57.誰の仕業か双子コーデ
「いったいどういうことですの?」
あらいけない。
つい声に出してしまったわ。
でも叫びそうだったから両手で口を押えているのに・・・って、これはわたくしの声ではなく、エリザベルお姉様の声ね。
「エミリアーヌ様。貴女のそのドレス、アルフレット様がご注文なさったのよね?」
「ええ・・・元がウェディングドレスのデザインというのは存知ておりましたけれど・・・花嫁と同じだなんて聞いていませんわ」
そう。
なんとわたくしが着ているドレスと、今入場して来たリディアンヌ様のドレスは、トレーンの長さと色が違うというだけでまるっきり形が同じだったのよ。
総刺繍のロングスリーブドレスで、リディアンヌ様のは当然白地に白糸の刺繍。
片やわたくしのはラベンダーカラーの生地に銀糸の刺繍。
なぜ?リディアンヌ様は違うデザインを選んだはずではなかったの?
・・・え?そもそもなぜアルフ兄様が、わたくしのドレスを注文したんだ?ですって?
それは、前世を思い出す前のエミリアーヌが、次期マルセルム侯爵であるアルフ兄様の結婚相手が子爵令嬢であることに不満で、まったく結婚式に参列するための準備をしようとしなかったことに始まる話よ。
あれは今から半年以上前、兄様の結婚式の話題をことごとく無視していた頃のこと。
ある日、アルフ兄様がウェディングドレスのデザイン画を5、6枚持って来られて『エミリアはこの中ならこれがいいと思うよな?こっちよりこれだよな?』と、その中の一枚を強く示されたの。
ふふ。アルフ兄様はそのデザインがお気に召したのに、リディアンヌ様は違うのを選ばれてご不満なのね。
そう思い『ええ、アルフ兄様。わたくしも絶対それがいいと思いますわ。ご趣味が合わないと結婚生活もすれ違うことでしょう。今からでもお考え直しになられたら?』と、ほくそ笑んで答えたわ。
それから数か月が経ち、前世を思い出してリディアンヌ様に対しても関係改善運動を実施していた時、ふと、そういえば自分のドレスを注文した覚えがないわと思い、焦ってバルトを呼んだのよ。
そしたら『お嬢様のドレスはアルフレット様が手配されております』と言うじゃない。
え?いったいどんなドレスを?と思って注文書を見せてもらったら、兄様お気に入りのデザインのものだったのよ。
しかも最初の注文書は色も白だったらしいわ。
バルトが『エミリアーヌお嬢様の花嫁姿を、そんなに早くご覧になりたいのですか?』と言って色を変更させたそうよ。GJ
それにしても、いくら結婚相手が自分の好みのものを選んでくれなかったからって、妹に着せようと思う?
そこまでお気に召したのでしたら、自分の嫁に着てもらってくださいまし!今から尻に敷かれてどうするのですか!と兄様に言いに行きかけたわ。
でも、そこでふと思い出したことがあったのよ。
恵美の従兄が結婚の報告をしに来た時に、恵美父が忠告していたことを。
『式は嫁さんの希望を聞いておかないと、一生ねちねち言われるぞ』ってね。
なので、仕方がないわね、アルフ兄様の結婚式でもあるのだから、兄様の希望はわたくしが叶えて差し上げましょう!と注文をそのままにし、試着の時もアルフ兄様に見せに行って感涙された。
―――と、いうことがあって、寛大なわたくしが、このドレスを着ているというわけ。
なのにどうしてお揃いなの?
ちなみにこのくだり、前世の部分以外はロイス兄様とエリザベルお姉様にお話し済みよ。
「エリザベルお姉様。他の方にも気づかれますか?」
「刺繍されている花が違うけれど、どちらも今日は注目される存在なのだから、女性にはわかるでしょうね」
ですよね。
さっきから前を向いているはずのお母様からの視線が痛いです。
これに関しては、わたくしは悪くありませんわ。
苦情・ご意見はあなた様の息子さんにお願いいたします。
「それにしても、アルフレット様が仕組んだことだとすれば、妹に対する愛情が異常ね」
「いや、アルフ兄様もさっき驚いていたようだから、ご存じなかったんじゃないかな」
「あら、ロイスバル様。アルフレット様は花嫁衣装の試着をご覧になっていらっしゃらないと?」
「ああ、その可能性はあるよ。その日はひと騒動あったからね」
ロイス兄様がシャルルを一瞥する。
つられて振り返りシャルルを見たのだけれど、なんだかぼんやりしているわね、大丈夫なのかしら。
たしかに、リディアンヌ様の試着に呼ばれたのは、この新生シャルル発現騒動のあの日だったわ。
アルフ兄様はあの後シャルルを連行していったので、お忙しくてわたくしのようにパスしたのかもしれないわね。
でも、やはり注文時から同じだったということではないのかしら・・・
「あ!わたくし、原因がわかりました!きっとリディアンヌ様が、最初は違うデザインのドレスを注文したけれど、やはりアルフ兄様のご希望に沿おうと変更されたのですわ!ああ、同じになってしまって申し訳ないですわね。まさか妹に着せようとしているだなんて普通は思い至りませんもの。わたくし、今日は極力近づかないことにいたしますわ」
「そういう理由だといいですね」
謎が解けてすっきりしたのでそう宣言したのに、ぼそりと背後からシャルルがつぶやいてきた。
それはどういう意味か問おうとしたのだけれど、音楽が止んでしまったので前を向き、姿勢を正して口を閉ざす。
「祈祷を始めます。ご着席ください」
ようやく神父様のご祈祷が始まる。
うーん。朗々としているのに、寝かしにかかっているのではないかというくらい心地いい声ですわね。
「この結婚に異議のあるものは」でアルフ兄様がこちらを振り返った辺りまでは頑張ったけれど、もう眠くて眠くて。
ああ、寝ちゃダメだ寝ちゃダメだ寝ちゃダ・・・メ・・・
ドン!パシン!
背中とこめかみへの衝撃に、初号機が発進したのかと目を覚ます。
ん?ああ、こめかみに当たっているのは扇ね。
「起きなさい。妹だからといって、ロイスバル様に寄りかかるのは見過ごせませんわ」
頭がぼんやりとしているので、エリザベルお姉様の囁きが理解できない。
ロイスバル・・・兄様がどうかしまして?
重い頭をふらりと上げて隣を見ると、ロイス兄様が腕を組まれたまま眠っていらした。
ああ、魔術を使われてお疲れのロイス兄様に寄りかかるなということですね。
「お姉様、わたくし、背中が、重い、のですが、なぜでしょう?」
「ああ、お待ちなさい。取ってあげるわ」
「痛っ!エリザベルお姉様、つねらないでください」
フッと背中が軽くなった。
背中に当たっていたのはシャルルの頭だったようね。
さてはシャルルも寝ていたわね。
それからもなんとかうつらうつら程度で頑張って起きているつもりでいたのだけれど「では最後に、神へ歌を捧げましょう。ご起立ください」との高らかな神父様の締めの言葉に驚いて、一気に目が覚めた。
え?最後?
あ、あら?近いの言葉とか指輪の交換とかは?
まずいわ。そんなに寝てしまったの?
あくまでもエレオット教の結婚式ですので、順序等はお見逃しくださいませ




