72.事件です 5
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「そうだ、エミリアーヌ。もうアランのことは忘れてこの従者を覚えておくといい。学院でよく会うことになるだろうからな。でも、これは真面目そうに見えてしょっちゅう恋人を変えている。エミリアーヌが厭う、誠実さのかけらもない、女性関係が派手なタイプだ。私といるからどうしても目に入るだろうが、関わりは必要最低限にしておくのだぞ」
「まぁ・・・はい、殿下。仰せの通りにいたします」
―――殿下に対して課金イベントの値引き交渉はできないし、アルバイトをしたくても侯爵令嬢の身分では雇ってもらえないでしょうね。
あ、そういえば、この間南教会に寄付したバザー用の刺繍小物が、値を高くつけたにも関わらずすぐに売り切れたとお礼状がきていたわ。何か作って売りに出す?
ああ、でも匿名でハンドメイドを出品できるサイトなんてこちらにはないものね―――
などと金策を考えながらも慎重に歩いていたところ、なぜか殿下から、先導しながらさりげなく大きめの小石を退かしている従者を紹介された。
殿下は、わたくしの好みを考慮してくださっている体をとってはいるけれど、つまりは、わたくしに、目障りだからアラン様やこの従者などご自分の身近な者へは必要最低限しか関わるな!と、くぎを刺しておいでなのね。
ええ、わかりましたわ。
アラン様のことはともかく、わたくしとしてもこの従者には関わりたくないと思いますので、喜んで殿下の御指示に従いましょう。
「殿下!?なんという紹介をされるのですか!私は真面目なお付き合いをしています!ただ、長続きしないというだけで、
んんっ、失礼しました・・・僭越ながらわたくしめは、麗しきマルセルム侯爵令嬢にご挨拶できる幸運を得ました、シノン伯爵家が次男、マティウスと申します。主に学院内で殿下に付いておりますので、以後どうぞよき関係をお願いいたします」
殿下のお言葉に驚いた様子で振り返った従者は、次に愛想のいい笑顔をわたくしに向けてきた。
攻略対象者ほどハンサムというわけではないけれど、髪も瞳も色味がやわらかで、好青年という印象を受ける。
前に王城で見た時は、さすがに『いた!』と二度見してしまったわよ。
けれど、殿下の婚約者になるわけではないのだから関わることは無いと思っていたわ。
なのに、恋愛が長続きしない移り気な性格だったという、どうでもいいいらぬ情報付きで、ここで紹介を受けるとはね。
ただのおせっかい焼きかと思っていたし。
え?なんだ、紹介される前から知っていたのか?ですって?
そうね、今現在のわたくしとしては初めましてと挨拶すべきところだけれど、恵美としては画面越しに何度もこの顔を見ているわ。
まあ、フルネームですら初めて知った程度だけれど。
そう、この殿下の従者は、ゲームの王太子ルートに出てくる人物よ。
名前とセリフがある、わりと出番の多いモブとしてね。
―――ゲーム序盤の出番は王太子ルートの選択肢
《4日目昼休み》
ルーチェ:
あ!レオン様がこっちに向かって来る (殿下と敬称でお呼びなさい)
やっぱり、王子様はかっこいいなー (うん、うん、それは同意するわ)
昨日は気さくに挨拶してくれたよね (うらやましい)
どうしようかな?
1. もっと話がしたいから元気に挨拶しよう (お声を掛けを待ちなさい)
2. まわりの人のように頭を下げておこう (そうよ、それが正解よ)
3. お昼ご飯を一緒に食べよう (うらやましい)
―――ここ!まだ好感度が全然上がっていないこの時点で強気の『3』を選択してしまうと、出番よ。
従者マティウス:
『王太子殿下にはご婚約者様がいらっしゃいます。他のご令嬢とお食事なさることはありません』
―――そして、ここ!婚約者である悪役令嬢も登場するのよ!取り巻きを引き連れてね。
『まぁ。殿下には、わたくしというふさわしい婚約者がおりますのに。いくら殿下が平民にまで平等にお優しいからといって、厚かましいこと。このような常識がない平民に、同じ聖女を名乗られるだなんて不愉快ですわ。ねぇ、皆様、そうは思いませんこと?』
・・・光の魔力量はルーチェの方が断然上だというのに、態度だけは上からよね、わたくし。
そして、自分で言っていて悲しくなかったのかしらね。
マティウスはああ言っていたけれど、婚約者だというのに昼食に同席していた場面はなかったし、ゲーム開始の時点から、めったに一緒にいるところも見なかった。
婚約者であっても、皆と同じ、平等な、扱いしかされなかったのでしょうに。
そうね、きっと先ほど殿下がおっしゃった『厭うていたから関りは必要最低限』だったのでしょう。
あのエミリアーヌに教えたいものだわ。
『貴女の努力が報われることは決してないのよ。ルーチェを殺そうとするのではなく、自分の恋心を殺しなさい。そうすれば、殿下にそれ以上に嫌われ、処刑したいほど憎まれることもないでしょう。
ほうら、今のエミリアーヌを御覧なさい。早く諦めてしまえば、こうして課金させていただけるのよ。その権利があるだけでも幸せよ』と。
はぁ。その請求が怖い・・・ああ、脱線したわ。マティウスの人物紹介に戻るわね。
ええと、そういう感じでマティウスは、ヒロインが序盤から殿下に馴れ馴れしくしようとすると、やたら婚約者がいることを持ち出して注意してくるのよ。
え?いいじゃん、これだとマティウスは常識があるし、殿下の婚約者の味方じゃん、仲良くしとけば?ですって?
いいえ、とんでもない。
ゲームの中盤、殿下の好感度がいい具合に上がってくると、マティウスは路線変更して出しゃばり始めるのよ。
従者マティウス:
『殿下。あちらの教室は人払いしてあります』
従者マティウス:
『殿下。あちらのテラスに二人分の昼食をご用意いたしました』 等々
そうよ、よく考えてみればいくら同じ学院にいるからと言っても、身分はともかく学年からして違う殿下とは、そうそうお会いできる機会なんてありはしないでしょう。
そこで、逢瀬の場を用意するのが、このマティウスなのよっ!!
そう思えば、ゲームでヒロインだった恵美としてはありがたい存在のはずなのだけれど、どうにも序盤に出てくると舌打ちしたモブキャラだったから印象が悪いのよね。
ええ、たとえ王太子ルートで殿下の好感度を上げるために、最適な選択をするようプレーヤーを誘導する役割だったとしてもね。
そ・し・て!
もし、万が一にもここからわたくしが殿下の婚約者になってしまったとすれば、将来的にヒロインに味方するマティウスはきっと、ヒロインに何も意地悪をしようとしないわたくしを、どうにか婚約破棄に導く役割をするはずだわ。
これはクロード以来の塩対応でいいわね。
そういえば、忘れていたけれど、クロードはどうなったのかしら?
まさか、戻ってきたりはしないでしょうね?
まあ、もし戻って来てしまったら、足を踏みつけて再びの病院送りにして差し上げましょう。




