55.未だ現在地が変わりません
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更新がたいへん遅くなり申し訳ございません(ぎゃ!刑期と同じ半月!)
今回は筆者が目標とする一話分の倍の文字数でお届けいたします(その割に進まない)
「殿下。畏れながら、わたくしに魔石を探し当てられるなどという特別な才があるとは思えません。あのふたりの場合も本当にまぐれ当たりにございます。ですから、魔石のお店に同行いたしましても、殿下の御期待に沿えぬ可能性がございますことを、どうか御考慮いただきたく存じます」
「いや、そう簡単に見つかるとは私も考えてはおらぬ。来週だけでは責任が取れないことを危惧しているのか?んー、では私が魔石の店に行くその都度付き合ってもらうことでよしとしよう。そのうちまたまぐれ当たりするやもしれぬしな。でも、まぐれでふたり分当てるなど、そうそうできることではないと思うぞ」
「それは・・・」
ロイス兄様のは公式グッズだからわかったのであって、本当はラウルのだけがまぐれ当たりだったのよね。
しかも、ラウルのはラウルっぽいという超適当で、しかも意味も知らずに選んだのがたまたま当たりだっただけなのだから。
殿下のお出かけにその都度お付き合いしようとも、殿下に合う魔石など見つけられる自信はないわ。
・・・え?都度?つまり見つかるまで何度も殿下と一緒にお出かけをするということ?
嘘でしょう?
都度の頻度は?何度行くことになるの?
「エミリアーヌ。やはり魔石の店より花畑へ行く方がよいか?今の時期はあまり花が咲いてはおらぬが」
ええっ?地の魔石ってお花畑で採れるものなの?
たしかに、土を掘り返すのならお花が咲いていない今の時期が罪悪感も少ないでしょうね。
昨日の大雨で土も柔らかくなっているだろうからという殿下のお気遣いも嬉しいわ。
でも、お花畑に行って発掘した方が早いかもしれぬとおっしゃられても、わたくしは魔石の原石すら見たこともないし、どのくらい土を掘ればでてくるものなのかも知らない。
シャベルなど持ったことのないわたくしには、お店で探すより魔石を発掘する方が難しいのではないかしら。
何度などと考えているうちに難度が上がってしまったわね。
それにしても、殿下のお花畑といえば、ゲームのエンディングでヒロインにキスをするあの美しいお花畑でしょう?
悪役令嬢が掘り返して荒らすイベントなどなかったわよ。
・・・ま、まさか、悪役令嬢が魔石探しで耕した跡に花を植えたことで、あの見渡す限りのお花畑になるの?
ひぃ!そんな裏設定があっただなんて。
ああ、以前ナタリア様に、お花畑で殿下とデートがしたいと戯言を言ったことはあるけれど、まさか強制労働で行くことになるだなんて思いもしなかったわ。
わたくしが責任を取らねばならない罰なのだから、ロイス兄様の協力を仰ぐことは許されない。
それでも今のわたくしは、そこが殿下とヒロインがデートするお花畑だと知っているがゆえに、余計な労働であろうとも掘ったそばから踏み固めてしまうに違いない。
そこは自信が持てるのだから、どうせ美しいお花畑は出来上がらないでしょう。
それにゲームの中の殿下は魔石をお持ちではなかったのだから、あの広さを掘り尽くしたところで見つからないはず。
悪役令嬢に対しての鬼畜設定に違いないわ。
・・・先に王都中の魔石を扱うお店をまわってみましょう。
ラウルの時のようにカンが働いて見つけられるかはわからないけれど、いきなりの強制労働よりはましよ。
そう思い至り『明日にでもひとりでお店をまわってきます!』と申し上げなくてはと急いで思考の海から浮上したけれど、なぜか殿下はわたくしの後方に目を向けられている。
振りかえると、メアリが緊張した顔で片手を真っすぐ上げていた。
「なんだ?発言を許す」
「恐れ入ります。先ほどは申し訳ございませんでしたっ。それでええと~、差し出がましいのですが、エミリアーヌお嬢様が魔石のお店へ行くことを躊躇していることについてのご説明をと思いまして~」
いいえ、わたくしが躊躇しているのはお花畑の方よ。
メアリは何を言い出す気なの?
「ほう。理由があるというのか。申してみよ」
「はい。実はお嬢様はお店と呼ばれるものに一度もお入りになったことがないのでご不安なのです」
え?
「店というものに入ったことがない?エミリアーヌ、それはまことか?」
「え、ええ。たしかに入ったことはございません・・・が?」
それがなにか?
そんなに驚かれることではないでしょう?
生活はなににおいても不足はない。
なにか欲しければバルトやジェラルドあたりに言って手配させればいいし、選びたいなら商人に商品を持って来させればいい。
だから、別にお店へわざわざ自分が足を運ぶ必要はないと思っているわ。
侯爵令嬢としては当たり前のことよね?
でも、いくらエミリアーヌとしては初体験だろうとも、魔石を売っているだけの普通のお店に入るのに不安なんてないわ。
この世界の店はルーチェとしては行ったことがあることだし。
「ならばカフェもか?」
「・・・はい」
なぜカフェと問われるの?
殿下は魔石のお店のみならず、カフェにも行かれるのかしら。
未来の王として庶民の暮らしを知っておこうとなさるだなんて、素晴らしくて素敵です(ハート)
わたくしは王城でお茶を出されても、我が家でバルトが入れてくれるお茶の方がおいしいと思うくらいだから、わざわざ平民もいるようなカフェでお茶を飲むことに興味はないけれど。
ああでも、ゲームで攻略対象者と行ったカフェには行ってみたいわ。
あれはヒロインがお気に入りのお店だと言って案内するのだから、殿下が行かれているカフェとは違うところなのでしょうね。
あとは雑貨屋と、ルーチェの両親が営む食堂と・・・恵美としてはゲームに出てきた聖地巡りをしてみたいとは思うけれど、正確な場所も不明だし、誰かに聞いても怪しまれるだけよね。
うーん。スマホのマップアプリで調べられたら便利なのに。
食堂も繁盛店だったから、星がたくさんついていてすぐにわかるはず。
ちょうど教会内にいることだし、もう一度取りに行かせてくださいと神様にお願いしようかしら。
でも、道を撮影している車がいないのだから、ここにスマホがあっても無駄ね。
まあ、来年には主な舞台の学院へ行かれるのだからよしとしましょう。
あ!悪役令嬢が登場した、アンドリュールートの断罪場所である街の広場になら、わたくしも迷わずに行かれるのかしら。
・・・ああ、行ってはダメね。
ゲームの強制力で魔獣を召喚してしまいそうだし。
「行ったことはないけれど、行くなら私と行ってみたい。ということか」
あら?殿下が何事かつぶやかれて考え込まれているわ。
はっ!お店へ行くのが不安というのならば、やはりお花畑へ行かせてやろうとお優しい殿下はお考えになられるはず。
なんてこと!メアリのせいで強制労働が決定してしまうわ!
「で、殿下、わたくしは魔石のお店に行ってみとう存じます!」
「ああ、わかっておる。エミリアーヌ、私がついているからなんの不安もいらぬぞ。日程の調整をしたら報せをだすから待って居れ。それにしても、エミリアーヌは箱入りだな。私の弟妹とてしょっちゅうふらふらと出かけておるのに」
王子・王女様方までお忍びを?
アランも頷いているけれど、そんなにわたくしが出掛けないのはおかしいことなのかしら。
まだ学院にも通わぬ年齢であるわたくしが家から出るには、保護者であるお父様の許可が必要でしょう?
守りの効いた教会と王城以外へ行くのが許されないのは、侯爵令嬢だから誘拐の危険があるのでしょう?
そういうものだと不思議にも思っていなかったのに。
そういえば、同じ侯爵令嬢であるエリザベルお姉様からも、よくお出かけされたお話を聞くわね。
あら?わたくしがおかしいの?
「お嬢様は王太子妃になるべく、お勉強ばかりされていましたからね~」
・・・・・・ひっ!!!
メアリが突然また爆弾を投げつけてきたことで、わたくしはおろか殿下までもが固まってしまった。
「メ、メアリ、もうお黙りなさい」
勉強をしていたのはわたくしの勝手。
殿下からしてみたら『出かけもせずに勉強したのだから、王太子妃にしろというのか?そちらから辞退したくせに今更なんだ』と思われるはず。
あれだけ努力した日々を今更殿下に知っていただいたところで『だからなんだ』で片付けられてしまうだなんて。
それはとても悲しいことだわ。
「エミリアーヌ・・・」
殿下がなにやら複雑な表情をしてから片手で口を覆われた。
笑った?喜んでいらっしゃる?いいえ、まさか。
きっと出掛けもせずに勉強したのにその程度かと思われて、浮かんだ笑いをこらえていらっしゃるのだわ。
ああ、もう立ち直れない。
どう言えばいいの?なにを言えばいいの?
謝罪するのもおかしいし、否定や言い訳も変。
お気になさらずだなんて、どの立場から言うつもり?
せめてメアリが言った、王太子妃という立場になりたかったのではないことだけはわかっていただきたいけれど、レオンハルト様を好きなのもわたくしの勝手。
わたくしは、恋心を告げたところで報われない運命と知っている者
わたくしは、なれたはずの婚約者の立場を勝手に捨ててしまった者
でも、そんな勝手で婚約者候補のお茶会にすら一度も参加せずに辞退したことにより、気兼ねなく殿下にお声を掛けていただけている今のこの立場を喜んでいる者
それをメアリのせいで本気で王太子妃を目指していたことを知られたことにより、今のこの立場さえ取り上げられてしまうかもしれないことに悲鳴を上げている者
わたくしは、悪役令嬢という運命にある者
それらは全て強制力と知っているはずの者
なのに、どうしても恋心を捨てきれない者
爆弾の後始末をする言葉が浮かばず、涙だけがまた浮かんできた。
と、そこへ
「エミリ、あ、殿下。無事にご神木は元の位置に戻りました!」
そう言ってクロードが飛び込んできた来たことにより、殿下は現場へ確認に向かわれ、わたくしは化粧直しをするためにアランが手配してくださった控室へ行くことになった。
ヤツに助けられる日が来るとは思ってもみなかったわ。
ようやくこの地点から移動できることになったけれど、この濃厚な短時間で疲れ切り、メアリを叱る気力はもうわたくしには残っていなかった。
とりあえず、メアリにはドジぽちゃにボンバーをプラスし、刑期も半月からひと月に増やしてあげることだけは、頑張って歩きながら決めた。
それにしても、メイドがいなかったわたくしのために、お城からメイドを呼んでくれていただなんて。
さすが殿下の従者。
そんなできる従者をお持ちの殿下は、やはり素敵です(ハート)




