起章 死ぬか眷族かっていう世界一よくわからない選択肢
俺は私立白桜高校2年の瀬戸扇。
いきなりだがこの世には3つの種族とそれらが住む世界がある。
1つはみんなも知ってる「人間」。きっとこれを読んでくれてるみんなも大体は人間だろう。
2つ目は「妖」。俺も人とはかけ離れた化け物みたいなやつということしか知らない。
そして、3つ目は人の血を吸って眷族にしてしまう、怪談話でよく聞く化け物...
そう、「吸血鬼」である。
そして俺の目の前で何やら真っ赤な液体を飲んでる、鋭い牙がよく似合う彼女は...
「...人の食事をガン見するのはいかがなものかと思うぞ、人間。」
はい、吸血鬼なんですねわかりました。
ーー1日前
俺はザ平凡な高校生で、何もかもが普通だった。
(あぁ、今日も頑張ってんなぁ)
そんな俺の目線の先にいるのは学級委員の二葉さき(ふたばさき)。
男子みんなが憧れるスーパー美少女。
まぁアニメや漫画にいそうな頭脳、運動神経、性格、見た目全てが完璧の超人である。
彼女はみんなから頼られていて、まさにリア充って感じ。
(俺が彼女だったら、こんな気分にはなんないんだろうなぁ)
ここで一つ、現実離れした話をしよう。
俺は、自分に向けられる「悪意」がわかる。
というか刺さるような痛みとしてダイレクトに伝わる。
そして俺は私立、お金持ちの通う高校に通う庶民。
親戚のツテで入った高校なんだが、エスカレーター式の学校に編入に加えてそこにはバリバリのお家柄カースト制度が存在した。
よって俺は毎日変な悪戯の対象になっていた。
家柄を気にしないやつと友達になれたおかげで楽しくはやれてるけども、悪意が痛いのが辛い。
「どしたのさ扇しんどそうな顔して。」
「あぁ、朝から俺にはどうしようもないことを考えて呪ってたんだよ。気にすんな。」
こいつは俺の友達1号の二宮勝。みんなのムードメーカーなんだが、なぜかずっと俺と一緒にいる。
「風邪とかじゃ無いでしょうね。うつさないでよ?」
「具合悪いわけじゃねーよ。大丈夫。」
そして友達2号の宮彩花。俺の従兄弟だがこいつは金持ち。昔から面識があるから気の許せる唯一の女子。
「ゆーても扇は毎日しんどそうだけどな。同情するぜ。」
「私がどうにかしてあげれればいいんだけどね...。」
ちなみにこの体質?のことは誰にも言っていない。
「ほんっとにしんどいけど、まぁお前らいるし平気よ。がちで。それよりホームルームはじまんぞ。」
とこんな感じでほぼ普通の高校生活を送っている。
今日もこれからも、俺は普通だ。
ーー15分前
俺はクラスメイトに押し付けられた図書室の掃除を終わらせて教室に戻っていた。
(はぁ、流石に舐められすぎな気がするな...)
教室の目の前まで来ると、中から物音がする。
覗いてみると、二葉さきが何かをしている。
(...?電気もつけないで何してんだ?)
俺は少し彼女が何をしているのかに興味を持ちながら教室に入り、声をかけてみようとした。
ガララッ........
「ッ!?!?」
俺が教室に入ると二葉は勢いよくこちらに振り向いた。
「うおっ!ごめん驚かせたかっ.....て.......え?」
俺は言葉を失った。
だって、二葉の口からはまるで血のような真っ赤な液体が垂れていたから。
そして俺が落ち着きを取り戻していくと、彼女の口からはみ出た鋭い牙や、真っ赤に染まった目を認識できた。
二人の間に漂う緊張感。
それを切り裂くかのように、二葉の口が開く。
「...人の食事をガン見するのはいかがなものかと思うぞ、人間。」
ーーそして今に至ります。
いきなりよくわからないことを言われてしまった。人間って呼ばれ方したの初めてだよ。
「......ええっと?二葉さん?」
俺は理解が追いつかず、言葉が出てこない。
え?二葉さんが血を飲んでた?そんなまさか...血を飲むなんて吸血鬼みたいなことするわけ...
「この娘は二葉というのか。健康的でいい体だ。...して人間よ。わしはお前の知る娘では無い。」
「..............」
「わしは吸血鬼である!この体は乗っ取らせてもらっとる。」
「..............」
「そしてお前はわしの正体を知ってしまった。これがどういうことかわかるか?」
「..............」
「....なんか言え!ここは驚いたり怖がったりするとこじゃ!」
「ハッ!考えるのをやめていた...」
だってにわかには信じらんないじゃん?毎日見てる学級委員に吸血鬼が取り憑いてるなんてさ...。
「...とにかく、お前はこのまま帰すわけにはいかんのじゃ。わしの正体を知る者などいてはならん。」
「....えーっと、質問いいすか?」
「許す。なんだ言ってみよ。」
色々聞きたいことばっかなんだけども...
「やっぱりあなたは本物の吸血鬼なんですか?それと...なんで人間世界に?」
「うむ、わしは正真正銘ものほんの吸血鬼じゃ!わしがこっちに来たのはわしの家系の伝統が関係しとるんだが...聞きたいか?」
「そんなこと言われたら気になっちゃうよ聞くに決まってるよ。」
「じゃあ話してやろう。わしの家系では150になったら眷族と婿を探しに人間世界に行かせられるのだ。今はその真っ最中ってわけじゃ。」
なるほど。なんか漫画とかにありそうな設定だな。
「...それはわかったありがとう。それで俺は何をされるの?」
正直吸血鬼になんかされるとか怖い。ちびりそう。
「...お前には二つの選択肢がある。」
俺は黙って次の言葉を待つ。
二人の間に再び緊張感が生まれる。
そしてまたも彼女の口が緊張感を切り裂く。
「わしの眷族になるか、わしに殺されるかじゃ。」
「.........ぁえ???????????????????????????????????」
一瞬目の前に宇宙が見えた気がした。
一気に喉が渇く。声が出ない。これは驚きのせいか、または恐怖のせいなのか...。
「....質問コーナー第2弾、いっすか。」
「どーぞ。」
「まず眷族になるってどーゆーことすか?具体的にどうなるのか全く検討がつかないんすけど...」
眷族なんて漫画でしか聞いたことないよ。漫画だと手下というか部下みたいな感じだったな...。
「眷族とはわしとお前で契りを交わすことでわしらの精神を共有化するんじゃ。そしてお前はわしの下僕となるのじゃ。」
部下より酷かったわ。
「精神の共有化って...何がどうなるんすか?」
「精神を共有化するとわしらの魔力と精神力が共有化される。つまりわしの溢れんばかりのパワーをお前に貸してやることでお前は最強の護衛になるのじゃ。」
「わかるか!なんだ護衛って!魔力とか初耳だし何が何だかわかんないよもう...」
ダメだ価値観というか住んでる世界がちげえや。実際に違うんだけど。
「まあよくないけどいいや。そんで護衛以外には何すんのさ。」
掃除洗濯とかいうのだろうか。
「大きくは2つじゃな。まずは人間界の案内。わしはまだ人間界をよく知らんのでな。もひとつはわしの食事係じゃ。毎日3食分血を吸わせろ。」
あーなんかもう予想できたけど当たって欲しくないランキングぶっちぎりトップのやつ来ちゃったよ。
「血って......どんくらい吸うんすか。」
「んー貧血にはならない程度だから大丈夫だと思うぞ。吸い終わったらわしが傷口は治してやるし。」
それならいいか...いやよくはないな。完全に俺も毒されている。
「で、眷族になるか...」
「わしに殺されるか、じゃ。」
こんなん実質一択じゃんか。
「あちなみにわし吸血鬼の皇女だから魔力も一級品でな。眷族になる時に大抵の者は魔力に耐えきれずに魔獣になって実質死んでしまうぞ。」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」
詰みました。遺書書きまーす。
「ふざけんな!どっちにしろ死ぬんじゃねえか!」
「あははーまぁ仕方ないって運がなかったのう」
「何笑ってんだ笑えねえよ!!!」
とはいえ選択肢は一つしかない。
「...で?どうするんじゃ?」
「眷族になるに決まってんだろ。俺の魔力が一級品であることを祈るよ。」
多分これは人生最大の大勝負だろう。
死ぬか眷族になるかの勝負、どっちにしろ俺にプラスはないけど...。
「...わかった。じゃあわしがお前の首筋から血を吸う。そのときにとてつもない不快感がお前を襲うから...せいぜい耐えるんじゃな。」
「わかった。不快感を我慢するのには慣れている。」
俺は深呼吸する。
「よっしこい!!!!!!」
俺がそう言って瞬きをした瞬間。
俺は首筋を噛まれていた。
激痛。
激痛。
激痛。
その後に何かドロッとしたものが俺の中に押し寄せてきた。
不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快
意識が遠のき始める。吐き気がきたかと思えば頭痛に変わり、また吐き気に戻る。
これならいっそ死んだ方が楽なのではとすら思える苦しみ。
ーーあ、死ぬ。
そう思った。その時、脳内に記憶が流れる。走馬灯だろうか?
母と父との記憶。手を繋ぐ3人。笑いながら3人は指切りを交わす。
全く覚えのない記憶だが、この走馬灯が俺の意識を復活させた。その時にはもう不快感は一切無くなっていた。
そしてまた記憶が流れる。俺のではない。広場で銀髪の少女が笑顔で走り回っている。広場には家族や召使いのような人までいる。
しかし少しづつ広場には火が回り、周りの人もやがていなくなる。
少女は一人で寂しそうに広場に座り込んでいる。見ているのは俺一人。
俺は少女の横に座る。何故かそうしたくなったのだ。
そして少女の手を取ろうとした瞬間。
意識が蘇る。俺は教室で寝そべっていた。夕日ですら眩しく感じた。
そんな俺をどこか嬉しそうな顔をした吸血鬼が覗き込み、言った。
「わしはシュヴィー・アークバイト。わが眷族よ、名は何という。」
俺は深呼吸したのちにはっきりと答えた。
「瀬戸扇。よろしく、ご主人様。」
起章 完
というわけで授業中に何となく浮かんだお話を勢いで文字に起こしました。初投稿です。次回は気が向いたら書くので応援お願いします♪( ´▽`)