39.新年早々の騒動
「・・・メアリさん。申し訳ないのだけれど、今一度言って下さる?」
「えー。お嬢様、これで4回目ですよ。お耳の掃除をいたしましょうか?それとも頬をつねってさしあげましょうか?」
メアリが伸ばしてきた手を叩き落として、その後ろへ声を掛ける。
「では、ジェラルドさん。わたくし、メアリさんのおっしゃることが理解できないの。あなたが説明しなおして下さる?」
「お嬢様。お気持ちはわかりますが、メアリが申し上げていることは事実です。でも、一応私からも同じことをご報告致しましょう。覚悟はよろしいですか?
お嬢様、こちらの箱は王太子殿下からの贈り物でございます。王家からの届け物なので中は改めておりませんが、服飾品と思われます」
「・・・わたくし、ひとつ年を取ったからかしらね?どうにも耳が遠いし、脳ミソも働きが悪いわ」
「14歳がなにをおっしゃっているのですか。だから王太子殿下からのお誕生日のプレゼントですよ!早く開けましょう!」
新しい朝が来た。
14歳になった希望の朝のはずなのに、朝っぱらからわたくしの部屋では問題が発生中。
目の前に居るのは、ワクワク顔のメイドのメアリと、困り顔の執事のジェラルド。
そのジェラルドが抱えてるのは、長さが1mほどもある長方形の白い箱。
箱には、アルフ兄様の結婚式の為のドレスを注文した、オーダーメイド専門のドレスメーカーのマークが入っている。
おかしいわね。
わたくしが注文した分は昨日すでに届いているというのに。
ええ。たしかにリボンが掛かっているから贈り物ね。ええ。たしかに。
でも、わたくしにドレスの贈り物を?王太子殿下が?王太子殿下が??
ないない。ありえないわ。
基本、ドレスを贈るのは家族、恋人、そして婚約者。
もしくは求婚したい相手など、かなり限定した間柄に限られるし。
しかも王族から物を下賜されるだなんて、よほどのことがない限りありえないことなのよ。
はいはい。たしかに殿下からと何度かお花はいただいているけれど、それはお見舞いなどそれなりの理由があってのことだもの。
殿下からドレスが届いたとのメアリからの報告の、二度目にきつくメアリの頬をつねってみたから、これが夢ではないことは確認済みなのだけれど。
ないわ。ない。きっと服だとしてもドレスではない服なのよ。
たしかに、ゲーム内で攻略対象者がヒロインに舞踏会のドレスを贈るイベントはあったわよ。
でもわたくしは悪役令嬢よ。
それに貧しいヒロインにではなく、裕福な悪役令嬢に服を?なぜ?
侯爵家の令嬢でも持っていないような特殊な服だとでもいうの?
だからオーダーメイド?
悪役令嬢・・・=断罪・・・=囚人?
あ!そうね!きっと囚人服だわ!
ええー。今から準備されるだなんて、なんて気の早い。
「ああ。やっと納得できたわ。中身は白黒のストライプか、オレンジ色の服ね」
「お嬢様はすでに中身をご存じなのですね。ではさっそく開けてみましょう」
「メアリ、ちょっと待って。さすがにそれを目の当たりにするには心の準備が必要だから。ふぅ。いいわ。まずは、お手紙から拝見しましょう」
「ええ~」
箱に手を掛けたメアリの嘆きは無視して、まずは箱に付いていたと渡されていた書状を開く。
前にいただいたカードとは筆跡が違うわ。
これは呼び出し状を書いたのと同じ人の字ね。
なになに?
最初の挨拶の文章からして、これはやはり王太子殿下本人が書かれたものではなさそう。
でも、封筒にある宛名の、わたくしの名前を書いた人とも違うわ。
王家ともなると、そんな分業をするのね。
それで主文は?
ふむふむ。
ああ、なるほど。
そうでございますか。
それはわざわざありがとう存じます。
ひととおり読み終えたわたくしは、黙ってジェラルドに書状をひらりと差し出す。
読んでもよろしいのですか?と言いたげな顔をしたジェラルドが、箱をテーブルに置いてからそれを受け取る。
そして読み終え顔を上げたジェラルドと、顔を見合わせて共に安堵の息を吐いた。
ああ、よかった。
囚人服が贈られるだなんて、王太子ルートの強制力かと思ったわ。
ジェラルドも、婚約者候補を降りているのに誕生日の贈り物など厄介なことをと思ったのでしょうね。
脇からジェラルドが持っている書状を奪ったメアリが、勝手にそれを読む。
寛大なわたくしだから許されることよ。
いくらドジっても、お母様の前でやるんじゃないわよ。
「なんだ。お嬢様にお怪我をさせてしまったお詫びの品で、お誕生日プレゼントではないのですね。でもこのタイミングって出来過ぎじゃないですか?」
そう。
書状によれば、この贈り物は、わたくしが怪我をした狩猟大会を主催した殿下からのお詫びの品ということだった。
でもメアリが言う通り、魔獣に襲われて怪我をしてからもう半年が経とうというのに、今日?
アンドリューの処分が決まったから、殿下も責任をお取りになっての贈り物だとしても、今日?
一年は365日あるのに、よりにもよってわざわざ、今日?
わたくしの一年に一度の誕生日の、当日に?
それはわたくしだって、ちょっぴり期待しちゃたわよ。
ええ、メアリがしつこく言ったものだからほんのちょっぴりね。
「メアリ、偶然よ。だいたい、わたくしの誕生日なんて、王太子殿下がご存じのはずがないじゃない」
よけいな期待は結局傷つくのだから持たせないでちょうだい。
「そうですか~。ともかく、お嬢様~、早く箱の中を見ましょうよ~」
ヨシッ!を出すと、箱に飛びついたメアリがリボンをほどいて蓋を開ける。
とたんに、ピンクと白のストライプが目に入った。
まあ。かわいらしい囚人服!
じゃないわね。これは服を包んでいる紙だわ。
いそいそとメアリがそれでも丁寧な手付きで紙を取り除くと、そこには角度によって青から緑に色を変える、不思議な生地のドレスというよりはお出かけ着が現れた。
襟や裾には豪華なレースが品の良い程度にあしらわれ、子供っぽくなく、それでいて無理に大人っぽくもない。
まさに、14歳の今だけ着られる絶妙なデザインの服だった。
「わぁ。素敵ですね~」
メアリがいそいそと箱から出して皺を整えているけれど、ジェラルドとわたくしはしばらく言葉が出なかった。




