表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/97

52.全話皆様の妄想力頼みでお届けしております

「で、殿下!あの、厚顔なお願いではございますが、ただちに後ろに向きを変えますので、少しお待ちいただきとうございます」


上を向かされたことでつい殿下と目を合わせてしまい、慌てて視線だけをさまよわせて懇願する。

往生際の悪いわたくしの発言に戸惑われたのか、殿下の右手が顎から離れた。


「後ろに?後ろから行えということか?なぜ?」


「その、は、恥ずかしいので」


「うっ・・・エミリアーヌ、なにぶん私も初めてのことで、しっかりと位置を確かめねば難しいのだ。だから前からさせてくれ」


ハンカチを握りしめ、上を向いてなにかを堪えられたような殿下に、申し出を却下されてしまった。


殺人は初めてで不得手だなどと、これから殺す相手に言うのは屈辱でしたのね。

余計なことを言わせてしまって、恥をかかせたという罪がまた増えてしまったわ。


でもわたくしだって、首を絞められている間に浮かべるであろう苦悶の表情を、よりにもよって殿下に見られるだなんて嫌なのよ。

だから後ろを向くことを最後の願いとしてみただけなのに。


ああ、せめてそのハンカチで顔を覆ってくだされば。

でもそうすると、わたくしの首に直接殿下の御手を当てて絞めなくてはならなくなるものね。

それはさすがに初めてでは気持ち悪いわよね。


それにしても、たとえこんなことであっても、殿下の初めての経験のお相手という栄誉にあずかれるのだわ。

ならば、今後もわたくしのことを思い出していただける機会があるかしら。

でもそうなると、よけいにわたくしの印象が酷い顔で残るのは嫌だわ。

こうなったら、わたくしが自分で自分の為に頑張って、美しく絶えることにしましょう!


そう決心して、もう処刑される覚悟を決めようとしてみたものの、やはり涙が浮かんで殿下のお姿が滲み、とうとう身体も震えだした。


「はい殿下。なれど、いまいちど、お考え直しを、すん」


「ああ、また溢れてきたぞ。そんなに怯えるな。目を閉じているうちに終わらせるし、痛くないようにそっとやるからな」


「すん。そんな。いっそ、一息に終わらせてくださいまし」


「いや、乱暴にしたくない。エミリアーヌには優しくしたいのだ」


そっと?優しく?・・・徐々に絞めてくださるということ?

それならば、あまり歪んだ顔をせずに済むかしら。


背にあった殿下の左手が、抱き込むように肩にまわり、わたくしはいよいよ動けなくなった。


「いいな?エミリアーヌ。目を閉じよ」


「はい」



ああ―――

最期まで愛しい人を見ていられて幸せ

最期まで愛しい人が触れてくれて幸せ

最期まで愛しい人の声が聞こえて幸せ



そうよ。

塾帰りにバスを降りた途端、知らない人の運転するトラックに突っ込まれてブレーキ音を聞いて終わった前世よりも断然いいわ。


ああ、そういえば、テスト前だけどバスの中くらいはゲームしても良いよねと最後にやっていた王太子ルートは、どこで選択を間違えたのか途中から好感度が上がらなくなってしまったのよね。

ラストを見る前に停留所についてしまったから止めてしまったけれど、あれはたぶんバッドエンドになったはず。

一度もバッドエンドは見たことがなかったけれど、一体どういう終わり方だったのかしら。


なぜか今世の走馬灯ではなく前世の最期を思い出していると、ふたたび殿下がわたくしの顎に手を掛けられる。

上を向かされたことで、徐々に首も絞めやすいように伸びる。


ようやく覚悟を決めて目を閉じた途端、溜まっていた涙が頬にこぼれた。


すかさず、ハンカチが押し当てられた感触があった。

少しでも見苦しくないよう、涙を拭いてくださる殿下の優しさにまた涙が溢れる。

何度か目の下をそっと押さえられたあと、ハンカチは顔から離れていった。


いよいよそれを首に巻かれるのですね。


「ゆっくり動かしたがどうだ?痛くはないか?まだ駄目か?」


もう絞め始めているのですか?

片手は塞がっているはずなのに、殿下は器用なのですね。


ええ、首に感触もなければ痛くもないし、苦しくもないです。

さすが殿下。

初体験であらせられるのにお上手で素敵です(ハート)


でも息の根を止めるには絞めが足りないようですわ。まだ意識がありますもの。

殿下、お優しすぎます。

もっとぐっと強くきてくださいまし。


つい目を開けると、目の前には美しい青い瞳が。

そしてまるで青空にオーロラが現れたように、そこに緑色の帯が揺らめいた。


ああ、ついにお迎えがきたのね。

殿下と同じ瞳の天使様を遣わして下さるなんて、神様はなんと慈悲深いのでしょう。

ついでに来世はヒロイン転生でお願いいたします。


天使様の瞳をうっとりと見つめていると、天使様のまぶたが徐々に伏せられていく。

それにつられて、わたくしのまぶたも下がっていき、そして天に召さ・・・


「オ・ホ・ン!お水をお持ちしました」


「!!」


その声に再びゆっくりと目を開けると、天使様はいなくなっていた。

わたくしはまだ現世にいるの?

ガヤガヤと外で人の声がしているから、誰か来たのね。

殿下はすでにわたくしから1歩離れたところで、アラン様に「早すぎる!」と吠えていらっしゃる。


殿下のお考えより早く人が来てしまって、時間切れとなってしまったということ?

では中止に?

やったわ!!今日のところは処刑回避できたのね!


首に跡が付いてしまったかしらと手をやってみたけれど、もうハンカチも首に巻かれていなかった。


一瞬で取り除かれたなんて、殿下は証拠隠滅もお上手で素敵です(ハート)


「殿下。マルセルム嬢はきちんとけじめをつけた誠実さを好まれるのでは?」


そうです。きちんと裁判を受けさせてくださいまし。

まだ即処刑されるほどの罪は犯していないと思うのです。

修道院送りか、国外追放レベルで・・・


でもそうなると、今度はお母様に暗殺されることになるのかしら。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ