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62.あれれ?なにをしているのですかー?

ブックマーク登録・評価&ここまでお読み下さりありがとうございます!


誤字報告もありがとうございました。

「スキ」


「え?」


「カワイー」


「ひゃん」


「ハナサナイ」


「ちょ、」


「アイシテル」


「はぁん」


ラウルが背後からわたくしの右耳にささやく。

恵美がヘッドホンをしてこっそり聞いた動画サイトの声優ボイスより、耳に息が掛かる分リアルで腰にクル~。


イケボ!CVは誰なの?ゾクゾクしちゃうー!

って、悶えている場合ではないわ。相手はラウルよ。


避けるために立ち上がろうにも、机を入れ換える時に一緒に交換した椅子が今までのよりも重くて簡単に動かない。

ならばと左側へ避けようとしたら、椅子からころげ落ちそうになってしまった。

とっさに上がったわたくしの右腕をラウルが掴み、椅子へと引き戻される。

思わずお礼を言おうとして顔を見たのだけれど、ニヤニヤと笑っているしっ!


「いきなりなに?」


「ですから、スキテレスト、カカワイート、ハナルサナイ、アイスシテルナなどはいかがですか?ここ百年の間に消滅した国々ですから、もちろん名はご存じでしょう?」


わざと強弱を付けたわね!

殴りたいのを我慢して、掴まれている腕を振りほどく程度に留める。

助けてくれたことへのお礼は?ですって?

言わないわよ!

代わりに舌打ちするのはやめておいてあげるわ。


それにしても、突然なぜ国名を?

ええ、たしかにそれらは歴史を勉強した時に出てきた国々だけれど。

いえ、アイスシテルナという国は知らないわ。

でも、知らないと言うのも癪よね。覚えていたらあとで調べましょう。


「・・・そ、その国がどうかしたのかしら?」


「あまり知られていない言語はないかとおっしゃられたもので。もう使われない言葉は密書に最適でしょう?あと、密書といえばラーテムか」


ラウルが話しながら、わたくしの背後から机を挟んだ正面へと移動した。

やはり呟きを聞かれていたのね。

密書?ああ、便箋を出していたから勘違いをしているのだわ。

それにしても、なぜその言葉を?


「ラーテム?」


某アニメのお祈りポーズを取りながらラウルに問う。

親指が難しい・・・そういうことは覚えているだなんて。


ん?ラーテム?少し違う気がするわ。また聞き間違いをしたようね。

あとでメアリに耳の掃除をしてもらわなくては。


あらいやだ。無意識にポーズしたまま小首をかしげてしまっているわ。


「うっ・・・なんだよそれ」


まあ、ラウルにはあざとカワイイが効いたようよ。

めずらしく動揺したわ。ちっとも嬉しくないけれど。


「ああ、ラーテムね。ええ、もちろん知って・・・って、ラーテム語?あの各国の王と王妃しか使うことを許されない言語のこと?」


「いえ、近年は王子にも使用が認められていますよ。まあ、王子はくだらないことにしか使わないようですが」


「まあ、そうなの?だとしても、侯爵令嬢のわたくしには使えない言葉に変わりはないわ」


「王妃になればよろしいのでは?」


「わたくしは王妃にはなれ・・・ならないわよ」


その昔、王様同士が取り決めを行う際に、言葉が違うことでの行き違いが起きないようにと共通の言語が定められた。

それがラーテム語というもので、次第に王妃も使えるようになったということは知っている。

当然、王妃教育で習うことなので、王太子妃になるべく勉強をしていただけのわたくしごときは一単語たりとも知らない。

将来、王になられた殿下と、王妃になったわたくしのふたりだけがこの国で使える言葉を習うことを、エミリアーヌが楽しみにしていたことも、もう過去の話。


そうよ。

わたくしにはもう関係のないことよ。

せいぜい一生懸命頑張って覚えるがいいわ、ルーチェ。


「それはこの国の、ですよね?他国にも王子はたくさんいるではないですか。ダエルテーゼとユドニフレルの王太子には、まだ婚約者もいないことですし」


嫌よ。関わりたくないわ。

この乙女ゲームに続編があるとして、他国の王太子が攻略対象者として出てくるのはかまわないけれど、悪役令嬢は据え置きだったらどうするの。

まだ第一部が始まっていないのに勘弁してちょうだい。


「望むなら、王太子の座についてみせるけど?」


「え?何か言った?」


「いえ、なんでも」


「他国の王子様に興味はないわ。わたくしは別に王妃になりたいわけではないし」


「・・・へぇ」


その含みはなにかしら?

それにしても、いつの間にか王子の話になっているわ。

はっ!ラウルは王族かもしれない、つまりは王子なのかもしれないのよね?

匂わせてくるだなんて、このまま重い人生語りを始める気なの?


わたくしはメインストーリーで精一杯なのよ。

モブのスピンオフに悪役令嬢を巻き込まないでちょうだい。


話題を変えなければ。

最近の話題、唐突ではない話題、ラウルと共通の話題なんてない・・・ああ、そうだわ。


「そ、そういえば、ラウルは今、お父様のお仕事を手伝っているそうね。主に翻訳をしているとロイス兄様から伺ったわ。何ヵ国語話せるの?」


ここしばらく、ロイス兄様が単独でいるのを見かけることが多いので、まさかのカップル解消!?と兄様に探りを入れたら、単に仕事でということだったのよ。


そういえば、その時ロイス兄様から『やっぱりラウルか。シャルルではないのだな?』と問われたのよ。

驚いたわ。兄様はシャルルに乗り換えようか迷っていたのかしら?


でも、わたくしにどちらがロイス兄様に合うかという意見を求められても困るのよ。

例の会の方針も知らないのに、うっかりしたことは言えないでしょう?

お姉様方に恨まれてしまうかもしれないし。


だから無難に『迷いますね』とだけ答えたけれど、ロイス兄様は誠実だと思っていたのに・・・ん?いいえ、ロイスバルもヒロインと浮気したじゃないの。ありえない話ではないわ。


シャルルジークが推しの奈々は、ロイスバルとのカップリングをどう思うかしら。


「7です」


「ええ、奈々は、あ、いえ、7?ああ7ヵ国語ね。え?そんなに?すごいわね!」


「どこへ行かされるかわからないもので。でも使わないと忘れますから、年々怪しくなりますが」


あら、お父様とどこかへ出張?まあ、ラウルの予定なんてどうでもいいわ。


「そうよねー!使わないと忘れるわよねー」


うんうん。成績優秀とお姉様方に言われていたラウルでも忘れるものなのだから、凡人のわたくしが漢字を忘れても仕方がないわよ。


ああ、そうだ。

おばあ様から教わった歌が何語なのか、ラウルならわかるかしら?


「あのね、」


「あれれ?扉は閉めたと思いましたが、開けっぱなしにしていましたかー?」


ラウルに尋ねてみようとしたところへ、お茶を乗せていると思われるワゴンを押しながらメアリがようやく戻ってきた。

そして、ドアに当たりそうなワゴンの軌道を、ちまちまと修正しながら部屋へと入ってくる。

ラウルがメアリの方に向いたので、その隙に机の引き出しの奥へノートを押し込んだ。


「お嬢様~お茶ですよ~。いつも私が淹れて差し上げる、おいしいお茶()()を!お持ちしましたよ~」


そう、お茶だけよ。

わたくしも、メアリに付き合っておやつを自粛中なの。

じっと見られるから食べにくいというのが主な理由よ。

それにしても、メアリが淹れるお茶をおいしいと思ったことは無いのだけれど?


ワゴンのキャスターの動きを見ていたメアリが、ワゴンを定位置に止めてこちらへ顔を向けた。


「ターニャが喜んで、ひっ!ラウル!?さん。な、なにかご用ですか?ま、まさか?」


あら、メアリさん。

ラウルとわたくしの顔を交互に見ながらそんなに怯えるだなんて。

いったい、何事かしら?





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