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08.ふたたび執務室にて

「時にエミリアよ」


「はい、お父様」


「王太子殿下の婚約者候補を辞退すると言い出したのは、誰かになにか言われたからなのか?」


「・・・いいえ?」


前世の記憶から自分の末路を知っただけなのですよ。


「・・・昨日の午前中、王太子殿下の婚約者候補を辞退してきた」


「はい。お手数をおかけしました」


「ほんとうによかったのだな?昨日の殿下の訪問時に、お前が殿下を見て頬を染めていたとの報告が上がってきたが。まあ、もう取り消しはできんがな」


「・・・はい」


昨日は、たぶん頬を染めていたなんてかわいらしい程度ではなかったと思う。

わたくしから辞退を言い出したことを知っていた者は、さぞかしわたくしの真っ赤な顔を訝しげにみていたことでしょうね。


わたくしは現在、ふたたびお父様の執務室にいる。

王太子殿下へ向けて、2つ目のお花のお礼と、倒れてしまったことへのお詫び、そして倒れるわたくしを受け止めて下さったことへのお礼と、わたくしが重くて驚かせたことへのお詫びを書き、この詫び状でもう登城は勘弁してくれないかしらと思っていたところに、お父様から呼び出しを受けて。


ラウルの不敬はわたくしの管轄ではないので、知ったこっちゃありませんわ!

まあ、ついでなので一応ラウルの分のお詫びも書きましたけれども。


でも、これで王太子ルートは完全になくなった!

一人目の攻略者候補からは完全に逃げられた!


・・・はずなのに、なぜか手放しで喜べない。

少し、ほんのちょっぴり悲しいのは、本来のエミリアーヌとしての恋心なのでしょう。

幼い頃、城の庭で一目見たとき以来、ずっと殿下のことが好きだったのですもの。


ごめんね、エミリアーヌ。

好きな人と婚約できたはずなのに、恵美としての記憶が邪魔しちゃったね。

たとえレオ・・・殿下にやさしくしてもらえなくても、そして二年後にヒロインに取られるのだとしても、少しは婚約者として特別扱われ、お側にいられたのにね。


次に殿下とお会いできるのは、謝罪の場。

どうせ断罪されるのなら、一時でも婚約者になりたかった。

ヒロインがあらわれたらすぐに譲るなりして、処刑回避の努力をしてみればよかった。


でももう、その機会はない。

わたくしはただ、殿下とヒロインが笑い合う実物を見ることになるだけ。


そういえば、逆ハーレムルートに殿下の婚約者はいるのかしら?

その婚約は穏便に解消されるってことよね?悪役はわたくしだけなのだから。

ゲームで悪役令嬢が王太子以外の婚約者だった時、殿下の婚約者が誰だったのかさえ思い出せない。

たとえばわたくしのライバルだったサミュール伯爵家のナタリア様と寄り添う姿・・・は、見たくないし、やはり覚えがないわ。


早ければ、来週の婚約者候補を集めたお茶会で殿下の婚約者が決まるかもしれない。

そうしたらこの先、殿下がその、婚約者のご(わたくしではない)令嬢をエスコートする姿も見なくてはいけないのね・・・


・・・さあ!しっかりして、エミリアーヌ!

処刑回避(わたくし)のために、殿下にはヒロインのハーレムに入ってもらうのよ!

結局そんなところが逆ハーレムルートにおいても悪役なのよ!

逃れられないのだから、悪役令嬢らしく、高飛車に上をお向きなさい!


すっかりうつむいていた顔を上げると、わたくしの様子をみていたお父様からふたたび声が掛かる。


「さて、エミリア」


「はい、お父様」


「昨日、我が家から城へお戻りになった殿下に会ったのだがな」


「は、はい」


「お前の体調がよくなったら、城によこすよういわれた」


「はい。わたくしも通達を受けております」


昨日はあれから、破いたカードを持って行こうとするラウルを追いかけて廊下を走っていたら、アルフ兄様の執事に見つかってしまい、ものすごく怒られた。

倒れたばかりなのにと言うので、心配してくれているのだなとおとなしくお小言を聞いていたら、よけいに心配されてベッドへと戻されてしまった。


なので結局、ラウルからカードを取り戻せていない。

ラウルは今日はもうロイス兄様と学院へ行ってしまったし。


「王太子殿下に呼び出されるなど、恥ずかしいことをしてしまい申し訳ございません。きちんと謝罪してまいります」


「謝罪?理由を聞いても答えて頂けなかったのだが、まあ、行ってみんことにはわからぬな」


「・・・お父様、ラウルの件の謝罪も必要かと」


「・・・ああ、あれはいい。大丈夫だ」


「・・・本当に執事なのですよね?」


「うっ、そうだぞ、ただの執事だ」


やはり怪しいわ。

だいたい、あの場には他の執事もいたのに、誰もラウルの不敬を咎めなかったのかしら?


「ラウルとの婚約は考え直すようにとアルフ兄様に言われたのですが」


「・・・ああ、あれはそう言うだろうな。お前がラウルを望むならと話を進める気でいたが、どうにも不安でな」


ですよね、不安でしかないわ、あの人は。

お父様の不安げな表情に同意して頷いていると、お父様の隣から声が掛かる。


「―――エミリアーヌ」


「はい、お母様」


実は、今日はお母様もこの部屋にいらした。

隣国エスペル王国の、元お姫様であるお母様が。





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