43.さすがにエミールやエミマロは出しませんよ
「まぁ、そんなことをおっしゃって?ふふふ」
「ええ。可笑しいでしょう?わたくしの弟はとてもユーモアがありますのよ。そうだわ、エミリアーヌ様。ぜひ一度わたくしの弟と、」
「あらあら、それでしたらわたくしの兄の方が人を楽しませることに長けておりますわ」
お茶会が始まった。
一通りご挨拶が済むと売り込みも始まった。
ああ、その前に。
本日、名目上はわたくしのお誕生会で、女性17名をご招待してのお茶会よ。
今日は陽気が良いので我が家の庭園に面したパーティルームを開放し、室内外にテーブルを配置。
お母様と、トラビスタ侯爵夫人をはじめとした奥様方は部屋の中に着席されているけれど、ご令嬢方は庭の方のテーブルに着いていたり、花壇を眺めながら立ち話をしていたりと動きがある。
こういうところに年齢が・・・おっと、落ち着きが表れるものなのね。
話に花を咲かせる色とりどりのドレスで、この場は本当に華やか。
おほほ・うふふと笑い声が絶えない。表面上は。
まあ、我が国は比較的平和なのだけれどね。
まだ学院に入学する年齢でないうちは、お付き合いのある方だけをご招待してささやかにお誕生会を催すものなのだけれど、今年はご招待した方が多い。
初めての方は、前にお父様の執務室で積み上がっていたお茶会の招待状をくださった方々。
あれからまたかなりの招待状が来てしまったらしいわ。
ご招待をひとつひとつ受けていてはわたくしの身が持たない。
そして、あちらには行ってこちらには来ないといって揉めるのも面倒だからと、お父様がすべてお断りになったそう。
その代わりに本日ご招待と言う形で我が家の方に呼びつけたと。
なんだか偉そう。侯爵家だから偉いのか。
こういうところも悪役令嬢になる一因よね。
お父様に、せっかくだからふたつみっつならご招待を受けてみたいと言ったのだけれど、却下されてしまったわ。
よそのお宅ってほとんど行ったことがないのよ。
わたくしにお友達が少ないのはお父様のせいなのではないかしら。
まあ、性格がきついせいでもあるのは認めるけれど。
最近かなり元のエミリアーヌに引き戻されている気がするわ。
今現在も、目の前のご令嬢方のお話がぜんぜん面白く感じないし。
さっきからご兄弟の面白いらしいエピソードしか話さないこのおふたりは、事前にアルフ兄様から渡されている招待者リストに要注意マークがつけられているご令嬢方。
ちなみに、わたくし主催のはずなのに、一昨日招待者リストを渡されたという状態。
アルフ兄様の解説によれば、来ていた招待状は夫人や令嬢名義となっているけれど、マークが付いている家に行くともれなくそこの御子息らと引き合わされるとのこと。
招待者リストのほとんどにマークが付けられていたのでそんな馬鹿なと思ったけれど、今、まさに目の前のご令嬢から兄弟の売り込みを掛けられている最中。
先ほどは釣り書きをいただいた例の9歳の息子さんを猛プッシュされたし、別のご令嬢からはご兄弟に加えて従兄まで売り込まれた。
たしかにうっかりそれらのお宅へ行っていたら、男性に会わされて面倒なことになっていたでしょうね。
そうそう、このお茶会が急遽決まったのもその点らしいわ。
来週のアルフ兄様の結婚式当日に引き合わせなどされないよう、事前に脈無しと思わせるようにと。
披露宴に当たる夜会には未就学のわたくしは出席しないけれど、式の行われる教会へは行くのでその対策らしいの。
けれどそんな高等技術、妹は持ち合わせておりませんよ!アルフ兄様。
15歳で魔力が発現するまでは縁談はお断りと宣言しているのに、皆様無駄なことをなさるわよね。
まあ、普通なら魔力属性の釣り合いなんてどうにでも取れるものでしょうし、同じ条件なら顔見知りの方が有利だろうというお考えなのでしょうけれど。
でも、残念ながらわたくしが持つことになるのは光と闇の魔力。
他のどの魔力属性ならば釣り合いがとれるのか教えていただきたいわ。
こんな条件を付けてしまったのは失敗だったかしら。
あーあ。四大属性を全部有する王太子殿下とならば文句ないのに。
だいたい、ゲームの王太子ルートだって、婚約者の悪役令嬢を冷遇したのがいけないと思うのよ。
闇の悪役令嬢を正妃にして、光のヒロインを側室にすれば良かったのではないの?
そのくらい王太子ならうまいことできたでしょうよ!
まあ、それではゲームのストーリーとして成り立たないし、側室を迎えた時点で結局ヒロインを毒殺しようとするでしょうけれどね。悪役令嬢は。
もちろん今のわたくしならやらないわよ!
・・・たぶん・・・たぶんね。うん。
ああ、いけない。考えが逸れて愛想笑いが剥がれてしまったわ。
まだご令嬢方による面白エピソード合戦が続いているわね。
わたくしは別に面白い方が好きとは言っていないのに。
ああ、そうそう。
やはり繋がりを持つ目的で、子爵家の三男あたりから何件か執事の打診もあったそうなの!
もしかして、その中に逆ハーレムルートで婚約する執事がいるかもしれないじゃない!?
だから『ひとりわたくしの専属に雇ってください』とアルフ兄様にお願いしてみたのだけれど、それも却下されてしまったわ。
あわよくばという下心が見え見えだからと。
わたくしの方も下心ありだから構わないのに。
「まあ。おふたりとも、ご兄弟が楽しい方でいらっしゃるのね。ああ、それではお互いにご兄弟をご紹介し合ってはいかがかしら?おふたりともご婚約はまだでしょう?お互いの御年齢も釣り合うことですし、きっとこの場が良いご縁になりますわ」
ご兄弟の面白エピソード合戦を愛想笑いで聞き流し、思考を別方向へ飛ばしていたら、今日はずっと付いてくださっているエリザベルお姉様がそうおっしゃった。
申し訳ございません。今思考をテーブルに戻しました。4人でお話しているところでしたわね。
「え?ええ・・・」
「あ、あら、そうですわね」
おふたりがお見合いを始めたところで、エリザベルお姉様がわたくしに立つよう合図する。
「さあ、エミリアーヌ様。主催者たるもの満遍なくお話を伺わねばなりませんよ。次はあちらのテーブルですわ」
「はい、エリザベル様。
それでは一旦失礼いたしますわね。どうぞおふたりでごゆっくりお話なさってくださいませ」
先ほどからずっとエリザベルお姉様がバンバン売り込みを跳ねのけてくださるので、お任せしてわたくしは思考飛ばしができている。
さすがです姉御。
でもアルフ兄様に渡されたリストは、エリザベルお姉様にも要注意マークがついていたのよね。
なぜかしら。
次に連れて行かれたのは三人のご令嬢がいるテーブルだった。
この三人はアルフ兄様に渡されたリストに要注意マークは付いていなかったはず。
お姉様の顔見知りらしいし、少し息抜きができそうね。
当たり障りのない話が終わったところで、そのうちのおひとりに問われる。
「あの、エミリアーヌ様。その、本日ロイスバル様は御在宅ではございませんの?」
「ええ、兄は仕事で不在ですわ」
主に地面を耕すお仕事で。
「それはラウル様もご一緒に?」
ラウル、様?
ああ、この御三方は学院に在学中のお姉様方だわ。
ラウルは生徒会に入っているらしいからご存じなのね。
きっと執事としてではなく本来の王族としての振る舞いが出てしまって、悪目立ちしているのだわ。
「ええ、ラウルも一緒です。兄と楽しそうに仕事をしておりましたわ」
今日もラウルは絶好調で失礼だった。
わたくしの馬に勝手に乗ろうとしたし。
そしてわたくしたちが馬場から去る時には、これから直線コースを作るのだと図面を広げ、ロイス兄様と頭を突き合わせてあーだこーだと楽しそうに位置決めをしていた。
「きゃあ!やはりお家でも仲良しなのですね!ああ、残念ですわ。あわよくばおふたりの仲睦まじいお姿を拝見できるかもと楽しみに参りましたのに。うふふ」
「はい?」
きゃあ!とは?
たしかにあのふたりは仲が良いけれど、やはりとは?
首をかしげていると
「エミリアーヌ様はご存じではないのですね。あのおふたりは学院の女生徒の間でとても人気があるのですよ。ロイスバル様もラウル様も端正な御容姿ですから」
「加えてロイスバル様は魔力がお強いですし、ラウル様は成績優秀」
「なのに言い寄る女生徒はすべてお断りされる。そしてよくおふたりきりで・・・うふふ。眼福なのですわ」
と、三人のお姉様方がニヨニヨしていらっしゃる。
え?ちょっと待ってください!
まさかBがLするカップリングですか!?
やめてくださいませ!身近すぎます!




