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70.事件です 3

ブックマーク登録&評価&ここまでお読み下さりありがとうございます!


遅くなりましたが、今年もどうぞよろしくお付き合いのほどを

「エミリアーヌ!よかった、間に合った」


「は?あの、え?」


ひぇ。両手をすくうように取られては、礼の姿勢が取れませぬ。

間に合ったとは?何に対してでございましょう?


わたくしがクロード殺害未遂の指示役として逮捕され、国外へ放逐される前に間に合って『よかった』?

こいつは毒殺未遂の黒幕でもあるのだから、国外追放ではなく処刑にすべきだから、と?

そんな爽やかな笑顔でおっしゃられるだなんて。


まだターゲットであるヒロインが未登場だというのに、わたくしは一体誰に毒を盛ったことにされているのでしょうか?

こちらの実行犯はリゾット・ピラフ。ならば、そちらはドリア・パエリア?

該当者に心当たりはございませんわ。


クロードルートと王太子ルートの同時多発イベントはさすがに堪え兼ねます。

この手を握られているのは、捕らえられたということでしょうか。

もう逃がさない?ああ、違う意味で言われたかった。


「殿下!開門を待たずに飛び越えるのはおやめください!私では追いつけません」


そう。

後から駆け足でやってきた、王族の従者を示す服を着た者の呼び掛け通り、今、わたくしの目の前に現れた素敵な王子様は、まごうことなき王太子殿下。


ああ、白いマント姿が素敵すぎて死ぬる。

もしや、今度は悶え死にの刑?


息を整えている従者は、いつものアラン様、ではなく・・・この方は確か学院でだけのはずなのにどうして・・・アラン様はなぜいないのかしら・・・


はっ!ま、まさか、王太子ルートのイベントである毒を受けられたのは、ヒロインではなくアラン様なの!?


そして?そして、毒に慣れた素敵で無敵な殿下が?アラン様に、く、口移しで解毒剤を与えられたというの!?


ああ、なんてこと。

どうせ冤罪で処刑されるのならば、せめてその現場に居たかった。

見たくて見たくて震える。BL脳が震える~


「エミリアーヌ?どうした震えて。ああ、事件の話を聞いて怯えているのだな」


「いえ・・・」


いいえ。毒殺未遂事件の方のお話はまだ何も伺っておりません。

この震えは・・・ええ、そうですわ。これは殿下のおっしゃる通り、これから聞かせられるであろう毒殺未遂事件の犯人として、断罪されることへの怯えからくる震え、ですわ。


はい。決して被害者の回復過程を想像して()るえているわけではございません。


すぐにでも断罪を始められるであろう殿下に対して、しれっと普通にご挨拶できる鉄面皮は、まだ悪役令嬢として未熟なわたくしには持ち合わせがない。


『おーほほほほ。わたくしがやったという証拠はございまして?』

という、ゲームの中のエミリアーヌがよく言っていたセリフも、まだ練習していないから口から出てこない。


何も言葉が出てこないので、不敬ついでに見納めしようとただ黙って目の前の殿下を見上げる。


ああ、この素敵なお顔を無料(タダ)でガン見したという罪で処刑されるのならば納得できるのに。

あの冷たい視線は、まだ向けられていないので只々素敵です(ハート)


殿下としばし見つめ合う形になってしまった。しまった、今日は完全にスッピンだわ。

まあ、塗りたくろうとも、お好きではない顔に変わりはないでしょうけれど。


すると、見つめ過ぎて目が錯覚を起こしたらしく、獲物を捕らえているかのようにじっとわたくしに向けていらした殿下の視線が、なぜか近づいてきているように思えた。


「ウォッホン!」


急なお父様の咳払いに、殿下は一度頭を振られてから、ついと視線を容疑者の保護責任者であるお父様の方へ向けられる。


「マルセルム侯爵、軽く報告は受けた。取り調べはどうなって、」「ウォッホン!」


お風邪を召されてしまったのか、またもや咳ばらいをしたお父様は、なぜかわたくしの真後ろに移動してきてわたくしの肩に手を置かれた。


すると、わたくしの両手を握っていらした殿下の手が離れる。

まさか今度はお父様に捕らえられた?


そうですわね。

いつまでも殿下に容疑者を捕らえさせているなどということはあり得ませんものね。

お父様と殿下に挟まれてしまったので周りが見えないけれど、護衛の騎士は何をしているのでしょう。


でも、これはチャンスだわ。お父様なら逃がしてくださるはず。

と、下がる振りからの逃走をたくらんだのだけれど、なぜかお父様に肩を掴まれたままなので移動できない。


ああ、はい。お父様の意図を汲み取りましたわ。

容疑者として取り調べを受けさせられるだなんて、侯爵家の娘としてそんな失態は許されませんもの。

クロード殺害未遂の濡れ衣は、伯爵令嬢のナタリア様が脱がせてくださったのだから、毒殺未遂の濡れ衣は、ここですぐに自分で晴らして乾かせとおっしゃいますのね。


一応お父様の表情を窺おうとしたけれど、すぐにお父様と殿下がお話を始められたので、振り返ることは叶わなかった。


「これはこれは王太子殿下。本日は重要な議会があったはずですが、なぜこちらへ?」


「・・・閉会してから来たので遅くなったのだ。エミリアーヌが、いや、聖女が現れたとなれば、王族としても無関係ではない。私の妃として迎えることになるやもしれぬしな。だから鑑定に立ち会うのは当然だろう?」


「んまぁ!」


見えないけれど、ナタリア様が小さいながらも弾んだ声を上げたのは聞こえた。


対してわたくしは、一瞬にして未来図を突き付けられた気がして視線が下がる。


ええ。将来殿下は、聖女であるヒロイン(ルーチェ)を妃にお迎えになりますわ。


え?待って。

これだけイベントが前倒しされているにも関わらず、まだそのルーチェは現れていないわ。

鑑定に立ち会われて、今日にもわたくしに光の魔力が少量だけれど有りと殿下に知られたら、婚約者にされて王太子ルートが復活してしまうのでは?

王太子ルートで婚約した時の悪役令嬢の年齢は、今のわたくしと同じ歳なのですもの、まだ可能性があるわ。

ああ、恐るべし強制力。


いえいえ、今現在すでに毒殺未遂事件の主犯だと疑われているのにそれはないわよね。

でも、疑惑を晴らせば殿下の婚約者となり、後出しヒロインのせいで処刑。

疑惑を晴らさなければ、このまま処刑。

つまり、どちらにしても処刑!詰んだわ。


「ほう。そのように可能性の低いことにまで縋りますか」


「ああ、申し込みは本気だ。諦めはせぬからそちらが諦めてくれ」


頭上ではお父様と殿下の会話が続いていたけれど、わたくしは他に回避の道はないものかと思案していたので、あまり会話の意味は考えられなかった。


「お話の途中に失礼いたします。殿下。場所を変えられてはいかがでしょうか?お部屋はご用意してあります」


修道士を伴った殿下の従者が割って入ってきた。

取調室を用意するだなんて、貴方は()()()()()気が利き過ぎよ。


「そうですな。私からも場所変えを希望いたします。殿下。本日私は休暇を頂いておりましてな。()()()休みなのです。ですからファドリック侯爵子息襲撃の報告も今、受けた有様で。しかし、そちらのご令嬢がエミリアーヌも狙われていたとおっしゃるので、詳しいお話を伺おうとしていたところです」


「なんだと?」


お父様が示した方へ、殿下が振り向かれた。

ようやく見えたナタリア様は、殿下の後方にいらした。

なので、わたくしからは殿下の表情が見えなくなる。

しかし、ナタリア様の怯えた様子から、殿下の表情は察せられた。


「ナタリア・サミュール、嬢か。私も詳しい話を聞かせてもらおう」


「は、はい。王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。お声掛けいただきまして光栄ですわ」


いえ、絶対にご機嫌麗しくはないでしょうに。

でも、ちゃんとご挨拶が出てくる強メンタルは見習わなくては。


ああ、それにしても残念だわ。

わたくしに向けられていないのなら、殿下の冷たくて厳しい表情を見たいのに。


少しでいいので見たいわ~と思っていると、殿下がくるりとこちらに向かれた。

しかし、表情はもう王子らしい微笑みを浮かべていらした。


「では、行こうか」


殿下のお言葉に従おうにも場所がわからない。

修道士が殿下へ道案内を始めたので、後から付いて行こうとしていると、お父様に呼び止められた。


「エミリア、あちらで少し話をしてくるので、ここで待っていなさい」


お父様が先ほど報告に来た騎士を連れて離れようとしているので、承諾して足を止める。


え?お前の父親の仕事はなんだ?ですって?

お父様は王城の相談役よ。たぶん。

子供の頃に尋ねたら『人から話を聞く仕事だ』とおっしゃったもの。


アルフ兄様は『お父様はエキスパートだから頼りにされている。私はとてもではないが後を継げない』と、輸入関連のお仕事に就かれたわ。


ちなみに、恵美の父親はサラリーマン。

出張のお土産に、なぜか落雁ではなく和三盆糖を1Kgも買ってくるような人なのよ。

まあ、そのおかげでこちらでもお菓子が作れたのだけれど。


お父様が戻られたときに場所がわからないと困るので、殿下が向かわれた方向を確認する。

・・・?

他の人はいるのに、殿下はいらっしゃらない?

そんな馬鹿な。どれほど人がいようと、わたくしが見逃すはずはないのに。


もしや、お忙しくて帰られたの?

ナタリア様のお話も伺いたいけれど、これは逃げるチャンスかしら?


正門の方も確認しようと向きを変える。

しかし、目の前には白い布が。

なにかしらと見上げるとそこには・・・


ひっ!殿下!?

なんてこと。名探偵殿下はわたくしが逃亡することをお見通しでしたのね。


慄いて一歩下がると、細く高いヒールが砂利に引っかかってしまい少しよろけた。

そこで殿下に右手を取られ、再び捕獲される。


そして、そして、なぜか、そのままわたくしの右手は殿下の左腕に挟まれた。


「エミリアーヌは私が連れて行こう」


殿下がお父様に向けてそうおっしゃる。

逃げぬよう殿下自ら連行なさろうと?

そんな。わたくしごときが殿下を煩わせるわけにはまいりません。


え?ちょ、お父様?承諾なさるのですか?頷かないでくださいましー!




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