82.鑑定 3
「あ、風の魔石が光りましたね!かなり強い。あと、水も」
「火も?・・・え?地も弱いながらついていますよ!」
「見ろっ!四大属性全ての魔石が光っているぞ!」
魔力属性の鑑定を受けるに当たって、本来の立ち合いよりも多い人数に見られることになり、さぞや緊張するだろうとわたくしに気を使って前方の机の陰に隠れていた魔術師達が、いまや全員立ち上がって騒いでいる。
なぜならば、前方の壁に埋め込まれている、属性ごとの魔石が四つも光り始めたからだ。
・・・ええ。それらが同時に光るのは当然でしてよ。
稀有なことでしょう?見られてよかったですわね。
机の陰に隠れればいいだろうと、あつかましく居座った甲斐がありましたわねぇ。
わたくしが、余裕をもって鑑定装置の石から20cmは離して翳していたはずの右手は、いまやしっかりと石に触れてしまっている。
え?悪役令嬢は光と闇だけでなく、それらの属性も持っていたのか?強欲だな。ですって?
いいえ。四大魔力属性の全てをお持ちなのは、今更ご紹介の必要もないこの方ですわ。
「手は翳すのではなく、このように直接触れるのだぞ、エミリアーヌ」
「・・・・・・はい。殿下」
ああ、あと7秒だったのに。
やはり、悪役令嬢の悪だくみは、攻略対象者に露見してしまうものなのですね。
案内人が開始の合図を出すまでに間があったのは、殿下が位置につかれるのを待っていたのだわ。
絶対に、わたくしがなにかしらの悪さをするだろうと、後ろで見張ることになっていたのね。
でも、いくらわたくしが侯爵令嬢だからといって、殿下に監視役をやっていただくことはないでしょうに。
わたくしの右手の上には、殿下の右手ががっちりと重ねられてしまっている。
そして、わたくしの手より、素敵な御手が素敵に大きいがために、自動的に殿下の指先が石に触れてしまっていて、殿下がお持ちの魔力属性が鑑定結果に出ている状態。
はぁ。
なにも背後から忍び寄られなくても、素敵な御声を掛けてくださればご指示に従いましたものを。
いくら信用がないとはいえ、またもや王太子殿下御身自らが拘束し、わたくしの指の間に御指を入れてまで押さえつけなくとも、逃走はいたしませんのに。
ああ、背後から覆いかぶさられて拘束されているだなんて。
殿下にあすなろ抱きされているわ~きゃあ(ハート)などという、勘違いすら許されないだなんて、無情だわ。
これがクロードだったのならば、当初の予定通り、よろけた振りをして足を踏み滅ぼしてやるチャンスだったものを。
相手が殿下では、一歩たりとも動けやしない。
そして、うっかり話しかけようものなら、耳元にお返事がくるから黙るしかない。
なんという拷問なの。
・・・ふふふ。
いいでしょう。
このような窮地に追いこまれようとも、やはりわたくしは強欲な悪役令嬢。
そのわたくしに、そちらから!そうされたのですから、それなりのことをされても文句は言えませんのよ?殿下。
さあ!わたくし!
あつかましく、この背に感じる殿下のぬくもりを堪能しておしまい!
只今わたくしの心臓は、バレた時のドキッ!の一発で心臓に負担が掛かりすぎ、自動的に省エネモードにて営業運転中。
だから、とても冷静に、背に密着している殿下のぬくもりを堪能している。
ふぅ。温かいわ~
いい匂いもして、この一瞬だけ幸せ~
とはいえ、勝手に堪能したことを理由に処刑されるかもしれない理不尽さに、まだ元気な脳内ではグチグチ大会が続く。
それにしても、そもそも論ですわよ、殿下。よくお考え下さいまし。
わたくしが先に、聖女として扱われることから、ヒロインを排除しようとするのですよ?
わたくしがヒロインよりも後に、光の魔力保持者であることが判明すれば、魔力量で聖女にはならないでしょう。
ですから、わたくしが、ナタリア様風に言えばこのわたくしが!わざわざ後出しになって差し上げようと計略していますのに。
これは、あなたさまの愛しいルーチェが、少しでも嫌な思いをしないための隠蔽工作でしてよ。
なぜそれを、あなたさまが阻止なさるのでしょう。
・・・それほどまでに、恋の障害になる悪役が必要なのでしょうか。
わたくしがイチコロなのですから、自信をお持ちになって!
どうぞ、あなたさまの魅力だけで勝負なさってくださいまし。
「殿下、さすがにまずいですよ。マルセルム侯爵が振り向いたらおしまいです」
娘LOVEのお父様がこの状態を見て、殿下に難癖をつけ、果ては婚約者にしろと言い出すと危惧したのであろうマティウスが、殿下をこっそり引き離しに掛かったのですぐに拘束は解かれた。
しかしすでに、やはりわたくしが四大属性持ちであることを疑った魔術師がこちらを見ていたらしく、ひとりすっ飛んでくる。
ああ。あらゆる疑いを掛けられるのがデフォルトだなんて。嫌な役回りだわ。
「殿下。お席をご用意いたしておりますので、どうぞそちらへご移動を。マルセルム嬢、鑑定をやり直しましょう」
「寒っ、あ、いえ、鑑定のやり直し・・・ええ、そうですわね」
離れたぬくもりを惜しみつつ、まあ、鑑定は殿下の分しか出なかったのだから、やり直してもなにも出ないわねと油断したその時、前方でひとりの魔術師が声を上げた。
「あ、あれ!見て下さい!光の魔石もうっすらとですが光っています!」
「えっ!?」ドキリ!
・・・うっ。ちょっと待って、わたくしの心臓。
本日の心拍数は売り切れだからと言って、閉店しないでちょうだい。
でないと、明日から永遠の定休日になってしまうわよ。
「なんと!殿下の属性と重なってしまいましたが、マルセルム嬢のものですね」
再び前方が騒がしくなり、なぜか殿下がいい笑顔でこちらに振り向かれる。
まあ!推しから素敵な笑顔を頂きましたわ(ハート)とか言っている場合ではないわ。
ゲームの強制力で、無意識に敵役の誕生を喜ばれての、この笑顔なのよ。
なんてことなの。
この時点で出てしまったと言うの?
どうしましょう・・・いいえ、落ち着いて。
大丈夫よ、わたくし。
ほら、監視役の殿下は前のお席に行かれるわ。
せっかく、鑑定偽装方法を編み出したのですもの。冷静に再犯しましょう。
「すぐに鑑定をやり直してくださいまし」
「ええ!聖女誕生の場に立ち会えて光栄です!あ、確定には三人確認者を付けることになります。すぐに準備させましょう」
え?なにか不穏なことを言われたわよ。
「確認者・・・それは周りで見張、見、られるということでしょうか?」
「はい。もちろん、絨毯のあるところからですが。ご不快でしょうけれど、不正を防ぐための規定ですのでご容赦ください」
「で、でも、まだ、間違いの可能性があるのですから、まずはひとりで・・・あ!お待ちくださいまし!確認していただきとうことがございます」
もう一度、周りに誰も居ない状態で受けさせてもらえるように交渉するよりも、これに賭けましょう。
ここに立った時に気が付いたあの線は、どう見てもおかしいのだから。
「ささ、どうぞ。ええ、こちらに。ここへ立ってくださいまし。きっと、ここからでないと見えないと思いますわ」
わたくしは、魔術師を手招いて鑑定装置の前に立たせると、並んで位置の説明をすることにした。
しかし、すっと、殿下がわたくし達の間に入られる。
「なにかあるのか?エミリアーヌ」
殿下・・・またもや悪役令嬢の誕生を阻止しようというわたくしの企みを阻止なさるおつもりですのね。
いくら相手があなた様でも、ここは引けませんわよ。
「では、畏れながら殿下にもご確認いただきとうございます。どうぞ、闇の魔石の左上、第24型魔法陣をご覧ください」
わたくしがそう言えば、殿下と魔術師、そして後方からマティウスも、前の壁を見る。
「24型がわかるとは。よく勉強しているな・・・ん?あれは?亀裂か?」
「き、亀裂!?す、すぐに確認させます!」
やはり。
誰の目から見てもそう見えるわよね。
ええ。魔術師が慌てて確認の為に前に駆け下りて行ったように、それは、それは、大変な事態よ。
闇の魔石に近い魔法陣に、わずかに線が入っているように見えるのだけれど、あれはたぶん、壁に亀裂が入っているのだわ。
え?よく気が付いたな。ですって?
あー、まあ、これは見ればわかることなので、大して自慢になりませんわ。
ここに立った方々は、光の魔石しか注視していなかったのでしょうね。
殿下のように、浮遊することができる魔術師がすぐに確認に向かったところ、やはり亀裂が入っていたらしく、またもや前が騒がしくなる。
そして、殿下の元に魔術師達が集まってきた。
・・・殿下はまだ、わたくしが逃走すると警戒なさっているのね。
さすが殿下。正解ですわ。
再び鑑定されることのないよう、確認にくる魔術師に場所を譲る体で、しれっと鑑定装置から距離を取ったわたくし。
装置のところで亀裂を確認し、『少し位置が変わると見えないものだな』といいながら、わたくしの側にいらしたお父様。
そして、しれっと入り口の扉近くまで逃げ・・・移動したというのに、またわたくしの隣に素敵な御姿で立たれている殿下の前で、魔術師が報告を始める。
「殿下。実は先日ご神木が倒れた際に、一部がこちらの建物にも当たっておりまして。おそらく、その際の衝撃で亀裂が入ったものと推測されます。直接当たったのがこの部屋ではなかったことから確認を怠りました」
「石が穴に落ちた際にかなりの振動がありましたから、その影響もあるのではないかと思われます」
「マルセルム侯爵閣下。ろくに確認もせず、先日はご子息に、ご神木を動かす際には慎重にと、しつこく願ってしまいました。そして日が経ちましたのに、只今ご息女にご指摘頂くまで気が付かないとは。情けない限りです」
ふむふむ。
あの日、ロイス兄様が結婚式の最中に居眠りをしてしまうほどお疲れだったのは、魔力だけでなく、神経も使ったからなのね。
え?ふてぶてしいお前も寝ていただろう?ですって?
まあ。わたくしだって、あの日は疲れておりましたのよ。
はぁ。今夜もよく眠れそうですわ。
それにしても・・・ここは押し通すべきかしら?
ええ、ここでしょう。今がチャンスよ。
お隣の殿下がなにやら考え込まれている隙に、なんとしても、わたくしに有利になるよう押し込みましょう。
「では、今、光の魔石が光ったのは、誤作動ということでよろしいですわね!」
「え?いえ、そんな。どうか自信をお持ちください。あの程度では影響はないと思われます。あ、では、もう一度。今度こそおひとりで鑑定を受けてくだされば、確証をお持ちになれるかと思います。さあ、どうぞ」
「もう一度・・・」
「はい。殿下の方は正確に出たのですから、間違いはないでしょう」
え、また出てしまったら?
なんとか誤作動ということに・・・・・・誤作動?
・・・ああ!
そういうこと。やはりこれは誤作動なのだわ。
そしてきっと、ゲームの悪役令嬢は、ここでやらかしたのよ。
誤作動で出た光の魔力を、自分のものだと言い張ったのだわ。
それで偉そうに聖女を名乗るだなんて。
はあ。厚かましいにもほどがあるわよ、エミリアーヌさん。
ええ、そういうことなのよ。
だからまったく聖女として使えなかったのだわ。
さすが今のわたくし。また重大なことに気がついてしまったわね。
そして、その今の優秀なわたくしは、悪役令嬢がたいして活躍しない道を選んだのですもの。
ならば、無理に聖女になる必要はないはず。
ええ、ここが運命の分かれ道!
ただの、通りすがりの一般悪役令嬢を目指すのならば、ここよ。
「いいえ。感知装置の方の反応は強かったのでしょう?では、今出た鑑定結果があれほど微弱なのは、他人であるか、もしくは誤作動ですわ。だいたい、一箇所でも不具合がある状態では、正確だと言い切れませんでしょう?なのに聖女認定されるだなんて。あなた、このわたくしに、聖女を騙らせるおつもりでして?」
「い、いえ!とんでもない!」
よし!できたわ!低めに言った脅しが効いたわよ。
ふふふ。
やはり悪役令嬢の素質だけは、確実に持っているわね、わたくし。




