこと?」

「はい、お礼をお伝えする機会を作っていただくことはできませんか?」

「なんで俺に聞くんだよ。お前、ジャスパーの知り合いなんだろ?公爵夫人は彼の主人だぞ」

「ジャスパーとは友人だからこそ、聞きづらいのですわ。できればこっそりと夫人にお会いしたくて…」

「どういうことだよ」


 含みのある言い方だ。嫌な雰囲気を感じ取ったブライアンは彼女の手を振り払った。


「悪いが俺は取り次げない。そんな権限もないしな」

「そうですか、残念です」


 失礼しましたと、オリビアは残念そうに眉を下げて去っていく。

 何が何だかわからないが、言えることはただ一つだ。


「もう一波乱ありそうだな…」

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