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42.猫にならずに馬となる

ブックマーク登録&評価&ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

区切れなかったので長いです


※アルフ兄様視点の3話は38話の後に移動しました

しれっと (;'∀')

「さすが学院一だけあって、ロイスバル様の魔力は圧巻の迫力ですわね。それはそうとエミリアーヌ様。つまりアルフレット様は、これをわたくしのネリネサルニエンシスゴールデンクイーンアメテュストスエンジェル・トラビスタと同じように、ただ眺めておればよいではないかと、そうおっしゃるのね」


「・・・エリザベルお姉様。ネリィさまの正式なお名前はそんなに長かったのですね」


「うっ。兄たちと張り切ってつけてしまったのよ。それにしても、膝に乗せられないどころか背にも乗せてもらえず?ふっ。まあ、たしかにネリィと同じだわね。でも眺めるためにはわざわざここまで来ないといけないのでしょう?無理というか、無駄というか。わたくしならすぐに忘れてしまいそう」


「そうですわよねー。本当につまらないですわ」



はい。皆さまご無沙汰しております、エミリアーヌ・マルセルムですわ。

わたくしが今どこにいるかと申しますとですねぇ、ええと、ここは我が家の馬場、になる予定地の端です。

ええ。馬場と言っても駅とかレスラーの方の前ではなく、我が家が所有するお馬さんを走らせる場所ですわよ。


我が家の厩は前に行った騎士棟前広場のさらに奥にあるのですけれど、そことは別の場所ですの。

だだっ広い広場を、なんと只今ロイス兄様が、地の魔力を使って整地中でしてね。

すごいですわよー。重機いらず。

ロイス兄様が歩いた跡がどんどんと耕されております。

その幅約20m。

あ、今曲がったところが第四コーナーですわね。

広さは恵美が小学生の頃、よく父親に連れて行かれた競馬場の半分ほど。

これから付随する施設も建設するのだそう。


アルフ兄様の御婚約者のリディアンヌ様、つまり次期マルセルム侯爵夫人が乗馬をなさるそうなので、新設することになったのでしょうね。きっと。

それにしても、こんな場所に我が家所有の土地があったかしら?


・・・どうでもいいことなので話を戻しますわね。


それで、そんな所でなにをしているのかと申しますと、馬を見に来たついで、ああいえ、ロイス兄様の勇姿を見に来たついでに馬を眺めております。

簡易な囲いの中で草を食んでいる馬たちを。

特に目の前にいる一頭を。

トラビスタ侯爵令嬢であるエリザベル様と一緒に。


本日はわたくしが主催でお茶会を開くのですけれど、エリザベルお姉様には早めに来ていただきまして、そして馬車でこちらへご案内いたしましたの。

この馬をご覧いただこうと思いまして。


ああ、ここでご紹介と、事の発端をお話しておきましょう。


ネリネサルニ・・・愛称ネリィさまとおっしゃるのは、トラビスタ侯爵令嬢を下僕に持つ、長毛種で目が紫色のお猫さまですわ。

額には金色の、まるで王冠のような柄。

きらきらと、プラチナのごとく光り輝く白く美しい毛並み。


ああ、わたくしなぞたかが侯爵令嬢ではお傍に侍ることも許さない気高さ(お爪を出される)

それでいて、お姉様のお部屋からお暇する際にはするりとその優美でふさふさな尾っぽでわたくしを撫で「またいらしてもよろしくてよ」と言わんばかりにご挨拶してくださる。

まさに珠玉!貴婦人の鏡!ツンデレ猫万歳!


コホン。失礼しました。


そんなネリィさまに魅了されたわたくしですが、いくら関係が良好なトラビスタ侯爵家であろうとも、わたくしが行くことを許されるのは年に二度。

エリザベルお姉様とトラビスタ侯爵夫人のお誕生会にお呼ばれした時だけ。


なぜかというと、エリザベルお姉様には4人もお兄様がいらっしゃるから、トラビスタ家には行ってはダメとお父様がおっしゃるもので。

だからお姉様とお茶会をするときは、お姉様に我が家までご足労いただいております。

なぜかしらね?お兄様方にお会いしたところで、別に意地悪などされたことはないのに。

ちやほやと、むしろアルフ兄様より構ってくださるのに。


まあ、そういうことで、ネリィさまにお会いできるのも年に二回。

その短い時間だけでは、いつまで経っても仲良くさせていただけるはずもない。

そこで強欲なわたくしは『合法的に猫を吸いたい』・・・間違えました『わたくしも猫を飼いたい』と、お父様におねだりいたしました。

ええ。それは二年ほど前のことですわ。


その際『お姉様の猫と同じ色がいい!』と我儘を言いましてね。

それでもお父様は、必ずや全身が白く、紫色の目を持つものを探し出すと約束してくださいましたの。

ああ、どういうことかと申しますと、ネリィさまのような白毛で紫色の目を持つ猫はたいへん珍しいのですわ。


そして半年前、お父様から碧色の目だが白猫をみつけたと言われました。


しかし、わたくしはお父様に言いました。

『もう猫はいらない』と。


なぜかと申しますと、ちょうど前世の記憶が戻り処刑回避に頭を悩ませていた時期でしたから、責任が持てないと思いまして。

だって万が一にもわたくしが処刑されてしまったら、悪役令嬢が飼っていた猫なんて外に放り出されないとも限りませんもの。

雨に打たれ震えているところに、学校ではやんちゃなことばかりなさる方が通りかかり『なんでこんなとこにいるんだよ。チッ、しかたねぇな。うちにくるか?』というギャップ萌え的展開になる可能性はないでしょうし。


だから言いました。ええ、たしかに言いました。

『もう()()いらない』と。


そして今現在、わたくしたちの目の前にいるのは、全身が白く目が紫色の・・・

そう、もうおわかりですね。馬、なのですわ。


まるで猫のネリィさまを馬に変えてしまったかのように、額に同じような王冠を戴き、きらきらとプラチナのごとく光り輝く白く美しい体毛。

やたら長くふさふさなたてがみに宝石のような紫色の大きな目。

魔獣のいる異世界ですもの。そのうち角とか翼が生えてきてもおかしくない風貌。


ええ。先週の誕生日にお父様がプレゼントしてくださいました。馬を。

そうです。これはわたくしの馬!

わたくし馬主になりましたの。1歳牝馬の。

競馬を嗜んでいた恵美父が聞いたら、驚きでひっくり返ることでしょうね。


でも、おかしくないですか?白猫の代わりに白馬って。

エミリアーヌ父、大丈夫でしょうか?

普通そこは白い犬とか鳥でしょう?お金持ち怖い。


リディアンヌ様のおうちであるエルトロール子爵家は大きな牧場をお持ちだそうで、この馬はそちらで生まれたのだそう。

この馬を見つけた時《きっと我儘な娘は色が違うから猫をいらないと言ったのだ。猫は見つからないが、色は同じだから馬でも喜ぶだろう》そう思われてこれを購入されたのかしらね?エミリアーヌ父は!


まあ、馬はまさか野良にされることはないでしょうから、猫よりは行く末は安心ですけれども。


え?

希望通りの色なんだから喜びなさいよ?

馬なのだから、乗ればいいじゃない。 ですって?


ええ、わたくしだって、この美しい馬を愛馬にできるのですもの。

一度は喜びましたわ。


「エミリアーヌ様。アルフレット様は兄ば、か保護すぎるのではないかしら。わたくしだって嗜み程度には乗りますわよ。わたくしの兄たちとも遠乗りしたことがございますし」


「ううっ。エリザベルお姉様。わたくしが乗馬できるようにお口添えしてくださいませ」


そう。馬を与えられたのだから、当然乗ろうと思いますでしょ?

乗馬を習わせてもらえると思ってしまいますでしょ?

お義姉様になるリディアンヌ様が乗馬を嗜まれるのですもの、義理の妹のわたくしが乗れるようになったら、遠乗りでもして仲良くなりましょうってなると思いますわよね?


―――まだ人を乗せられるようには調教していない?

ええ、それでは調教をお願いしますね。どのくらいかかるものなのかしら?

わたくしはその間に乗馬服とかブーツなどを誂えておきましょう。

さっそく商人を呼ばなくてはね。ジェラルド、手配してちょうだい。


連れてこられた白馬を前にうきうきとそういう話をしていたところ、引き取りに立ち会っていたアルフ兄様が『エミリアは乗ってはいけないよ。落馬したら大変だからね』とおっしゃったのよ!


では何のために馬を与えられたというの?

お父様はお留守なので、現在我が家の全権はアルフ兄様にあるので逆らえないのよ。

それでもアルフ兄様に馬の存在意義について訴えてみたわ。

けれど取り付く島もない。


ならばとおねだり作戦を決行!

『わたくし、アルフ兄様といっしょに馬でお出かけしてみたいですわ~』

『それなら馬車で出かけよう』


しからばこうよ!

『有事の際、馬に乗ることができれば、足手纏いになることなくひとりで逃げることもできますわ!』

『そんな状況にエミリアを置くものか』


うーむ。お父様に取り付く島を買って下さるよう、おねだりする方が先かしら?

たしかに馬で逃げても処刑回避できるとは思いませんけれど、なにか役立つ時があるかもしれないではないですか!


ではどうしろというのですかと問えば、猫のように眺めるだけにせよとおっしゃる。

たしかに現状ネリィさまは触ることすら許されないので同じですけれども!

それでも、馬を猫と同じ扱いにするというのは、そもそも馬を飼う目的が根底から覆されていない?

あなたもそう思いますでしょ!?


猫はいくらでも見ていられますけれど、馬を見ていてもわたくしは特に楽しくありません。

前世でも恵美父が馬を鑑賞し、散財する為に競馬場へ行くのに付き合ったのは、あくまで競馬場グルメを堪能したいからであり、馬自体にはさほど興味はなかったですし。


「まあ、アルフレット様が反対なさるお気持ちも、わからなくはないわね」


エリザベルお姉様がわたくしの頭の先をごらんになり、そのままつま先まで目線だけを下げられました。


「そんなぁ。いつかエリザベルお姉様とも遠乗りできるかもしれないではないですかー」


そこまでわたくし、鈍くさく見えるのでしょうか?

メリーゴーランドの馬は乗れましたわよ。

見ることに興味は持てなくとも、乗ることには意欲がありますのに。


「ふふ。ならば頑張って許可をお取りなさいな。とりあえず、この馬に名前をつけてみれば愛情も湧くのではないかしら。わたくしのネリネサルニエンシスゴールデンクイーンアメテュストスラブリィエンジェル・トラビスタのような素敵な名を」


「エリザベルお姉様。先ほどより長くなっている気がします」


「い、いいのよ。可愛さが余って増殖し続けるのよ」


長いキラキラネームを付けたエリザベルお姉様にそう提案されましたので、改めて白馬を見てみましょう。


―――その干し草はおいしいかしら?お水もお飲みなさいな。

あなたの名前ですって。なんてつけましょうか?―――


ヴァイオレットサファイヤアイズホワイトドラゴ・・・リピッツ・・・グルファ・・・

なるほど。これは寿限無になりますわね。

ふぅ。そしてわたくしには、ネーミングセンスも無い事が判明しましたわ。

わたくしも兄たち、いいえ、ロイス兄様とだけ一緒に名前をつけることにいたしましょう。


ああ、いけない。

もう戻ってお茶会のために着替える時間ね。

名前の件はまた今度。




では、皆さま。またお目にかかりましょう。

それまでお風邪など召されませぬようご自愛くださいませ。





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