66.もう、私が準備しておきますよー
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「リアーナ、急ぎなの!手伝ってちょうだい!ああ、デリアも来て!」
お父様からなぜ教会へ行かねばならぬのか説明されたわたくしは、執務室から退出すると、道すがらにいたメイドを連れて自室へと急ぐ。
「お嬢様?お嬢様!早すぎます!危のうございます!」
つい、淑女らしからぬ競歩並みの早歩きになっていると、後ろからついてくるベテランメイドのリアーナから注意が飛んできた。
そうなのよ、早すぎるのよ、危ないのよ、一大事なのよっ!!
もう?今?こんな急な展開は考えていなかったのに。
走らないだけましだと思ってちょうだい。
優雅に歩くなどという余裕は、動揺しまくっている今のわたくしにはないの。
いっそこの廊下の窓を開けて「聞いてないわよー!」と叫び、全力ダッシュで逃げたいくらいよ。
それでも、お父様の前では『早すぎます!』と一度しか叫ばなかったわね。
淑女としてはダメだけれど、この状況では偉かったわよ!わたくし!
そして、もしかしたら、悪役令嬢ではなく勇者ではないのかしらね?
この短い時間にヤツに正対しようと決心するだなんて。勇敢よ!わたくし!
自分を鼓舞しながら自己最速で階段を上がり、三階にある自室の前に到着したわたくしは、さっさと自分でドアを開けてまだ茶器をいじっていたメアリに向かって叫んだ。
「メアリ!出掛けるから着替えるわ!」
「ほえっ?びっくりしたー。もうデーええと、出掛けられるのですか?」
わたくしの剣幕に驚いたメアリが、またもやティーカップをガチャリと鳴らす。
「ええ、面倒な教会へ行かなくちゃならないのよ。行きたくないけれどお父様をお待たせしているから早く。ああ、もうそこに出ている・・・そちらの服でいいわ」
殿下とのお出かけ用に準備して出しておいた二着のうち、お忍びならば着て行かれない、侯爵令嬢らしい方の服をメアリに示す。
「あの服をどこへ着ていかれるのかと思っていましたが、教会だったんですかー」
メアリがなにやら言いながら部屋の隅のハンガーラックへ向かうのと同時に、開けっぱなしにしていたドアからふたりのメイドが部屋へと入ってきた。
そしてわたくしの着替えるという叫びが聞こえたらしく、ドアを閉めるとその前に衝立を設置し始める。
はぁ。はぁ。さすがに少しクラっときたわ。
取り乱しすぎよ。淑女教育の自習はどうしたのかしら?わたくし!
はぁ、深呼吸、深呼吸。ひぃー、ふぅー
大丈夫。動いて発散したから少し落ち着いてきたわね。
そう、大丈夫、大丈夫。お父様には3回もお願いしたのだから大丈夫。ひぃー
あとでもう一度、二度、三度念押しすれば大丈夫よ、きっと。ふぅー
今度は姿見を運びだしたメイド達を見ながら、数回深呼吸をする。
リアーナは、メアリが持ってきた服を確認すると、部屋続きである衣装部屋へと向かった。
あら大変!わたくしったら殿下直筆(一行)のお手紙を握りしめてしまったわ!
わたくしは急いで本棚へ向かうと、お気に入りの詩集の間に手紙を挟み込む。
そして、詩集を本棚へ横にして戻すと、皺のばしの為に上に重い本を乗せた。
よし、と。ここならラウルに見つかって燃やされることはないでしょう。
でも、ちゃんとした宝物入れが欲しいわね。
まあ、この騒動が終わったらなにか探しましょう。
ようやく落ち着いたわたくしは、姿見の前まで行き、両腕を少し開いて着替える時の体勢をとる。
すぐにデリアが、わたくしが着ているワンピースの腰のリボンをほどき、髪を前へ避けて背中のボタンを外し始めた。
「お嬢様。教会へ行かれるということは、もしかして、魔力鑑定を受けられるのですか?」
ふたつ年上のメアリより、よほどまともに仕事はできるけれど、おしゃべりが好きで結局メアリと共にメイド長お説教常連組所属のデリアが、わたくしから服を脱がしながらそう問うてきた。
「魔力鑑定?お嬢様はまだ14歳ですよ?」
わたくしがデリアに返事をするよりも早く、左手に着替えを持ち、右手で脱いだ服を受け取ったメアリが疑問を呈する。
え?メアリとデリアの役割が逆ではないのか?ですって?
いいのよ。他のメイドがいる時はメアリは手を出さない、というのがわたくしのお部屋のルールよ。
それにデリアはわたくしの部屋付きではないのだけれど、なぜかよく見かけるから着替えを手伝わせるのも慣れているのよ。
「そうなのですが、なんでも、中央大聖堂の魔道具にほんの数分だけ光の魔力の反応が出たとかで、昨日は今年15歳の者が鑑定を受けたそうです。でも、該当者がいなかったので、一応14歳でも受けることになったのかなと思いまして」
「ええ、そうなった、らしいわ」
デリアの言う通り、中央大聖堂には王都にしかない光と闇の魔力を感知する魔道具なるものがあり、三日前、光の魔力の反応が出たのだそう。
つまり、だれか光の魔力の持ち主が王都に現れたということになるらしいわ。
それで、わたくしにも教会から呼び出しが掛かったとお父様から告げられたの。
え?魔力発現は15歳になってからだろう?なぜまだ14歳のお前が鑑定を受けるんだ?ですって?
聞いて下さる?それはヤツ!ヤツよ!クロードのせいなのよっ!
なぜか、ヤツがわたくしが聖女だと言い張っているらしいの。
なぜわたくしが光の魔力を持つとわかったの?まあ、これもゲーム補正かもしれないわね。
でも、いくら教会に莫大な寄付をしているファドリック侯爵家のご令息が言い張っているからといっても、なんの根拠も証拠もあるわけではない。
だからわたくしだけを呼び出すわけにはいかない教会側は、まず、魔力が発現している可能性の高い15歳から鑑定を始めた。
でも、該当者がいなかったので、一応!クロードの顔を立てるために、一応!わたくしを呼びだしたい。
そのために今日はすべての14歳の者を呼んでいる、ということらしいの。
クロードめ。本来ならば15歳だけで済んだはず。
わたくしのみならず、関係のない方々まで巻き込むだなんて。
ものすごーく超スーパーハイパー迷惑極まりない話だわ。
もちろん、わたくしはお父様に『早すぎます!わたくしはまだ14歳です!ありえませんわ』と訴えたわ。
でも、ありえないことではないと言われたの。
なんでも王族の血が濃いとまれに早く出ることがあるとかで。
実際、お母様が元王族であるアルフ兄様も、15歳の誕生日の数日前には兆候が出たのだそうよ。
まあ、殿下がさすがで素敵だから魔力発現も早かったので、その可能性があるのはわかったわ。
でも、それにしても、よ、そもそも、よ。
魔道具で光の魔力の持ち主だと発覚するだなんてことが想定外よ。
ゲームでは、平民のヒロインが魔力持ちだということは、魔道具によって発覚したという話ではなかったじゃないの。
ヒロインの光の魔力が覚醒した時のことは開始時に軽く説明場面が入っただけだった。
―――ヒロインは街中で子供が馬車にはねられたところに出くわした。
しかし、それが孤児だったために誰も積極的に助けようとしない。
全く動かない子供を『助けたい!』と思い駆け寄った瞬間、光の魔力が湧き出た。
ヒロインが手を触れた子供は元気に立ち上がる。
そして、その場に貴族が居合わせたことで聖女と判明し、魔力操作を学ぶために学院へ入る―――
端折り過ぎよ。教会うんぬんもあったはずなのだから、その説明も入れなさいよ。
ヒロインがその程度だから、当然、悪役令嬢が光と闇の魔力持ちだと発覚した時の話なんて一切出なかったじゃない。
本当に、この時点でわたくしが光の魔力持ちだと発覚するというの?それも光だけ?
恵美は王太子ルート以外は真剣にやらなかったから、他の攻略対象者がいつ悪役令嬢と婚約したかなんてことはいちいち覚えていないのよ。
こんなに早くクロードと婚約したの?
ああ、14歳は平穏無事に過ごせると思っていたのに、よりにもよってここでクロードルート襲来だなんて。
「わぁ。お嬢様が聖女かもしれないってことですか?」
「ち!違う、わ。そんな設定見た覚えがないのよ。まだわたくしではないでしょう?ほんとうに今なの?」
メアリの能天気な言葉をできれば否定して欲しくて、情報を持っていそうなデリアの方に迫る。
冗談じゃないわ。わたくしにとっては、ヤツに聖女と呼ばれることは=死なのよ!
「お、お嬢様?お落ち着いて下さい。実は昨日は私の妹も呼ばれたのですが、教会の方でも半信半疑な雰囲気だったそうですよ」
「まあ!詳しく聞かせてちょうだい」
「はい。昨日は15歳でまだ未鑑定の者が誕生日順で呼ばれたそうで、妹は最後だったそうです。それで残念ながら該当しなかったので、やはり魔道具の誤作動か見間違いではないかと修道士達が話していたそうです。ちょうどアルフレット様の結婚式の最中で、目撃者はひとりだったそうですし」
「誤作動!見間違い!そうよね!?そういうことにしましょう!」
「ええ。すぐに消えたというのもおかしいですしね。普通はそのまま出ているはずですから」
デリアの言葉にほっとしていると、メアリが妙なことを言い出した。
「すぐに消えたというのは、たまたま王都に入ってきた聖女様が、すぐに出て行ったとかですかね?」
「数分で出て行かれただなんて、なにをしにいらしたのでしょう?」
「なるほど!そういうことになるのね?わたくしは王都にいるわ!ということはわたくしではないのよ!ああよかった!」
ん?王都から出れば消えるということは、王都にさえいなければバレないということでは?
ならば15歳になる前に領地に引きこもればいいのではないかしら?
あ、でも15歳になったら王都にある学院に入らなければならないのだから、無理な話ね。
やはりお父様に頼るしかなさそうだわ。
「お嬢様?もしかして、魔力属性が光なのはお嫌ですか?」
「嫌よ!魔力が弱いのに聖女などと煽てられ、結局は裏切られるだなんて」
ええ、クロードルートでの断罪場面でのあの言葉。
あの時だけは悪役令嬢に同情したのだから忘れもしないわ。
「え?短時間でしたがとても強力だったという話でしたよ。だから聖女様ではないかという話で、」
「強力!?では絶対にわたくしではないわね!」
ええ、大丈夫ね。
強力ならばわたくしではないわ。きっとヒロインよ!
あら?でもルーチェも王都に居るはずよね?
まあ、たぶんうっかり短時間に一生懸命なにかしでかしてお漏らししたのよ、きっと。
「お嬢様?ではない方に自信がおありのようですが、希少魔力の光ですよ?普通はもしかしたら自分かも!?と、張り切って鑑定を受けるとこですよー」
「そうです。もし聖女様だったらあのファドリック侯爵家のクロード様と結婚できるかもしれないんですよ?」
「ひっ!絶対に嫌っ!!!」
デリアが夢見る乙女の表情をしながら恐ろしいことを言い出した。
こんな身近にもヤツの毒牙に掛かっている者がいるだなんて。
「うーん、デリア。いいですか?クロード様なんて、お嬢様は眼中にありませんよ」
あら、メアリ。さすがわたくし専属メイド。よくわかっているじゃないの。
そうよ、クロードなんて顔だけ男はアウトオブ眼中よ。
気分よく、一瞬、一日刑期を減らしてあげようかしらと思った途端に、またもやメアリは爆弾を投げつけてきた。
「お嬢様は王太子殿下一筋ですからねー」
「メアリっ!!・・・メアリ。いいこと?もう殿下はご婚約者が決まるの。それはわたくしではない方なのよ。だからもう、わたくしの勝手な感情なんて軽々しく口にしないでちょうだい。どなたも不愉快に思われるでしょう?わたくしも一応侯爵令嬢なの。平民が『殿下をお慕いしています』と言うのと同程度では済まされないのよ」
婚約者が決まったというのに、辞退した侯爵令嬢がうだうだと殿下をお慕いしていると言っているだなんて、そんな話が広まったら大変よ。
ナタリア様たちに未練がましいと言われるだけなら負けないけれど、そのうち思い余ってなにか婚約者に仕出かすかもしれないからと、殿下に前もって処刑されることになったらどうするの。
まったく。平民のヒロインは気軽に『レオン様大好きです』と言えていいわよね。
やはり貴族の結婚に恋愛感情は不要なのだわ。
「あー、ご婚約者~。だから殿下はあんなこじつけをしてまでも必死にお嬢様をデ、お嬢様に頼みごとをされたのですねー。うまくいくといいのですけどー」
ええ。きっと殿下はご婚約者が決まる前に、魔石を手に入れて魔術を強化されたいのでしょう。
必死?だった?そんなに期待されているのに何度同行しても見つけられなかったら、またもや処刑の危機かしら。あ、処刑といえば。
「そうだわ、メアリ。念を押すようだけれど、ご依頼内容は絶対に漏らしてはダメよ。ラウルに言えと脅されたらわたくしに言いなさい」
「あー、例の件ですね!口外しませんからその代わりに、ラウルになにか告げ口されても不問にしてくださいねー」
よし、と。これで殿下が魔石をお探しだということは漏れずに安心ね。
処刑の危機をひとつ回避できたわ。
「例の件?」
なぜかデリアの目がキラーンと光った気がしたところに、リアーナが靴やら鞄やらの入った箱をいくつも抱えて衣裳部屋から戻ってきた。
「お嬢様。ヒールの高さ・・・は?・・・お嬢様!?まだ下着姿だなんてどうされました!?なにか問題が?」
「ああ!なんでもないのよっ!今すぐに!ちょうど着るところだったのよ!」
「すみません、すみません」
「あわわわわ」
慌てたせいでよけいに時間が掛かったけれど、なんとか着替えた。
え?ヒールの高さはどうしたか?ですって?
もちろん一番細くて高いのにしたわ。
機会あらばヤツの足をうっかり踏んずけてやるためにね!
さあ!いざ出陣よ!!




