SIDE 友人代表 久美 4
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ついでに、もう一話増えますことをお詫びいたします
「それじゃ、丸瀬さんが瑠夏のことをなんて言っていたのか教えて・・・あ、その前に。なぜここまで聞きたいのかという、大前提から言っておくね。緑川瑠夏は、丸瀬恵美さんのことが好きです。これはたぶん丸瀬さんに伝わっていなかったと思うんだよね、私は。だから、そこのとこの確認だけでもできればと思ってね」
「嘘だ」
結月さんの発言を、奈々が私にだけ聞こえるような小さな声で否定する。
いや、好きは好きだったかもよ?
ただ、恵美の他にも好きな女の子がたくさんいるってだけで。
好きな人をばらされた緑川君は、恥ずかしいのか両手で顔を覆ってうつむいた。
「るかっちー、まだなんにも聞いてないのに泣かないの!」
え?泣いてんの?なんで?
「はぁ。やっぱりスタカフェにしないで正解だったね。ごめんね、これ、こんななりして泣き虫なのよ」
「そうそう。丸瀬さんに好きな食べものを聞いたら玉子サンドって言ってたらしくてさ。この前スタカフェ行った時に玉子サンド見て泣き出しちゃって。ほんと、大変だったんだよ」
白井君が私の横で腕組をしながら、その時のことを思い出したのか天を仰ぐ。
ああ、だからスタカフェではなくカラオケの個室にしたのね。
さっき玉子サンドを買ってもらわないでいてよかった。
・・・で?白井君?
あなたなんかさっきよりこっちに詰めてきてない?
間に鞄を置きたいけど、部屋の隅に置いちゃったしなー。
マイクを間に置いたらおかしいかな?
「ほ、本当に恵美ちゃんが好きだったんですか?」
奈々が膝上に置いた両手で、制服のスカートを掴みながら緑川君に尋ねる。
「はい」
奈々が顔も上げずにごにょごにょと尋ねたのとは反対に、緑川君ははっきりと返事をした。
「・・・名前は言わなかったけど、恵美ちゃんから聞きました。『今日、クラスのイケメンから、この高校で君が一番可愛いと思うって言われたんだけど、まともに返事できなかったー。明日からどうしよう』と、うれしそうに言っていたのを。これはあなたのことですか?」
うん。言ってたね。
その時の私達は、待て、リア充になる気か!?早まるな!爆破されたいのか!?ってアドバイスにならない返事をしたね。
それにしても、奈々の声がいつもより低い。これは怒ってるな。
「うれしそうに?」
緑川君が両手から顔を上げた。
うれしそうに、目を輝かせて。
うっ。お、男のくせにくっきり二重でずるい。
そういや、結月さんも似た感じの二重だなぁ。
そうか、美形はやはり目か?目で決まるのかっ!?
くそう!わ、私だって二重だ!よく見ないとわからないけど。
それにしても、別に泣いてなんかいなさそう。
なるほど。こうやって同情をひいて女をたぶらかすわけね。
イケメンだからって許さん!
そして、それを言ったのは自分じゃないと否定しないということは、やっぱりコイツが恵美の言ってた女ったらしで間違いないのか。
奈々も確信したのか、顔を上げて真正面に座る緑川君を睨みつけながら立ち上がった。
「でもそれっ!次の日には他の女の子にも同じこと言ってるの聞いたって恵美ちゃん言ってましたっ!その次の日も!別の女の子に!言ってたって!この、」
「そんなはずない!俺は丸瀬さんだけが可愛いと思うし、好きだ!」
めずらしく奈々が男子に向かって吠えたが、緑川君も立ち上がって言い返してきた。
奈々は絶対、恵美の代わりに『この女ったらし!』って言ってやる気だったな。
背の高い男子に真正面に立たれた奈々は、慌てて私の隣に座りなおし、私の腕に縋りつく。
恵美だけが好き?
この人の女癖をよく知っているであろうクラスメイトはツッコミを入れて来る様子はない。
どういうこと?恵美の言い分がわからなくなってきたな。
それにしても、初めて男子から好きだと言われたね、奈々。
残念ながら恵美の代わりだけど。
あと、奈々。私の二の腕を掴んでる力が強くて痛いよ。
でも、頑張ったから許す。よしよし。
「おい、奈々ちゃんに怒鳴るな。座れ。それにそれは、丸瀬さん本人にちゃんと言えってみんなに言われただろ」
白井君がめずらしく(って、よく知らないが)静かに諭す。
ごめんなさいと奈々に謝りながら緑川君が座る。
おい、ちょいと待て、白井君よ。
今、どさくさ紛れに奈々ちゃんと呼ばなかった?
「丸瀬さん一筋のるかっちが、他の女の子に言うなんてありえないのに?・・・みんな・・・あー!莉々花わかった!るかっち!莉々花もそれ、るかっちに言われたってことだ!たぶん、莉々花が他か別の女の子だ!」
じっと奈々の様子を見ていた莉々花さんが、恵美と同じことを言われたことを思い出したらしく、自分に人差し指を向ける。
やっぱり。
そういうヤツだったか。
「そんなはずない!俺、莉々花のこと可愛いと思わないし!」
「ひっどい!丸瀬さんをカラオケに連れてきた莉々花のこと、拝んだくせに!」
「あ!なるほどね。じゃあ、私もそれ、瑠夏に言われた他の子かもしれないのね」
緑川君と莉々花さんの睨み合いに挟まれた結月さんが、納得したかのように何度かうなずく。
「あー、そういうことかー。なら、俺が一番、瑠夏にその中途半端な口説き文句言われたわー」
「え?」
こら!奈々!
嬉しそうにそこに喰いつかない!
「どういうこと?」
緑川君が困惑しながら友人たちを見渡す。
私も奈々も、まだ意味がわからないので顔を見合わせた。
「ルカー。おまえ『この高校で君が一番可愛いと思うんだ。天使の輪がある黒髪も綺麗だね。ここのところずっと君のことばかり考えてしまって勉強が手に付かないよ。だから責任を取って放課後一緒に勉強してくれる?そういえば、夏期講習はどうするの?君と一緒に夏を過ごしたいな。ねぇ。顔を上げて?君の瞳に僕を映して?って、丸瀬さんに言ってみたんだけど、どう思ったかな?ねぇ、どう思う?』って相談を、いったい何人にした?」
白井君が緑川君のモノマネをしているらしい口調で、鳥肌が立つことを言い出した。
うおぉぉ!なんだその台詞はー!?
恵美からはそこまで言われたとは聞いてないよー。
いくらイケメンだからって、少女漫画かよ!
現実にそんなことをいうヤツがいるものか!
と、どうしてその時点で騙されてることに気が付かなかったんだ!?
恵美よ。乙女ゲームのやりすぎで、甘いセリフに慣れていたのかい?
「え?ええと?」
「だあからぁ、瑠夏が他の女の子に聞いて回ってるのを、丸瀬さんに聞かれちゃったのよ。しかも一部分だけをね。それで、他の女の子にも同じことを言ってると勘違いされたんだわ」
「「え?」」
「・・・え?」
まーぢで?
なんだ。女ったらしは勘違いだってさ、恵美さん。
ということは、本当にヒューヒューだったわけだ。
「一生懸命考えたのはわかるけど、丸瀬さんに言う前に聞いてくれれば修正できたのにって、ドン引きしたみんなに言われ・・・まあ、それはもういいか。それで、丸瀬さんは他にはなにか言ってた?」
「『危うく騙されるとこだった。女ったらし!絶滅しろ!』」
「「あー」」
結月さんの問いに、間髪入れずに奈々が答えてしまった。
頭が痛いといわんばかりに、結月さんと白井君が片手を額に当てる。
「女ったらし・・・」
あーあ。
奈々さんがオブラートを出すこともしないから、緑川君がガクンとうなだれてしまいましたよー。
掛ける言葉もないので、みんなでしばらく黙って不憫な緑川君の頭頂部を見つめる。
莉々花さんだけは緑川君に怒っているらしく、そっぽを向いてお菓子を食べているけど。
あ、これ!奈々!
食べたそうにそっちを見ないの!もうこっちには興味なしかい。
「はぁー。それで丸瀬さん、コイツを避けてたのか。理由を聞いてみればよかったかな?」
「瑠夏がはっきり、好きだ、付き合ってくださいって言わないのがいけないのよ。そのくせ、クラスの大半が瑠夏は丸瀬さんが好きだって知ってるほど聞いて回っていたんだから、自業自得だわ。丸瀬さん、きっと嫌な思いしたよね。カラオケに連れ出してくっつけようとして悪かったわー」
「そういうことだったんですね。恵美もよく早とちりするし、思い込みが激しいもので・・・勘違いで悪口言ってました。なんか、すみません」
灰になった緑川君を、見ないようにしながら声を潜めて話をする。
まあ、近いからあまり意味はないけど。
「お、俺は女ったらしじゃない・・・だから、その誤解さえ解ければ付き合えたのかな?ねぇ、どう思う?」
こそこそと話していたら緑川君がいきなりぶつぶつ言いながら再起動したので、つい顔を見てしまった。
ぐはぁ。イケメンの涙目はやめてくれー。
まだ私にはお兄ちゃんがいるから、奈々や恵美よりは男子耐性があるとはいえ、直視は辛い。息が絶える~。
でも、ここは、恵美の、友人として、精一杯の、返事をして、差し上げましょう。
「それは・・・恵美に聞いてみないとわかりません」
「じゃあ、聞いて・・・ああ、もう聞けない。なんでこんな突然・・・」
うわーん!
と、いきなり緑川君が幼稚園児のように泣き出した。
「あー、またやっちゃった。さっきは我慢できてたのに。見苦しくてごめんねー」
「あきらめの悪いとこだけは、メンタル強いくせにね」
ひえ~!
目の前で図体のでかい男子高校生に泣かれてびっくりしたね、ねぇ、奈々?
「うえーん!恵美ちゃーん!」
「え?ちょ、奈々まで?」
大声で泣きじゃくるふたりを見ていたら、釣られて涙が浮かんだけれど堪える。
恵美に会えなくなってしまってから、もう半年も経った。
私は泣かない。外では。
『久美はクールだねぇ』と、恵美がよく言っていた私のイメージを貫くために!
奈々まで泣き出したことで、他の三人もそれぞれ沈痛な表情で目を伏せていた。
とりあえず、ポケットからタオルハンカチを出して奈々に渡す。
白井君も立ち上がり、壁際に置いた鞄からタオルを取り出して緑川君の頭にかぶせに行った。
「ああ、ほら、瑠夏。一緒に泣いてくれる心優しい奈々ちゃんにもいつものあれを聞いてもらえ。丸瀬さんのことは入学した日に一目惚れしたんだよな?どうしてだっけ?」
「うっ、ぐずっ」
「えーっと、先生のミスで、何人かのロッカーの鍵が無かったから、教室に残って、待たされてて?その時に丸瀬さんがほら、なにをしてたんだっけ?」
「ぐずっ。た、たぶん、ゲーム」
「そうそう。それで、ゲームをしてた丸瀬さんがどうしたって?」
「ぐっ、うぇ、か、可愛く笑った、うわーん!」
おい、白井君よ。よけいに泣かしてどうするの。
それにしても、恵美が入学式の日に、ゲームをしていて笑ったとは?
なんの・・・あ、乙女ゲームの『光の君に口づけを』を始めた頃だわ。
さては、新しいレオン様のスチルが出たかなんかして、にやけたな。
「はぁ、だめだね。悪いんだけど、ここで気のすむまで泣かせてやって。ずっと丸瀬さんの気持ちがわからずじまいで『どう思う?』ばかり言ってたけど、理由がわかって良かったよ」
「よかったか?嫌われてたのがわかったのに? 痛っ!」
莉々花さんが、立っている白井君に向かって無言でお菓子の空き箱を投げつけた。
「ずっ。それでも、絶対に、付き合えなかった。ずっ。だって、恵美ちゃん、好きな人いるしっ!」
「ぐずっ、ぅえ?」
いきなり奈々が私も知らなかったことを言い出す。
てか、追撃はやめなさい。
「あ、そうだったんだ。それじゃ、もともと無理だったね」
「ふふん!泣き虫でヘタレのるかっちより素敵な人だよねー!?言ってやって!どんな人?」
莉々花さんまで追い打ちを掛けんでも。お友達でしょうに。
それにしても奈々、恵美の好きな人っていったい誰のこと?




