48.悪嬢のために争わないで
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今日はいよいよアルフ兄様の結婚式当日。
雨上がりの澄みきった空気の早朝から、メイドたちによって清楚かつ大人びた装いに整えられたわたくしは、今日こそは見学をしようと少し早めに中央大聖堂へと足を運んだ。
ちなみに、本日の主役であるアルフ兄様は、リディアンヌ様を迎えにエルトロール子爵家へ向かうのだけれど、何をお考えなのか『エミリアも一緒に行こう』と誘ってきた。
もちろんお断りしたわ。
どこの世界に小姑を連れて新婦を迎えに行く新郎がいるのよっ!って、ここにいたわね。
・・・話を戻しましょう。
今日はロイス兄様と一緒にいるようにと言われている。
どのみちお客様をお出迎えするので早めに来なければならないのだけれど、お母様たちと一緒に来るとうろつけなくなってしまうので、ロイス兄様に早く行きたいとお願いして大聖堂まで一緒に来ていただいた。
さすがに今日の我が家は総動員で披露宴の準備をしているけれど人手不足。
なので、この忙しいのに早く行きたいなどと言う我儘お嬢様は、守りの魔術が張り巡らされている教会の中に放っておけば大丈夫だよねと、護衛はすぐに引き返していった。
でも、そこまで早く来たつもりはないのに、入れはしたものの大聖堂の中には誰の姿もない。
かすかに人の声はするから朝食中なのかしら?まあ、奥に入り込んだりしなければ咎められることはないでしょうと、前回ヤツに邪魔されたステンドグラスの前へ向かった。
そして今現在、ロイス兄様が授業で見学にきた時に聞いたという、ステンドグラスに描かれた物語を語って下さっているところ。
昨夜の雷雨が嘘のようにステンドグラスの外に見える空は晴れ渡っている。
けれど、わたくしはまたまた淑女にあるまじき、どんよりとしたチベスナ顔をロイス兄様に向けている。
「そして真実の、あ、愛を確かめ合った若者と聖女は、聖女に対して嫌がらせをしていた若者の婚約者と対峙したんだ。で、ここが婚約の破棄を言い渡している場面。すると・・・あれ?エ、エミリアどうした?そんな顔をして。つまらないか?この話、学院の授業で女生徒たちがやたらと盛り上がっていたから、女性はこういうのを好むのかと思ったのだが」
「・・・ロイス兄様。ひとつお聞きしますわ。ロイス兄様も、この婚約者の女性が悪いとお思いですの?」
わたくしは物語に合わせて続いていくステンドグラスに描かれた、一人の女性の姿にビシリ!と閉じた扇を突き付ける。
ロイス兄様の語りが始まってすぐに気が付いたわ。
この物語、完璧に悪役令嬢が出てくる系の乙女ゲームのストーリーじゃないの!
それを攻略対象者に語られる、そうです、わたくしが悪役令嬢です!
ああもう、なんという仕打ちなの!?
「え?あ、え?あ、ああ、それは嫌がらせをしていたのだから悪いだろう?し、しまいにはここの場面で聖女を殺そうと企むのだぞ」
わたくしの剣幕にたじろいで一度ステンドグラスの道を振り返ったロイス兄様が、スッ、スッと2歩横歩きで先へと進み、ためらいがちに一部を指し示す。
えーえ、せっかくなので、ルート次第では悪役令嬢と婚約し、最終的にはわたくしを暗殺した攻略対象者である【ロイスバル・マルセルム】に対して言わせていただきましょう!!!
「違います!悪いのはこの若者です!婚約者がいるにも関わらず、聖女と浮気したのですから!真実の愛ですって?そんなもの、きちんと婚約者とけじめをつけてから確かめ合うべきでしょう?聖女とうまくいったからといって、正当に立場を主張した婚約者を断罪して処刑するだなんて。こ・の・男が最低なのですわ!」
甘えられる兄だからこそ、ロイス兄様だけに八つ当たりよ!キーッ!
「お、おお、そ、そうか。あ、エ、エミリア、そんなに叩くとガラスが割れてしまうよ」
「そしてこの女っ!!なにが聖女ですか!人の婚約者に言い寄るだなんて!恥ずべき行為ですわっ!」
ゲームでは散々、その立場で対象者たちを攻略していたくせにと、頭の片隅で自分にツッコミを入れたところで「それは聖女に対する批判ですか?」と後ろから声を掛けられた。
しまった。ここは教会だったわ。
神官に聞かれて・・・ってこの声は。 ちっ!
振り返るとそこには、神官が着る青い儀式用の衣装を身に纏ったヤツがいた。
似合う!似合うわ!とても素敵よ!
だからそのまま修道院に入ってしまいなさいよ!
あなたひとりいなくとも、まだ4人もハーレムにいるのですもの。
ヒロインには我慢していただくわ!
「ファドリック侯爵令息」
ロイス兄様がスッとわたくしの前に出る。
「ああ、どうぞクロードとお呼びください。ロイスバル様、エミリアーヌ様。本日はアルフレット様のご結婚、おめでとうございます。本日は私も祈祷の方に参加させていただきますね。それでエミリアーヌ様。一度聖女の在り方についてのお考えをじっくりとお聞かせください。そうですね、さっそく明日の昼食をご一緒いたしましょう」
「それはなんの権限あっての発言だ?」
わたくしが即時お断りするまえに登場した新たな声の主は、姿を見なくてもわかる。
このイケボはまごうことなき殿下の御声!
今日は式にご臨席の栄を賜ることになっているのだけれど、こんな早くからお会いできるだなんて。
いえ、ちょっと待って!まさかわたくしの八つ当たりも聞かれていたの?
「殿下。私は教会関係者として、」
「ほう。では教会関係者として我先にここへと走ってきたのは、女性を口説く為だったか?思い出すがいい。教会関係者として、今何を優先すべきなのかを」
わたくしとロイス兄様が慌てて殿下に礼を取る中、なにか弾糾が始まった。
いいですわ!殿下!もっとおやりになってくださいまし!
冷たい眼差しも、今はわたくしに向けられてないので素敵です(ハート)
「・・・はい、殿下。
ロイスバル様、お力をお貸しいただきたく。実は昨夜の大雨により、大聖堂の裏手にあるご神木が根から倒れ掛かっており、さらに脇にあった巨石が根元の穴にずれ落ちていて動きません。ご神木を元に戻せずに困っていたところ、殿下が強大な地の魔力をお持ちのロイスバル様が大聖堂の中にいるとおっしゃったので、お願いに参りました」
ああ、教会関係者は裏手に行っていたから、どなたもここにはいらっしゃらなかったのね。
って、ここは中央大聖堂よ。貴様のテリトリーは南教会でしょ。なに出しゃばっているのよ。
俺の頼みなら聞くだろうと?
侯爵家の子息であるクロードが直々に頼みに来なくとも、ロイス兄様なら手伝うわよ!
それにしても、殿下もよくロイス兄様がここにいることがお分かりになったわね。
「ロイスバル。私からも頼もう。石を爆破するなら私にもできるのだが、それだと建物にまで被害が出てしまう。穏便に石だけを動かしたいのだから、ロイスバルが適任だ」
「わかりました。お任せください」
快く引き受けたロイス兄様が、わたくしに言い聞かせてきた。
「エミリア。危ないからエミリアはここにいるんだ。一人にしてしまうが、決して外へ出てはいけないよ」
「ロイス兄様、わたくしももう小さい子供ではないのですから大丈夫ですわ。兄様こそお気を付けて」
「ああ、ご心配でしたら私がここに残りましょう」
「クロード。君は教会関係者なのだろう?だったらロイスバルと共に現場へ行くべきだと思うが?ああ、安心するがいい。エミリアーヌの側には私がつこう」
「あー、やっぱり一緒に行こうか、エミリア。この前みたいに私の背に隠れていれば安全だから」
「それならば、背は私が一番高いので私の後ろの方がより安全ですよ、エミリアーヌ様」
「いやいや、私の風の魔力をもってすれば、たとえ砂粒ひとつでもエミリアーヌに当てさせはしない。だからエミリアーヌは、私の側にいればよいぞ」
え、なにかしらこれ。
頭上で睨み合いが始まったのだけれど。
もしかしてわたくし、攻略対象者3人に取りあわれているの?




