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53.責任を点火するのはまちがいです

「さあ、マルセルム嬢。お水をどうぞ」


アラン様がまたわたくしを椅子に座らせ、水差しからコップに水を注いで渡してきた。


「ありがとう存じます、アラン様」


とりあえず、今日のところの処刑は免れたことが嬉しくて、とびきりの笑顔でお礼を言ってみたのだけれど、殿下はおろか、アラン様にまで目をそらされてしまう。


はぁ。主従揃ってこの顔はお嫌いですのね。


おいしいお水をいただきながらもちょっぴり悲しくなってしまい、また涙がじわりと浮かぶ。

嫌ね。一度泣いてしまったから涙腺が緩いわ。


お水を飲んでいるだけで泣くとは、どれだけ情緒不安定な者に見えることかと慌ててコップに視線を落とし、涙をまばたきで振り払っていると「なぜアランは名で」と殿下がつぶやかれた。


「あ!大変失礼いたしました。殿下がお呼びになっていらっしゃるお名前しか存じ上げなかったものでつい」


いけない。

いくら面識があるとはいえ、名前も伺わないうちから勝手に呼んでしまうだなんて。

馴れ馴れしいという罪がまた増えてしまったわ。


でも、侯爵令嬢が王太子の従者に馴れ馴れしいことで罪に問われるというのならば、平民のくせに王太子をはじめとした高位貴族に馴れ馴れしいヒロインにも、不敬罪を適応してほしいものよね。


「いいえ、名乗りが遅くなり申し訳ございません。私はアランカザル・ウォルトンと申します。どうぞ今後はアランとお呼びください」


アランが胸に片手をあて丁寧にお辞儀をしながら名乗ったその家名に、ひとりの人物が思い浮かぶ。


「・・・ウォルトン?ウォルトン子爵家の?では・・・」


「はい。私は子爵であるサリムカザル・ウォルトンの5番目の息子でございます。マルセルム侯爵家にお仕えしておりますバルトカザルは3番目になります」


我が家の執事のバルトの弟さんだったの!?

ついまじまじとアランの顔を見てしまったけれど、それでもバルトと似ているところをみつけられない。


「ほう。エミリアーヌのところにアランの兄がいるのか。その者も口うるさいか?」


「殿下?」


アランが心外だと言わんばかりに殿下の方に振り向いた。

なるほど。そこは似ているのね。


「ええ。あ、いえ、バルトはわたくしの心配をしてくれているだけですわ」


「ああ。マルセルム嬢はわかってくださるのですね。私もお嬢様にお仕えしたいものです」


え?もしかしてアランが逆ハーレムルートで婚約する執事になるのかしら。

いつも申し訳なさげな表情しか見ていないけれど、バルトより若いしハンサムだし優しそうだし。

わたくしもこの方とならばうまくやっていけそうだわ。


「まあ、ぜ」


「アーラーンー」


「はいはい。無理です。わかっておりますよ。そこまで狭量なのはどうかと思いますがね。

ああ、マルセルム嬢、お水のお代わりはいかがですか?」


「・・・いいえ、もう結構ですわ。ごちそうさまでした」


是非、わたくしの執事になってくださいませと言おうとしたけれど、殿下に遮られてしまった。


狭量?・・・はっ!まさか殿下は嫉妬を?

わたくしにアランを取られるとお思いで?

それは、つまり・・・いやいや、まだ例の会に入会もしていないうちから、非公式活動をしてはいけないわね。


そうよ、大切な従者にたとえ冗談でもわたくしに仕えたいなどと言うのはやめておけということよ。

好みの顔ではない上に地までばれているのだし、アランもわたくしなんて無理よね。


はぁ。誰か強制力ではなく、わたくしがいいと言ってくださる殿方はいないものかしら。

たとえ政略結婚でもやはり愛し愛されたいもの。


なぜか苦笑いのアランにコップを返していると、大聖堂の入り口の扉が開き、誰かが外に向かって話をしながら入ってきた。


「わかりました~。では、私はお嬢様の元へ行きますね~」


あのぽちゃ具合はメアリだわ!やっと来たのね。

他の人は入ってこないのかしら。


「お嬢様~!エミリアーヌお嬢様~!いらっしゃいますか~?」


大聖堂内部の方が暗いせいか、わたくしがここにいることに気が付かないようで、メアリが大声を上げる。


「・・・主従共々教育が足らず、騒がしくて申し訳ございません」


まさか『こっこでーす!』と大声で返事をするわけにもいかず、殿下に謝罪をしながらメアリが近くまで来るのを待っていると、メアリがタペストリーの裏などありえないところを見ながら声を出す。


「お嬢様~?私を鬼の前に置きざりにした、薄情なお嬢様~?」


「め、メアリ!?」


意外とまっすぐ近くまで来たので、もう少し近づいたら声を掛けようと思った矢先、まだこちらに気が付かないメアリがとんでもないことを言い出したので、つい立ち上がって大きな声を上げてしまった。


「あれ?お嬢様の声?どちらにいらっしゃるのですか~?」


「・・・私が呼んでまいりましょう」


アランが笑いをこらえながらメアリに向かって歩き出す。

「仲が良いのだな」と殿下の声も笑っているけれど、恥と絶望で殿下の方は向けない。

アランが動いたことで、ここに人がいるのに気が付いたらしいメアリが片手を上げる。


「あ!お嬢様そこですね!?今行きま、うわっ!」


こちらへ向かって駆け出したメアリが、いつもの通り躓いた。


「メアリ!」


わたくしがドジぽちゃメアリではなく、メアリがまた放り投げた鞄の方を心配した瞬間、ずざー!っと足元を風が通り抜け、わたくしの重いドレスの裾がはためく。

メアリの方角へ吹いて行ったその風は、床に落ちる寸前の鞄を浮かせ、そして倒れるはずのメアリの重そうな体まで押し上げる。


ふわりと体勢を立て直したメアリが、ゆっくり手元に落ちてきた鞄を両手で受け止めてポカンとしている。

咄嗟にドレスを押さえることもできなかった鈍くさいわたくしもポカンとした。


風?室内に突風?どこから?

吹いてきた方角を辿ると殿下がいらっしゃる・・・ま、まさか?


「い、今の風は殿下が・・・?」


「ああ、物を浮かせるのは得意だからな」


「ひっ!も、申し訳ございません!殿下に魔術を使わせてしまうだなんて、なんてことを!」


「ええっ?王太子殿下?ももも申し訳ございませんっ!」


わたくしの悲鳴に事態を把握したメアリも鞄を抱きしめて縮み上がる。


まずいわ。

このままだとメアリが処刑されてしまう。


「いや、か」


「で、殿下!どうか!この者はわたくしのメイドにございますので、どうか処罰はわたくしめにお任せいただきとうございます」


「え?いや、かまわぬが・・・ふむ。エミリアーヌがどのような罰を下すのか興味があるな」


殿下が少し面白そうにわたくしを見つめる。


え?ええと、今、すぐにここで考えろとおっしゃいますのね。

罰罰罰罰・・・メアリに一番効果的な罰は・・・


「あ!一週間おやつ抜きの刑とか」


「え?」


頭を下げていたメアリが、勢いよくわたくしを見る。


「一週間?おやつ?」


殿下が不可解そうにつぶやかれたということは、足らないということね。


「に、二週間」


「ひぃ!」


メアリが悲鳴を上げたけれど、殿下がなにもおっしゃらないということは、まだ足らないのね。


「半月」


「お、お嬢様!そんな御無体なっ」


二週間も半月も日数的には変わらないけれど、聞こえが違うところがポイントよ。


これ以上だとメアリがやせ細ってしまうので、このあたりで勘弁してくださらないかと殿下の様子を窺うと、殿下がぷっ!と吹き出され「ああ、それでよい」と笑いながらおっしゃった。


「ありがとう存じます。責任を持って執行いたします」


ふぅ。

殿下は面白いことがお好きなようだから、ウケを狙ってみたのだけれど正解だったわね。

メアリはがっくりしているけれど、処刑は免れたのだから上々でしょう。


それにしても、メアリが不敬罪ですぐさま処刑となったら、殿下の初めての処刑相手の座を奪われてしまうから焦ったわ。

はぁ、よかった。


わたくしが安堵していると、殿下がなにやら考えこまれた。


「責任?・・・ああ、そうだな!よし!エミリアーヌにも主人としての責任を取ってもらうとしよう!」


殿下、そのちょっと悪いことを思い付いたお顔も素敵です(ハート)


って、は?ええっ?





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