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49.悪役令嬢の正体見られたり

「あの!わたくしはここでじっとしておりますので、どうぞ早く行って差し上げてくださいまし。皆様ロイス兄様をお待ちかねでしょうし、このままだと結婚式にも支障がでますでしょう?」


はいはい、頭上の御三方、落ち着いて下さいませ。

あなた方は攻略対象者なのでね、ゲームの強制力で無意識に悪役令嬢(わたくし)と婚約をしたくなっているだけなのですよ。


でも、もうじき殿下の婚約者は決まる。

・・・わたくし以外の人に。

そうなれば、もう王太子ルートは完全に消えるのでしょう。

強制力で繋がっていた殿下とも、きっとこれが最後ね。


ゲーム開始まであと2年半。

ロイスルートとクロードルートはこれから始まるのだから、まだまだ油断できないわ。


「ああ、エミリアーヌのいう通りだな。ロイスバル。皆が困っておる。頼んだぞ。クロードは教会関係者として、ロイスバルを現場に案内せよ」


「「・・・御意」」


ロイス兄様が何度かこちらを振り返りながら外へ向かうのを、胸の前で小さく手を振りながら見送る。


殿下もわたくしの横でふたりを見送られて・・・ということは、ここに残られるのですね。

嬉しさ半分、せつなさ、ああ!それどころではない。まだご挨拶していないわ!


「で、殿下。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。本日は兄、アルフレットの為にご足労賜りましたこと、恐悦至極に存じます」


「いや。アルフレットは将来私を支えてくれる次期侯爵なのだから当然だ。それに大切なエミリアーヌの兄上だからな。本日はおめでとう」


ん?


「あ、ありがとう存じます。兄も殿下の為に一層研鑽を積むことでしょう」


あー、昨夜の雷で少々寝不足だからかしらね。

今日も絶好調で自分にとって嬉しい感じに聞き間違いをしたわ。


「それにしても今日はまた美しいな。そうしてそこでステンドグラスの光を受けていると、まるで聖女のようだ。あ、エミリアーヌは聖女に例えられるのは不快か?」


うう、やはり殿下にも八つ当たりが聞かれていたわ。

それにしても、もうすっかり顔の傷は消えたから、肌も美しく見えて一安心されたのね。

聖女のようだなどと、お世辞までおっしゃってくださって。


でも、わたくしは決して聖女(ヒロイン)にはなれない。

聖女を僻み、妬み、恨み、嫉む、こちらの婚約者の役を与えられし者。


つい、ちらりとステンドグラスに目をやってしまったけれど、とりあえず頭を下げる。

教会関係で殿下に断罪されるパターンは想定外だわ。


「いいえ、とんでもございません。身に余る光栄ですわ。それと弁解になりますが、わたくしは決して聖女様を批判しているわけではございません。ただ、この物語に少々不満を覚えただけでございます。家族の前だからと気が大きくなっておりました。教会で発言してよいことではなかったと反省しておりますので、ご容赦くださいませ。たいへんお見苦しいところをお見せしましたこと、お詫び申し上げます」


「ふうん、家族の前か。では、あれがエミリアーヌの素の姿か」


「・・・はい。お恥ずかしい限りでございます」


あー、終わったわ。

始まっていないし、始まりもしないけれど、終わったという感じだわ。

もともとお好みではない顔に、ヒステリー女だなんて、最悪の印象よね。

どうせ散りゆく恋だとしても、せめて印象くらいは気高く咲いて美しく散りたかったわ。


「ふっ。いや、エミリアーヌは多角的に物語を読むことができるのだなと感心したぞ。たしかにこの男が不誠実なのが悪い。んー、あの様子を見るに、エミリアーヌはこういう男は好かぬな?いつも女性を侍らせているクロード・ファドリックなどは特に好かぬな?」


クロード。

あなた、殿下にまでプレイボーイ認定されてしまったわよ。

これで将来、ちゃんとヒロインのハーレムで仲良くやっていけるものなのかしら。

まあ、クロードもヒロインと出会って真実の愛とやらを見つけてからは誠実になるから大丈夫ね。


そういえば、クロードにも挨拶をしていなかったわ。

一応ヤツも侯爵令息なのだから、わたくしの立場からは無礼も批判もしてはいけないわね。


「ええと・・・」


「もう私に素が知れているのだから、兄を前にした時のように正直に申してみよ。今はふたりきりなのだし、咎めるものはおらん」


ええと、殿下。畏れながら、その、殿下の後ろに控えるいつもの申し訳なさげな顔の従者さんも人数に入れてくださいまし。

ああ、もう従者にまでわたくしの正体がばれてしまっているのね。

ならばクロードに気を遣うのもしゃくだし、言ってしまいましょう。


「はい。ファドリック様はあまり誠実な方とは思えませんので」 大嫌いです!


「そうか!よかった。実は私の従姉であるエバルリラ王国の王女がクロードに夢中でな。あの顔に微笑まれて堕ちない女性はいないなどと言うものだから、少しな」


「そうでございましたか」


ああ、従姉様のご心配をなさっておいでなのですね。

まあ、あの整った甘いマスクなら、従姉様のおっしゃる通りほとんどの女性は堕ちます。

わたくしも嫌いな顔ではないので、前世の記憶がなければ騙されるかもしれません。

そもそも、前世の忌々しい記憶がなければ、この物語の批判もしなかったのですが。


「では、クロードの誘いも当然断るな?クロードに聖女に対する考えを説明する義務はないのだぞ」


「はい。神父様からのお呼び出しとあらば、謝罪に伺いますが」


「クロードが神父を利用しないとも限らん。すべて断ってよいぞ。もし、断り切れなかったら私の名を出すがよい。王太子の許可が出ないと言えば引き下がるだろう」


んん?

殿下はこの件に関して、わたくしのお父様の立場になってくださるのかしら。


「はい。ありがとう存じます。とても心強いですわ」


「うむ・・・そうか、エミリアーヌは誠実な者が好きか。では、私も誠実であろう」


殿下がステンドグラスを見上げながらそうつぶやかれた。

また自分に都合のいい風にも取れるけれど、それはこれから決まる婚約者に想い馳せていらっしゃっての発言ね。

もう殿下の中では決まったのかしら。


でも。

でも、ヒロインが現れてしまえば、真実の愛を見つけたと言って殿下もその若者と同じことをなさるのよ。

政略的な婚約に誠実さはいらない?

ふっ。考えてみれば、ヒロインと結ばれるのもゲームの強制力でしょう?

強制されたそれは、本当に真実の愛とやらなのかしら。


「それでエミリアーヌはこの物語、どうなればよいと思う?」


こっそりやさぐれていると、ステンドグラスを見上げたままの殿下に問われる。

ああ、少しでも殿下にわかっていただければ、わたくしの恋心も救われるかしら。


「・・・この勧善懲悪の物語は、わたくしごときが批判してよいものではなかったと反省いたしております。ただ、せめて、若者が婚約者の気持ちに気が付いてくれればと。それだけは願いたいです」


「婚約者の気持ち?」


「ええ。婚約者が聖女に対して行う悪事は、ただ婚約者なのに蔑ろにされたことへの怒りからだけではないと思うのです。この婚約者だって、若者を愛していたと思うのです。若者が真実の愛とやらに目覚めたというならば、この婚約者の気持ちもわかってあげられたと思うのです。せめて、せめてわかってくれて、ありがとうと言ってもらえれば。嬉しいけれどごめんねと言ってくれさえすれば。そうすればきっと、この婚約者もあきらめがついたと思うのです。悲しいけれど、この若者の幸せを願うこともできたと思うのです」


ステンドグラスを見上げていた視線を先へ向けると、そこにはギロチンに向かう元婚約者の後ろ姿が見える。

そしてその隣の最後の一枚には、若者と聖女の結婚式が描かれている。


「でも、これはもう結末の決まった物語。わたくしがいくらあがこうとも変えることのできない結末。だから、だからせめてあの最後の場面で、聖女との結婚式を挙げるその時に、この大聖堂で、このステンドグラスを目にした時に、どうか、どうか一度でいいので思い出していただきたいのです。あなたのことを愛していたがゆえに、愚かなことをしてしまった女がいたことを」


「泣くな」



わたくしはいつの間にか泣いていたようで、それに気付いたときには殿下の腕の中にいた。





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