45.こそこそ話が続きます
「なにせアルフレット様が話されることは、ほとんどがエミリアーヌ様のお話でしたもの。女性に対しても男性に対しても、色恋を匂わせるようなことは一切なく、ひたすらエミリアーヌ様を愛でていらして・・・(危うくリディアンヌが“美しき兄の愛を見守る会”を発足するところでしたわ)」
丸テーブルの斜向かいの席にいるアドリアーナ様が、最後の方は独り言のようにつぶやかれたのでそこはよく聞こえなかったけれど、つまりアルフ兄様はわたくしの話ばかりをしていた、ということ?
“美しき者が仲良き哉の会”の餌食にならないほどに?
それは、それほどまでに周りからドン引きされていたということではないの?
アルフ兄様に甘やかされている自覚はあるけれど、まさか学院でシスコンを公言していたとは。
「わたくしの、話を、ですか? 兄は一体なんと?」
「ふふ。そうですわね~たくさんありましてよ。エミリアーヌ様がお庭で蝶々を追いかけていらして噴水に突進したお話ですとか、お熱が出て寝ていらっしゃる時、額に乗せていた濡れタオルを隣に寝かせたぬいぐるみの額に移し変えていたというほほえましいお話ですとか~、」
「なっ!んですって!?アルフ兄様!なんという辱めを」
今日は女性のお茶会だからと、挨拶だけで引き上げたアルフ兄様の執務室の方角をつい睨んでしまった。
わたくしの横で、幼馴染であるエリザベルお姉様が「ああ、あの時ね」とつぶやいているけれど、わたくしはまったく記憶にございませんことよ!
アルフ兄様が学院に在籍していた当時、10歳下のわたくしはまだ子供だったのよ。
そんな本人も覚えていない幼少期のエピソードを学院で話されていただなんて。
一体どの程度の話を、どのくらいの人数に広められていたのかしら!?
「ふふ。大丈夫ですわ。わたくしの話し方だと語弊がありますけれど、アルフレット様はそれはもう愛情深く、情景豊かにお話されましたので、エミリアーヌ様がいかに可愛らしいかということが伝わりましたもの(少しばかり長いのだけが難でしたけれど)あの当時アルフレット様からお話を伺った者は皆、エミリアーヌ様を我が妹のように知ったものですわ。ですから、本日わたくしやっと実物のエミリアーヌ様にお目にかかれて嬉しゅうございます」
にこにことそうおっしゃるアドリーナ様にさきほど初めましてのご挨拶をした時、やたら大げさに喜ばれたのはそういう背景があったのね。
そういえば、リディアンヌ様に初めてお会いした時も、ものすごく感激されたのだったわ。
それで『なあに?この方。わたくしに会えてなにがそんなに嬉しいの?そういう風に振舞ってまで媚びたいのかしら』と思ってよけいに嫌厭したのよ。
完全にアルフ兄様のせいじゃない。
それにしても、アドリアーナ様の話し方で語弊があるということは、そのエピソードを普通の人が話した場合、わたくしがドジで天然ボケだと思われるということでしょう?
アルフ兄様!あなたのせいであなたの妹は、来週の結婚式で大勢の方から生暖かい目で見られることになるのではないですか!?
「もう。恥ずかしいですわ。そんな子供の頃の話はお忘れくださいませ」
「ふふ。エミリアーヌ様、お兄様をお許しになって差し上げてくださいましね。今になってよくよく考えてみれば、あれは妹の話をすることでご自身が会の生贄にならないようにとの謀略だったのかもしれませんわ。美しい殿方は高嶺の花なので、望み薄な女生徒は僻みようのない者とくっつけたがりますの。それに気が付かれていたのかもしれませんね」
それで妹を身代わりの生贄にしたというの?
なんてことを。覚えていらっしゃい!アルフ兄様!
そこで、はたと思い至る。
これは聞いておいて心を備えておかなければと。
完全に会の活動内容がBLだとわかっている体になるけれど、構いやしないわ。
わたくしは、お姉様方に声を潜めて問うてみた。
「で、では、お、王太子殿下もどなたかと?」
「うふふ。さすがに王族はわたくしたちの首と胴がさようならしかねないので対象外ですわ。公式には」
ということは、もう公式(?)なラウルが王族だった場合、かなりまずいのではないかしら。
それでも指摘はできないけれど。
「普通は騎士家の方が対象になることが多いですわね。陰から見ていても、騎士の方は濃厚、いいえ、男同士の親交がとても深いですから」
陰から見る?もしや壁になりましたか?
え、騎士家ということはアンドリューも対象に?
ああ、絶対にひと学年しか違わないクロードとも、カップルにされていたに違いないわ。
その場合、どちらがどちらになるのかしらと、またもや思考が腐敗しはじめたところに、室内の方の席にいたひとりのご令嬢がそそくさとこちらへ移動してきた。
そして、少し興奮気味なのに声を潜めてお姉様方に向かって声をかける。
「い、今、わたくしはそこでお話を伺って知ったのですけれど、サンドリア伯爵家のこと、お聞きになりまして?」
「あら、そのお話はここではだめよ。エミリアーヌ様のお耳汚しだわ」
サンドリア伯爵家ということはリリメリル様のお家ね。
なにかあったのか聞こうとしたところでエリザベルお姉様が「あら?あれはロイスバル様ではなくて?」と声を張っておっしゃった。
皆がエリザベルお姉様の視線を辿ると、室内のテーブルについているお母様の脇に、ロイス兄様が立ってご挨拶しているのが見えた。
誰かが小さいながらも「きゃあ!」という声を上げる。
ロイス兄様、今ラウルと一緒に来るのはやめてくださいましー!
今はそういう目でしかふたりを見られないから―!と思ったけれど、ロイス兄様の隣に立っている男性は、ラウルと同じくらいの高身長なのに、髪が長い銀色ではない。
あの、さらさらストレートの金髪はもしや・・・
「え?まさか王太子殿下?」




