56.新郎・神父は入場済みです
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またもや遅くなりまして申し訳ございません
今回も倍増でお届けいたします(それでも進まない)
「エミリア。泣いてしまったからお化粧直しをしたと裏で聞いたぞ。そんな泣くほど私が結婚するのは嫌なのか?ならば今からでもこの結婚をやめてもいいのだよ」
「アルフレット様。新郎がご入場の途中で止まらないでくださいませ。神父様がお困りですわよ」
「ではエミリア、一緒に祭壇へ行こう」
「御冗談をおっしゃっている場合ではございませんわ。エミリアーヌ様にはわたくしがついておりますから、おひとりで!行ってくださいませ!お早く!!」
「・・・ならばエリザベル嬢、エミリアーヌを頼んだよ。男ふたりが今日はぜんぜん頼りにならないからね。
エミリア。本当に嫌だったら式の途中でも異議あり!と言うんだよ」
「・・・・・・まったく。ようやくお式が始められますわね。
ちょっと!エミリアーヌ様!さっきから笑顔を浮かべたまま固まっておいでだけれど、お兄様にお返事もしないだなんて。貴女ちゃんと起きているの?」
「エリザベル嬢!話し込んでしまって悪かったね。エミリアーヌの面倒をみてくれてありがとう」
「あら、ロイスバル様。どういたしまして。ようやく解放されましたのね。ロイスバル様とお近づきになりたい方が殺到するのは仕方がありませんわ。先ほどのご活躍は素晴らしかったですもの。以前からロイスバル様の魔術を拝見しているわたくしでさえ、地面が波打って巨石を運んでいったことに驚愕いたしましたし。隣でわたくしの父も絶賛しておりましたのよ」
「ありがとう、エリザベル嬢。トラビスタ侯爵閣下からも先ほど直々にお褒めの言葉をいただいたよ。でも先に石とご神木の元の位置がわかる絵を見せてもらったから、完璧に戻そうなどと思ってしまって時間を掛け過ぎたよ。あんなに大勢の人に見られることになるだなんて。それに、戻って見れば教会内に置いてきたエミリアーヌの姿がなくて本当に焦った。アルフ兄様から、今日は特に目を離すなと厳命されていたのに。現場に連れて行ってファドリック侯爵令息に預けるよりはましかと思ったのに失敗だったな。それでさっきよりも様子がおかしくなっているのはなぜだろう。
ほら!エミリア!しっかりして!」
「あ。ロイス兄様、エリザベルお姉様、ごきげんよう。わたくし、余生は湖のほとりで静かにゲームをして過ごしとうございます」
「なにをするですって?エミリアーヌ様、寝ぼけていないでシャンとなさいませ!せっかくの装いが台無しですわよ!」
はっ。いけない。
作り笑いのまま魂が安住の地を求めてさまよっていたわ。
なんとか結婚式まで無事に漕ぎ着けたけれど、もう顔を動かすのも億劫なほど心も身体も疲労困憊よ。
あのあと、涙で落ちたであろうお化粧を直すためにアランが手配してくれた控室へ行き、少し休もうと思ったのだけれど・・・王城から呼んでもらったメイド達のハイテンションに更に疲れが増しただけだったわ。
そう、そこにいたのは前に王城でお化粧直しをしてくれたあのふたりだったのよ。
涙の跡は彼女らにバレバレで、どう言い訳しようかしらと思っていたら『お兄様のご結婚で気が高ぶられてしまったのですね』と言われたので、そうですと頷いておいたわ。
だって、一から説明したら、殿下が初めての処刑に失敗されたことがばれてしまうでしょう?
そして、殿下の悪評が出回りでもしたら出所はわたくししかいないわけで、またもや自分で処刑の危機を作り出してしまうことになるわ。
だから内緒よ!
いいわね?そこのあなたも言いふらしてはダメよ!
それで、そのふたりに今日も時間があまりないと大げさに嘆かれ、急かされながら座った時に、ここは教会だし、主役でもないので清楚な感じのお化粧にしてくださいとお願いはしたのだけれど、疲れからぼーっとしている間にまたもやばっちり妖艶に仕上げられてしまったのよ。
あまりの出来に、これでは縁談がまた増えてしまうわと我ながら思うほどだったけれど、もうお客様をお出迎えする時間になってしまったのでとりあえずお礼を言って大聖堂に戻ったわ。
そうしたら、わたくしを探しまわっていたらしいロイス兄様に絶句され、お父様とお母様と合流したところで怪訝な顔をされてしまったのよ。
まったく嫌よね、うちの家族は。
一緒にお客様をお出迎えをするためにその場にいらしたリディアンヌ様のお兄様方のように『これでは花嫁が霞んでしまうな』とまずは褒めてくれてもいいのに。
それで、ロイス兄様からのなにかあったのかという問いに、お化粧の上手な知り合いの方がいたのでお願いしましたのと答え、お母様からロイス兄様のご活躍を伺っていたのだけれど、気が付けばなぜか殿下がわたくしの横にいらしたのよ。
うっかりわたくしが殿下の失敗を言いふらさないか、監視にいらしたのね。危ない危ない。
でも、なんと殿下は開口一番『今度は女神のようだ』とおっしゃってくださったのよ!
ほら、殿下はわたくしの顔がお好みではないとしても、ちゃんとご自分のメイドの腕を褒められたわ。
そこで、殿下にメイドをお貸しくださったことへのお礼を申し上げたら『あれらは将来王太子妃付のメイドになる予定なのだ。予行練習にちょうどよいだろう』とおっしゃったのよ。
ふふ。ヒロインの為のメイドの練習相手が悪役令嬢・・・あー、面白いこと。
でも残念ながら練習にはならないわね。
だって、わたくしはきつめな美人の、いかにもな正統派悪役令嬢顔で、ルーチェは聖女ですといわんばかりの慈愛に満ちたやさしい顔立ちをしているのですもの。
わたくしで練習になると殿下が婚約者候補の中から想定しているとすれば、婚約者にお考えなのは同じようなきつめのお顔立ちのエリザベルお姉様なのかしら。
クラウディア様は眼鏡を掛けさせたら眼鏡っ娘キャラが出来上がりそうな感じだし、ジュリエーヌ様は可も不可もないよくいる貴族令嬢顔。
カトレア様は性格がいいですと顔に出ている穏やかな感じのお顔ですものね。
ああ、エリザベルお姉様が将来婚約破棄されてしまうことになるのは嫌だわ。
お姉様はできた方だから、穏便に身を引かれるのね。
最初から知っていたとしても、やはりわたくしには無理そう。
そんなことを考えてまた落ち込んでいたのだけれど、いよいよお客様が入っていらしたのでお出迎えのご挨拶のために作り笑いを浮かべる。
けれど、まだ殿下がわたくしの横にいらっしゃる。なぜかしら?
ええ。殿下は逆に参列者からご挨拶を受けられるお立場ですものね。
ならば入口におられた方が合理的ですものね。
でも入り口から、両親→ロイス兄様→わたくし→殿下では位置がおかしいでしょう?
だから一番前に行かれてたほうがよろしいのではと進言してみたのだけれど、殿下は『今日は客の立場だからここでよい』とおっしゃるし。
王族としては謙虚にもほどがあるのではないかしら。
でも結局お客様方は、結構なギャラリーが見守る中で大活躍だったそうなロイス兄様にお褒めの言葉を掛けられるために一旦ロイス兄様のところへ留まり、そしてその後は早くご挨拶をしなければならない殿下のところへ急がれたので、間に挟まれているわたくしには、あっさりとしたご挨拶だけで通り過ぎられたのよ。
だからアルフ兄様が懸念していた、この場での売り込みなど無くて済んで、わたくしとしては助かったわ。
ただ、たまに例のアルフ兄様のシスコン発言のせいか『やっとお会いできました』という生暖かい笑みを向けられて、顔を引きつらせることはあったけれど。
一通りお出迎えが終わったところでロイス兄様は話し足りない方々に捕まり、わたくしのところにはお茶会にご招待した伯爵夫人が、例の9歳の息子さんを連れてこられた。
『来週10歳になります!』・・・あー、可愛らしいわね~。
こんなおばさんを結婚相手にされてしまっては可哀想よね~。
そして親に言われたのでしょうね、一生懸命来週行われるお誕生会に誘ってくる可愛らしい姿を微笑ましく見ていたのに、殿下に遮られて移動を促されてしまったわ。
そんなご心配をなさらずとも、来週は殿下とのお出かけの方を優先しますのに。
殿下はどうしても地の魔石を御所望なのね。
それを使いたい魔術とは、よほどお国の為に重要なのでしょうね。
それはもうなんとしても探し出して差し上げたいとは思うけれど、殿下に連れて行かれた先にはエリザベルお姉様がいらして、なにか、こう、なにか、複雑な気持ちで。
『では、頼む』『お任せくださいませ』というふたりのわかりあった短い会話に、胸が痛むのをなだめていたら『貴女に何があったのかは知らないけれど、わたくしも知ったことがあったわ。いろいろとやらなくては、ね?』とエリザベルお姉様がなにか企んだ時の微笑みを浮かべられたわ。
ああ、きっとこの短い時間にも、婚約者は其方に決めたよ的なお話が殿下からあったのね。
教会という場所で告げるだなんて、殿下もシチュエーションにこだわる派よね。
えーえ、頑張ってヒロインに愛を告げるお花畑の整備も頑張ってくださいまし!
わたくしは絶対に関わりませんことよ!
ああ、いっそこのまま魂を抜いて前世の世界に戻りたいわ。
あの小さいゲームの画面でいい。
あの中でならば、殿下に何度も愛を告げてもらえるのに。
―――そうしてもうすべて投げやりになってしまい、作り笑いだけ浮かべて思考停止していたところが今現在よ。
ああ、眠い。
新婦のご入場とやらはまだなのかしら。
「エミリアーヌ・・・僕の領地の塔から湖がよく見えますよ・・・共に余生を過ごしましょう」
ぼそっとつぶやかれたので声の方向を見ると、見慣れぬ青年が・・・って、
「げっ!シャルル!」
「げ?」
「げ、元気よ~わたくしは元気にまだまだ王都でやることがありますわ~だから塔になど行きたくありませんわよ~おほほほほ~」
あー、びっくりした。
真後ろにシャルルがいたとは。
いまだにゲームのビジュアルの面影がまったくない姿には慣れないし、いつもよりおとなしいから気が付かなかったわ。
「ちょっと貴方!本当にシャルルなのか、疑わしい貴方よ!ロイスバル様がお疲れなのはわかるけれど、なぜ貴方まで疲れた顔をしているの?」
「うるさい上にしつこくて。疲れることがあったのですよ」
「ああ、例のね」
「・・・やはりエリザベルお姉様は把握済みですか。一度お話し合いをしませんか?」
「うふふ。わたくしに色仕掛けは通じなくてよ」
エリザベルお姉様がシャルルに対して意味ありげに微笑みかけている事柄は、当然わたくしも把握済みよ!
うふふ。わたくしたち幼馴染ですもの、わかっているわよ~。
そう。シャルルが疲れている理由、それはずばり!昨夜の雷がしつこく鳴っていたのが怖かったから寝不足なのよ!
幼い頃も嵐が来そうだというのに我が家へ来ていて、怖いからわたくしと一緒に寝るのだと言ってはロイス兄様と喧嘩をしていたものね。
今日はまた一段と美丈夫ななりをしているけれど、中身はやはりまだ子供だわ。
それにしても、さすがエリザベルお姉様。
それをシャルルの弱みとして握っているのね。
わたくしもいざとなればそれを交渉材料にいたしましょう。
―――さて、シャルルからの恐怖のお誘いのおかげで一気に目が覚めたので、あらためて今の状況を確認しておきましょう。
結婚式はもう始まっていて、新郎であるアルフ兄様の入場が終わったところ。
荘厳な祭壇は天窓から日が差して明るく、アルフ兄様の衣装もかっこよくて我が兄ながらとっても素敵。
わたくしとロイス兄様は祭壇向かって右側の前から2列目にいる。
前の列には両親。
そして後ろの列に、ぼーっとしていたわたくしをここまで引きずってきたエリザべルお姉様と、なぜかシャルルがいた。
ちなみに、お父様関連の親族はもう皆亡くなっているし、お母様関連はお国が違うのでどなたもいらっしゃらないのよ。
そしてその後ろにはトラビスタ、ルーベンス、ファドリックと侯爵家の面々。
続いて伯爵家、などなど。
こちらは厳めしいおじさまが多いけれど、新婦側はリディアンヌ様のお友達が多くて華やか。
前方のご親族は少々困惑気味ね。
子爵令嬢が次期侯爵夫人になるのですもの、いろいろと大変でしょうね。
でも、侯爵令嬢が平民になる方がよっぽども大変だと思うわ。
まあ、処刑よりはまし・・・あ、処刑の際は、家族には累が及ばないよう殿下にお願いしなくては。
リディアンヌ様のご家族まで道連れにしてしまっては申し訳ないし。
ちなみに殿下はもう上の王族専用のお席にいらっしゃるはず。
向こうからは見えるけれど、こちらからはほとんど見えないというお席よ。
あ、後方にカトレア様発見!記憶がないのだけれど、わたくし、ちゃんとご挨拶したかしら。
さすがのジャスミン様も、今日はいらしていないようね。
ああ、四方から降るように荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡ってきたわ。
ようやく新婦のご入場ね。
そういえば、試着の時に誘われたけれどお断りしてしまったから、まだリディアンヌ様のドレスを見ていないのよね。
立ち上がって入口の方を見れば、新婦が父親であるエルトロール子爵に伴われてゆっくりと祭壇へ向かってきた。
長いベールに覆われたドレスが、透けて見える位置まで近づいてきたので目をこらす。
あれがアルフ兄様のご趣味ではないドレスね。
どれどれ、一応よく見ておきましょう・・・
・・・は?
嘘でしょう?




