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SIDE 友人代表 久美 5

「ずっ。金髪で」


奈々が恵美の好きな人について語りだす。


ヤンキー?

そうつぶやきながら席へ戻った白井君に、莉々花さんがテーブル下で足を伸ばしてケリを入れた。


「瞳が青か緑で」


あー、奈々さんや。

よもや、というかやはりというか、それはあの人のことを思い浮かべているね?

『王太子で』と言い出す前に、奈々の手を押さえて止める。

恵美だって、クラスメイトに知られるのは恥ずかしかろうよ。


「外国人?俳優さんとか?なんて名前?」


「ええと、まあそんな感じです。ゆ、有名じゃないからググっても出てこないかなー、なんてハハハ」


下手したら、Google先生はレオン様のこともご存じかもしれないぞと内心で焦っていると、目の端に視線を感じる人が再びつぶやき始める。


「ずっ、金髪に、ずっ、して、ずっ、カラコン、ずずっ、入れたら、すんっ、大丈夫だった、かな?」


「「ねえ、どう思う?」」


奈々、あんたまでやめなさい。


「はぁ。詳しく聞くと瑠夏が整形しかねないからやめようか。口癖は続くだろうけど仕方がない。話してくれてありがとね。あ、なにか飲む?」


結月さんがあきらめ顔でメニューを広げ、奈々と私に向けた。

途端に泣き止んだ奈々が身を乗り出し、期間限定ドリンクにしようと言う莉々花さんに同意している。

頭からかぶったタオルを握りしめ、まだ鼻水をすすりあげている残念イケメンの緑川君にも水分が必要かな。


「恵美はりんごジュースが好きでしたよ。炭酸が入ってるやつ」


慰めになるかはわからないけど、ぼそっと恵美情報を漏らす。

ばっ!っとこちらを見た緑川君が、テーブルの上に広げたメニューを奪って見始めた。


うっ。またイケメンと間近で目が合うなんて。

うっかり死ぬとこだけど、目がほとんど開いてないほどまぶたが腫れあがってるから大丈夫だったわ。

それでも不細工になっていないのは解せないが。


「ない」


しょぼしょぼした目で懸命にメニューを見ていた緑川君が口を歪ませる。

私のせいになるから泣かないでよー!

そうだった。めったにないから恵美もよくがっかりしてたな。


「あー、あとはオレンジジュース・・・は100%じゃないとヤダとか言うからそれもめったにないですね。あとはアイスカフェラテをよく飲んでたかなー」


「はい。瑠夏はアイスカフェラテに決まりね。角田さん、も?OK!朝陽はいつものコーラね。瑠夏、顔を洗ってきなよ」


結月さんが壁に掛かった電話を取って注文を始め、緑川君はタオルを被ったまま部屋を出て行った。


途端に莉々花さんがにんまりとして立ち上がり、自分の鞄から大きいポーチを取り出す。

それを持ってこちらへ廻ってきたかと思えば、奈々の腕を取って立ち上がらせた。


「ナナっちも顔を洗いに行こうね。莉々花にお任せあれ!」


「え?え?」


ああ、確かに奈々も顔を洗った方がいいかも。

小柄な奈々は簡単に引っ張られて行く。

普段は奈々がグイグイ引っ張って行く方なんだけど、同じタイプかな?


「ねぇねぇ」


行ってら~と手を振って見送っていると、白井君がまた私との距離を詰めてコソコソと話しかけてきた。

注文の電話は終わったのに必要?


「あのさ、丸瀬さんちの墓って遠い?」


「お、お墓は建ててる最中だそうです」


返事をしながら、奈々がいなくなった分のスペースに避ける。


「そっかー。来週さ、丸瀬さんの誕生日あるよね?墓なら外だし行けるかと思ったんだけどな。家に行くと、ぜってー瑠夏が泣くから迷惑だろうし」


「誕生日って、あんたまさかあれをお墓に供えさせる気なの?」


鞄を置いた場所へ、一度スマホをいじりに行った結月さんが戻って来て話に加わる。

ついでに、白井君を元の位置まで追い払ってくれた。


「うん。この機に手放させる。さっきもウジウジと握り締めてたし」


「元はといえば、あ、ごめん。説明するね。

えーとね、瑠夏が丸瀬さんのことを好きだと知った男どもが、丸瀬さんはきっとツンデレだ、瑠夏なら大丈夫!絶対に付き合える!ってけしかけてさ。

謎の自信を持った瑠夏は、丸瀬さんとのデート費用を稼ぐんだと言ってバイトを始めたのよ。

で、カラオケ行った時にデートの約束を取り付けたと聞いたら、今度は、デートにはプレゼントを持って行くものだ!と、また馬鹿どもが言ったらしくて。

それで瑠夏が買って来たプレゼントがあるのね」


けしかけた『ども』のひとりらしい白井君を、結月さんが冷たく一瞥した。


「ごめんて。だって、瑠夏レベルで彼女ができないなら、俺らは絶望的じゃん?だからなんとしてもうまくいって欲しかったんだよ」


んん?デートの約束?恵美からは聞いてないけど?


「でね、最初『指輪にしようと思うんだけど、ダイヤでいいかな?ねぇ、どう思う?』って言い出したのよ。いきなり重い!ってみんなで止めたわ。

それで、丸瀬さん、よく髪をくくってたでしょ?だから、瑠夏の好きな丸瀬さんの綺麗な髪に似合うシュシュとかの方が喜ぶと思うよー、見立ててあげるから一緒に買いに行こうよって言っといたの。なのにアイツ、一人で買いに行っちゃって。

シュシュを買って来たと言い張ってたけど、いったい・・・まあ、それはもういいか」


ああ、よく寝癖が直らなかった時にくくってたな。


「大勢に意見を聞き過ぎた結果だな。初恋だから突っ走ってたし。あれはお通夜の時に棺に入れさせてもらえばよかったんだよなー。連れて行くのが精いっぱいで俺もそこまで頭が回らなくてさー」


「え?初恋?あの顔でまさか今まで彼女なし?」


「そう。瑠夏とは幼馴染の俺が知っている限り丸瀬さんが初恋。他にいたら絶対に相談されてたから間違いない」


「そうね、私も瑠夏から好きな子の話をされたのは丸瀬さんが初めてかも。あんなに重い恋愛タイプだとは思わなかったわ」


おお、これは恵美にきっちり報告せねば。


「今週末に恵美の家へ行くつもりなので、よかったら私達が持って行きましょうか?お墓だと捨てられてしまうかもしれないし」


私達も、画面の割れてしまったゲーム機ではあの世の恵美がつまらないだろうと、誕プレとして新しいゲーム機を折半して買ったから届けに行くつもりだし。


「うん。お願いするね。それでついでに写真ももらえないかな?だから連絡先を交換して、」


「朝陽。どさくさ紛れに連絡先を聞きだすんじゃないわよ」


そこへ、顔を洗ってもまだまぶたの腫れが引いていない緑川君が戻って来た。

プレゼントを持って行ってもらえ!自分で行きたい!迷惑だよ!という三人のやりとりを眺めていると、注文した飲み物が運ばれてきた。

奈々たち戻ってこないけど大丈夫かな。


受け取った飲み物をそれぞれのところに配る。

奈々と莉々花さんが注文したのは、三色のトロピカルなんちゃらで、コーラは白井君っと。

ピンク色の飲み物は結月さんのだろうけど、なんだろう、これ?


アイスカフェラテを緑川君の前に置いたところで「見て見て―!かわいいでしょー!?素材がいいと思ったんだー!」と、莉々花さんが弾んだ声を出しながら戻ってきた。

そして、なぜかドアの前で立ち止まっている、奈々の両腕を強引に引っ張って中に入れる。


どうした奈々?

おお。お化粧してもらったんだね!

結構派手にばっちりやられたね。でもかわいい!かわいい!


莉々花さんに両腕を取られているせいで、はずかしくても顔を覆えない奈々は赤くなっている。

すると、なぜか白井君が立ち上がって奈々の前に向かった。


「好きです。付き合ってください」


「「「はぁ?」」」


「いやいや、ナナっち、コイツはオススメできないからね!」


「じゃあ、ごめんなさい」


「え?じゃあ? ちょっと!人の恋路の邪魔はしないでくれないかな。おねえさま」


莉々花さんと白井君が睨み合う。

おねえさま?このふたりの関係って?


「だって、あっくん、実はものすごーく独占欲強いって聞いてるもん。初カノできたら監禁するんじゃないかって」


「アホな事言うな!」


あれ、それならシャルルとか執着系キャラ好きの奈々に合ってるんじゃ?

莉々花さんが手を離した隙にさっと座った隣の奈々の表情を伺ってみたけど、知らん顔でジュースを勢いよく飲み干している。

さすがに本気にしてないかな?

違うな。動揺してるんだな、これは。


その後、結月さんの説得に応じた緑川君が、ようやくシュシュが入っていると思われる、小さな手提げ袋を鞄から出してきて「お願いします」と言いながら差し出してきた。


だいぶヨレヨレだけど、この袋のマークって・・・まさか?


思わず結月さんを見ると、かわいらしく肩をすくめる。

マジですか。


「た、確かにお預かりしました。事実もちゃんと報告してきますね」


受け取った袋を無くさないように鞄にしまおうと立ち上がったところで、誰かのスマホが震えた。


「あ!たっくんだ!お迎え来たから解散ね」


スマホを見た莉々花さんがうれしそうに立ち上がると、ずっと莉々花さんを睨んでいた白井君も立ち上がる。

そして白井君は素早く自分の鞄を掴み、部屋のドアへ向かうと「莉々花は意地悪で暴力女だといいつけてやる!」と言って出て行った。


「こら!待て!あ、ななっち、久美ちゃん、今日はありがとう。またね!」


そう言って、莉々花さんも出て行ってしまった。


「あ、はい、どうも」


「はぁ。騒がしくてごめんねー。たっくんっていうのは莉々花の彼氏。でもって、朝陽のお兄さんなのよ」


「へぇー」


なるほど。おねえさまとはお義姉さまということね。


のろのろと立ち上がった緑川君には、結月さんが開いたままになっていた鞄の蓋を閉めてから渡している。

世話焼きに慣れているなぁ。


「今日は、ありがとうございました。・・・よろしく、うっ、お伝え、ください」


そう言ってまたもや泣きだしそうな緑川君を、やれやれという表情で結月さんが部屋から押し出す。


・・・もしかして、もしかしてだけど、結月さんは緑川君にずっと片思いしてるとか?

今日、私達を呼び止めたのも、もう恵美を忘れさせるために?


「あの、もしかして青山さんは緑川君の・・・」


ことを好きなんですかと言いかけて、しまった!っと止める。

私には関係のない事だったわ。


「あ、気付いた?」


うぇ。恵美の友達としてはなんて言ったらいいんだろう。


戸惑っているところへスマホのバイブ音が鳴り、結月さんが画面を見る。


「あ、私の彼氏も来るわ」


「うぇ?あれ?」


「あ、瑠夏と私の関係だったね。お母さん同士が双子なの。だから昔はよく似てるって言われたんだけど、最近はもうあまりいとことは気付かれなくなったのに鋭いわね。

ちなみに、莉々花と朝陽は偶然でね。この関係性でクラス一緒とか、世の中狭すぎでしょー?」


い、いとこでしたか。

危ない。恵美のこと笑えない勘違いをしてたわ。


あれからずっと黙ったままの奈々を連れて部屋を出る。

受付では緑川君がお会計をしていた。

しまった。カラオケ代は考えてなかった。


「あ、いいの。相談料としてたまにおごらせてるの。だって、毎日あの調子で付き合わされてるからね。それにさぁ、バイトができる余裕のある成績なのは瑠夏だけなのよ。私と莉々花はこのあと塾なの」


私が気にしたのに気付いた結月さんが、そう言って緑川君の後ろを通り過ぎた。

そうですか。なら、ここは宅配料としておごってもらうことにします。


カラオケ店の受付の人が、緑川君を見て顔を引きつらせている。

いじめて泣かせたんじゃないですよー。むりやりお金を払わせているのでもないですよー。


そそくさと外へ出ると、少し離れたところで莉々花さんが、白井君に似てるけどもう少し穏やかそうな人の腕に縋りつきながら白井君と言い合いをしていた。


それを見ながら、結月さんが声のトーンを落として話しかけてきた。


「もしかして、さっき言ってた丸瀬さんの好きな人って、ゲームのキャラクターとか?」


「うっ、え、ええと」


「あ、大丈夫。瑠夏には言わないから。でも、莉々花は気が付いたみたい。

結構みんな丸瀬さんがこっそり乙女ゲームをやっていたのを知ってるのよ。なにせ瑠夏の相談に乗るために、丸瀬さんは注目されてたから。

あの瑠夏のセリフも、参考になるかもと誰かが渡したそれ系の小説を読んだ結果なの。

・・・だから、まだつい教室で丸瀬さんの姿を探しちゃうのよね。クラスでも、未だ続く瑠夏のしつこい相談に『もう丸瀬さんはいない』と言うやつはいないわ。まあ、そんなこと言ったら泣くしね。

瑠夏がああな限り、みんな丸瀬さんのことは忘れないわ」


「つい」か。

私も恵美が最後に寄越した『バスの中でレオン様とお忍びデート』というL●NEに、『王子様が白馬じゃなくてバスでw』と返信したところへ、既読が付いていないかつい見ちゃうもんな。


「あ、ごめんね。今日はありがとうございました。また機会があったらゆっくりお話しようね。これ、私の連絡先。気が向いたら連絡してね」


そう言って名刺のような紙を私に寄越した結月さんは、出てきた緑川君の腕を引っ張って三人の所へ向かった。


こちらに気が付いた白井君が「またねー!」と叫んで大きく手を振っている。

ぺこりとふたりで頭を下げてから、反対方向に歩き出す。

・・・こっちは遠回りだけど仕方がない。


「・・・」


「・・・久美ちゃん、さっき、何を受け取ってたの?」


「ああ、実はね」


やっと起動した奈々に、いないときに聞いたことを説明する。


「ふーん。でもその袋って、超高級ブランドのだよね?」


「・・・袋だけって思いたいよね」


角をふたつ曲がったところで一旦立ち止まり、鞄を開けて預かった物を取り出す。

そっと手提げ袋を開き、奈々と交互に中に入っているピンクのリボンの掛かった、有名な柄の包装紙に触れてみた。


・・・シュシュと言われればそれっぽい感触ではあるけど、他にもなにか固い箱のような物の感触が・・・


「布だけにしては重い」


「久美ちゃん、どうするー?怖いからこれから恵美ちゃんち行くー?」


「あー、ごめん。私もこれから塾だから。ちゃんと週末まで預かるよ」


「そっかー。・・・ねぇ、誤解がなかったら、あの人と付き合ってたと思う?恵美ちゃん」


「どうだろう?いちいち周りに相談されるのもやだよねー」


「うん。・・・・・・ところで、さっきもらった連絡先に連絡するの?」


「え?なんで?」


「いや、ええと、つまり、だから、あ!ほら、あの人がまた『届けてくれたかな?ねぇ、どう思う?』ってきっと言うでしょ?他の人の迷惑になるから、届けたことを報告しないと!」


なんか奈々の様子がおかしいけど、まあ、確かに。


「そうだねぇ。ああ、とりあえずこれは鞄にしまって・・・あっ!ダメだ!すぐに連絡しないと!」


「え?どうして?」


私は鞄の中に見つけたものを取り出す。


「生徒手帳を返してない」




――――――この後塾のあった私は、奈々に結月さんの連絡先と、二人分の生徒手帳を託した。


夜になって奈々から『渡しました』というL●NEがきたので、『すまぬ』というスタンプを送った。


それに関しての返事はなく、当然、本人たちに直接渡してくれたのだろうと思った私も、それ以上のことは聞かなかった。




――――――週末、恵美の家からの帰り道で奈々が「届けたって連絡するね」と言ったので「ああ、そうだね、よろしく~」と言った。


特に違和感もなかったので、誰に?とは聞かなかった。




――――――それからひと月程後の現在、私は真新しい、墓とは思えないほど可愛らしい柄の彫ってあるピンクの墓石の前にひとりでいる。

これは恵美ママの趣味っぽいな。


それにしても、なんで花立に赤いバラが一本しか入ってないんだろ?

まあ、まだ萎れてないから、私が持ってきた花と一緒に挿しとこう。


お線香供えて、よし、と。


「恵美。今日は報告があるのよ。驚かないで聞いてよ?

なんと!奈々に彼氏ができました!

それも恵美の知ってる人。まあ、ちょっと束縛されてるけど、結構面倒見がいいらしいから奈々には合ってるかなー。

って、なんで私が報告せにゃならんのさ!

聞いてよ!恵美のお墓参りに行こうと奈々を誘ったら『今度ふたりで行くから』とか言うんだよ!前でいちゃいちゃしてたら化けて出てやってね。

それに、付き合うってことも、相談も無くいきなり報告してきたんだよ!親友として酷いと思わない?

ねえ、どう思う?恵美」





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