41.さあ、午後になりましたよ
「お誕生日おめでとうございます。御祈祷はこれからですね。では、私も参加させていただきましょう」
ちっ
「まあ、それはどうも痛み入ります。ですがわたくしめなぞにお時間を割いていただくのは心苦しいですわ。お気持ちのみを頂戴したく存じます」
なぜ
どうして
「いえ、ぜひとも、あなた様の健やかなる成長を祈願させてください」
おお、神よ。
わたくし、前世ではたしかにメリークリスマスと書かれたプレートの乗ったケーキを食べた翌週には、神社で柏手を打っているような信心深くない人間でした。
これはその罰だとでもいうのでしょうか。
教会へ来ると大嫌いなこやつに出くわしてしまうのは。
この国が信仰しているエレオット教は、毎週礼拝をしなくてはならないなどということはないけれど、誕生日には教会で祈祷することが慣習となっており、王都にある東・西・南・北の教会は午前中に、中央大聖堂では午後に誕生祈祷が行われる。
席は一応区分けされているけれど、神の前では平等なので平民貴族関係なく一緒に祈祷を受ける。
現在わたくしは例年通り、我が家から一番近い南教会で、ではなく、中央大聖堂にて祈祷待ちをしているところ。
べ、別に寝坊したから南教会の午前の祈祷に間に合わなかったとか、そういうのではないんだからね。
南教会は、こやつと遭遇する確率が高いから避けたのよ。
せっかく付き添って下さるアルフ兄様に「今日は下見を兼ねて、アルフ兄様の結婚式を行う中央大聖堂の方へ行きたい」とわがままを言って、中央大聖堂へ連れてきていただいたのに。
しかもわたくしの部屋の窓からも見えるこの大聖堂。
中に入ることをずっと楽しみにしていたのに、なぜこやつと話をして過ごさにゃならんのよ。
あまり外へ出ることのないわたくしにとっては、なんと洗礼式以来の中央大聖堂。
結婚式当日はそれどころではないだろうから、今日のうちに見学しようと思ったのに、さすが王都中心部の教会なだけあって誕生祈祷に参加する人数が多くてうろつけなかった。
いくら教会には、危害を加えようとすればたちまち動けなくなる魔術が張り巡らされていて安全だとはいっても、わたくしなんてたたぶつかっただけでも簡単に吹っ飛んでしまうわ。
貴族に怪我をさせた平民なんてどんな罰を受けることか。
自分が罰を回避しようとしているのに、他人に罰を受けさせるわけにはいかないじゃない。
まあ、貴族席近くなら空いているから多少は動いても大丈夫よね。
おとなしくこの辺りだけ見ましょう。
そう思ってさっそくステンドグラスに近づいたところに、こやつが湧いて出てきよったのよ。
なぜ?
ここはこやつの家である、ファドリック侯爵家から一番近い南教会ではないのに。
どうして?
ここはこやつのアジトである南教会ではなく、中央大聖堂だというのに。
なんでこっちにいるのよ!?女ったらしクロードが!!
会合があったのでこちらに来ていた。ですって?
なぜ修道士でもないくせに教会の会合に参加しにきているのよ。
終わったのなら会議室からまっすぐに帰りなさいよ。
「クロード、妹の為にありがとう。では、エミリアそろそろ席に着こうか」
「はい。アルフ兄様。さっさとまいりましょう」
「そんなに邪険になさらなくてもいいではありませんか。ちゃんと弁えておりますよ。たとえ二度縁談を断られたとしても」
「二度?」
「ああ、やはりエミリアーヌ様にはお話がいっていないのですね」
勝手に名前を呼ぶんじゃないわよ!
なによ、わたくしに話が通っていたら、受けてもらえたとでも思っているの?
とんだ自信家ね。
たとえお父様に打診されていたとしても、瞬時瞬間即決即時お断りよ!
最速の瞬発力を発揮してみせるわ。
それにしても二度?
わたくしが釣り書きを見たのはついこの間のあの時だけ。
一度目はいつ頃のことなのかしら。
クロードとの婚約の話が出るのは、わたくしに光の魔力が発現してからではないの?
「エミリア。縁談は全て断っているのだから気にしなくていい。
クロード。わかっているとは思うが、そもそも君とエミリアでは釣り合いがおかしいだろう。我が妹のことはあきらめて、さっさと別のご令嬢に申し込むと良い。それとも、あちらこちらへと見境なく打診しているのか?」
「そんな、滅相もない」
滅相もない?節操がないの間違いでしょうよ!
アルフ兄様が冷たくあしらっているので、わたくしも遠慮なくクロードを睨む・・・わけにはいかないので、愛想笑いだけを引っ込める。
あ、いっけない。
つい、ついでにツーン!って斜め上に鼻を向けてしまったわ。
クロードはそれに気が付かなかったのか、美しい顔に特上の微笑みを浮かべているけれど。
ふん!お生憎様。
わたくしに攻略対象者一と言われる、その甘美な眼差しを向けても無駄よ。
こちとらイケメンにはだいぶ耐性が付いてきているの。
毎日会うアルフ兄様もロイス兄様も、見慣れているだけで美形なんですからね。
ラウルや成長したシャルルにだって、そのうち慣れるわ。
好みの最たる殿下の御尊顔だって、3秒なら正面でも耐えられるようになったことだし。
ああもう!アルフ兄様のおっしゃるとおり、他の人と結婚してもうわたくしに関わらないでちょうだいと言えればどんなにいいか。
二度あることは三度あるというけれど・・・ああ、どうせアルフ兄様の結婚式でも会うのよね。むむむ
いいかげん眉間にしわが寄りそうになったところで、神官たちが整列を始めた。
アルフ兄様に「始まるから行こう」と促されたので、貴族席の一番前の席へと向かう。
ちらりと確認したら、クロードは一番後ろの席に座った。帰れ~!
まったく。
午前中といい、とんだ誕生日だわ。
誕生日といえば、あちら側でまだわさわさしている平民の皆さまもわたくしと同じ誕生日なのね。
本日が誕生日の人は赤いタスキを掛けているので一目でわかる。
誕生日が同じ人って王都だけでもどのくらいいるのかしら。
貴族側は・・・え?いない?わたくしだけ?
まあ、貴族の館は南と東に集中しているから、きっとそちらの教会に行っているのだわ。
ああ、そうよ。今日は誕生日なのよ。
前世の丸瀬恵美としてもね。
名前どころか誕生日まで同じだなんて。
タスキを2本掛けるべきだったかしら。
エミリアーヌとしては14歳。
恵美としては17歳になる・・・なれなかったわね。
残念だけれどそこはもう仕方がないわ。
エミリアーヌとしては16歳での処刑を回避して、絶対に17歳になるわよ!!
でもゲーム開始はまだ先のこと。
神様、どうか14歳は平穏無事な日々を過ごせますように。
祈祷が終わったので席を立つ。
クロードはまだいやがるのかと見れば、修道士と話をしていた。
アルフ兄様の背に隠れてそこを通り過ぎ、さっさと馬車へと乗り込む。
中央大聖堂の見学はまたの機会にしましょう。




