スーベニア=マニバス
ryosiosさん、7Days to dieの実況で賭けたけど絵なんか描けないんで代わりに小説書きました。
頑張って書いたんでこれで何卒許してください。
コミュのみんなも是非読んでください。きっと気に入ってくれると思います。
自身が認識している自分の姿というものは、大抵鏡に写った左右反転の像であり本来の姿とは異なる。そのため、写真などにより映し出される本来の自分は、形容しがたい違和感や、不快感といった感情をその者に与える。
そう、本当の自分というものは、その者にとって忌避の対象なのである。
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「なんなのよ、なんなのあいつ!」
迫りくるそれから逃走しながらスーベニア=マニバスは愚痴をこぼす。
彼女は、真鍮を始めとする様々な金属部品によって構成された機械人形である。本来頑丈なはずのその体だが、今は傷や破損が目立つ。
「──逃がさないわよ!」
聞きなれた声である。その声の主は、さながら万全の彼女のような速度で彼女を追いこし、その前に立ちはだかった。
歯車の装飾が施されたシルクハット、それを乗せる薄桃色の長髪、少女然とした顔とその右半分を覆う機械部分、そして機械腕の先に取り付けられた三本指の大きな手……その他の細かい特徴に至るまで目の前の存在の姿は、まるで──
「このわたし、スーベニア=マニバスの手から逃しはしないわ!わたしの偽物!」
もう一人の自分がそこにはいた。
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その『自称』スーベニアとでも呼ぶべき存在は、彼女の前に立ちはだかり不敵な笑みを浮かべる。
本当に瓜二つである、違いと言えば相手には傷も破損も見受けられないことくらいだ。
「ス、スーベニアは私よ!」
相手の意見を、その相手ごと否定するようにスーベニアは叫ぶ。
スーベニアは自分である、自分以外であるはずがない。作られた日から今日までずっと自分がスーベニアであったのだ。これからもそうであらねばならない。
「今日だって、正義の味方としてこの街の事件を解決したのはこの私よ!」
事件解決は彼女の生業である。時折訪れる街の異変を彼女はいつも単身で鮮やかに解決してみせる。しかし、それは決して仕事だからではない、それが彼女の在り方なのだ。
「ただ今日の敵はいつもより少し強くて、だから私、ちょっと負傷しちゃって…修理してもらうために博士のところに行って、そしたら、バッグアップをとるからって言われて…」
「そこまでの記憶はわたしにもあるよ。で、こうして修理が終わったから──」
「違う!そのあと『すぐに直すから少し外で待ってね』って言われたはずよ!」
「そんな記憶わたしにはない」
「言われたのよ!言われたはずよ…!!」
言われた筈である。微笑みながら、彼女の頭を撫でながら、優しい口調で彼女に語り掛けたあの博士の姿が嘘である筈がない。だとすれば…
「偽物はあなたよ!私は、私がスーベニアなのよ!」
先刻と同じ台詞を、今一度相手に突きつけながらスーベニアは構えをとる。通常攻撃ではない、多くの強敵を屠ってきた彼女の必殺技の構えである。
「私の前からいなくなれ!」
言葉とともに放たれた一撃が相手に炸裂する。
あたりに破片が飛び散る。歯車、そして砕けてひしゃげた三本指の機械腕…
「──今のってもしかしてわたしの必殺技?再現度低すぎじゃない?」
自称スーベニアは、先刻と全く同じ位置に五体満足で立っていた。
「あ、あぁぁ…」
必殺の一撃を防がれ、自慢の腕を肘から先にかけ吹き飛とばされたスーベニアは弱気の声を漏らした。
そして相手に背を向け一目散に逃げだした。その姿は、街を救うヒーローである筈のスーベニア=マニバス、その在り方とは似ても似つかない。
まるで、こちらが偽物であるかのような醜態であった。
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身も心もボロボロになったスーベニアの逃走劇は長くは続かなかった。
数百メートルも逃げきらないうちに追いつかれ、自称スーベニアの強力な一撃くらって無様にも地面に倒れこむ。
「なにが本物だよ、みっともなく逃げ出して。わたしがお前だったら穴があったら入りたい気分になるね」
自称スーベニアの冷酷な罵声がスーベニアの心を抉る。
「よく見たらお前が逃げてきた此処ってごみ捨て場じゃない。丁度いいや、お前もスクラップにしてごみ穴に入れてやるよ」
スクラップ。ごみ。これらの言葉にスーベニアは思わず戦慄する。それはドール達にとっての死である。
普段は自分が敵に向けて放つ言葉であるが、実際に向けられるとこうも恐ろしいものなのか。
自称スーベニアの好戦的なまなざしが、スーベニアを射竦める。
その姿勢は先刻スーベニアが相手を仕留め損ねた必殺技の構えと同様のものであるが、その威力は恐らく自分を屠り去るのに十分であると彼女は直感した。
死にたくない。
スーベニアの脳回路にその感情が一瞬にして広がり、覆いつくす。
生への執着と、不可避の死の狭間で、その考えに取り憑かれた彼女はこの状況でなお逃走を計った。しかし、とうにダメージの限界を超えた彼女の体は、這うような動きしかできない。少しの駆動でも体のあちこちが軋み、部品がこぼれ落ちる。
次の瞬間、スーベニアの全身が機関車に跳ね飛ばされたかの如く吹き飛んだ。数多の敵を屠ってきた必殺の一撃がスーベニア自身に炸裂したのだ。
眼下には、人形廃棄用の大きなダストシュートがぽっかりと開いており落下すれば二度と這い上がれないかのような闇が待ち構えている。
スーベニアは、成す術なくその闇に吸い込まれて、消えた。
自称スーベニアは、この世界でただ一体の本物のスーベニア=マニバスとなった。
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本物のスーベニアは、その勝利の余韻に浸っているのかしばらく放心していた。
どれくらいたっただろうか、その静寂をよく知った声が破る。
「探しましたよ、スーさん」
声に呼ばれ振り返ると空からドレスを纏った小奇麗なドールがそこに降り立った。日傘の中から覗かせる顔には、そのほとんどを占める大きなレンズがついている。
「貴方の奔放癖には困ったものですわ、その様子じゃ修理はもう終わったようですがシャパリュはとても心配していましたよ。おかげで私まで捜索に駆り出されました。」
やれやれといった雰囲気でそう語るのはスーベニアの旧知の一体、ヒエロドルテ=オキュラスである。相変らず、上層民特有の高慢な態度が鼻につく奴だとスーベニアは思う。
幾人かのスーベニアの友人の中から自由奔放な彼女を一番に見つけるのは、いつもこのヒエロドルテである。しかしそれは、スーベニアのことをよく理解しているからではない、単に飛行能力と大きな目が探索に向いているだけである。
しかし、本人はなぜかスーベニアにとっての一番の理解者のように振る舞うので、スーベニアの事を慕っているシャパリュ=アウリスと良く衝突している。今回も忽然と消えたスーベニアに関してなんだか色々揉めたようだ。
「そうだね、シャパリュには後で謝らなきゃ」
「私には?」
「お前は別に心配してなかっただろ」
「そんなことはありません。貴方が無事で本当に良かったと思っておりますよ」
『貴方が無事』という言葉が何故か少し引っかかった。
「此度の事件解決における功労者に向けてささやかながら快気祝いのパーティでも開こうと思いますが、どうです?」
「ほんと?そこまでいうなら招待されようじゃないの」
心中に浮かんだ疑問を捨て、スーベニアは上機嫌にヒエロドルテに付いていく。友人たちとともに笑えば、きっと嫌なことなどすべて忘れてしまえるだろう。
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暗闇に吸い込まれたスーベニアは積みあがった廃棄ドール山の頂上に落下していた。上から聞こえる楽しげな会話に彼女は怒りを覚えた。
「事件を解決したのも、みんなと友達なのも私よ…!あいつじゃない…」
体を軋ませ立ち上がろうとする。が、ボロボロの体でそれは叶わず再び倒れこむ。
その拍子にスーベニアの口からは、石炭と水の混じったドス黒い液体を吐きだされ、彼女は大きくせき込み、嗚咽した。
ドールといえど呼吸は必要である。石炭を燃やす炉に空気を送り込まなければいけないからだ。しかし、彼女の蒸気機関にはヒビが入っており、圧力がかかると体内の水や石炭が本来空気を取り込むべき気道を逆流する有様である。
今度の吸気でも空気は吸えない、代わりに先ほどよりも激しく嗚咽する。その吐しゃ物はもはや、石炭や水にとどまらずスーベニアの内部部品が混じっている。
この苦しみが何もかも偽物の自分によるものだと考え、スーベニアは怒りをさらに増幅させ、偽物がいる上を睨みつける。
しかしふと、その視線を向けているのが自分だけでないことに気づく。朽ち果てた周りのドールもそんな憎悪の目をしながら壊れている。
──そのドールはすべてスーベニアだった。
──無数の彼女がこの廃棄人形の山を形成していた。
スーベニアは思い出した。そういえば自分もかつて作られたばかりのころ、自分こそ本物だと主張するスーベニアと戦った。そして勝利した後、此処に捨てた。
きっと今、自身の下敷きになっているスーベニアが『そいつ』だろう。
それを思い出すと彼女は、ようやく自分が偽物である現実を受け止め、停止した。
いかかでしたか?ちゃんと文章を書くのは初めてなんで至らない点も多かったと思いますが、ここまで読んでくれて感無量です。
2日くらいで書いた話なんで制作秘話的なのは何もないんですが、しいて言えば投稿の際、序文に関して「なんかいい感じの文章思いついたけどスチームパンクと関係ないから削ったほうがいいかな」とか思ってました。
けれど「スーちゃんが自分どうし仲良くやれないの」って突っ込みが来たときこの一文があるほうが対立する構図が自然にみえるかな。とかいう悩みの末残したとかいうエピソードがあります。(なので、お気に入りの一文です。)
文章書くのが以外と楽しかったのでまたいつか機会があれば、今度はほのぼの系の話とか書いてみたいなぁと思っています。その時が来たら是非また。