SIDE アルフレット・マルセルム 2
「シャルル・・・いいや、駄目だ。アンドリュー・サラメントは一応エミリアの命の恩人だ。それと、厚かましいのはその親族でな。本人はそれを含めてちゃんと謝罪に来ている。だが、父上が少々怒っていたから、サンドリア伯爵家は消えてもらうことになるだろう。まあ、うちとしてはその程度で済ますつもりだから手出しは無用だ」
「はーい。おじ様を怒らせてしまったのなら当然ですね」
あの一件は、アンドリュー・サラメントをエミリアに近づけさせたくなかった父が、うっかり謝礼という名の手切れ金をサラメント家に渡したのが間違いだった。
母が会わせるのを渋ったとはいえ、彼はほんとうにただ謝罪に来ただけだったのに。
サラメント騎士家の当主もまた誠実な人柄で、まだ王太子から沙汰も出ていないし、失敗した仕事なので申し訳ないと受け取りを遠慮していた。
しかし、そこへ親族であるサンドリア伯爵がしゃしゃり出てきたのだ。
サンドリア伯爵は侯爵家と縁を結びたかったのか、それともまだ金を取れると踏んだのか、エミリアをアンドリューに嫁がせようなどという下手な画策をしてきた。
命が助かったとはいえ、エミリアの美しい顔に傷がつき、王太子の婚約者候補から辞退したいなどということを、幼いころから頑張ってきたエミリア本人に言わせてしまう事態になったというのに『傷物にした責任を取らせて結婚させましょう』だと?
相手が誰だかわかって言っているのか?
あの父が溺愛してると有名な娘だぞ。
それとも、だからこそありがたがって持参金をたっぷり持たせるとでも思ったのか?
その妄想を聞いた父と母の高らかな笑い声が、どれだけ恐ろしかったことか。
アンドリュー本人がまともだったからすぐに収束はしたものの、サンドリア伯爵は完全に父を怒らせた。
さすがに伯爵家を潰すのは少々手間が掛かるが、あそこの一族は元々手広くやらかしていて、迷惑を被っていたのは我が家だけではない。
だから潰すこと自体は簡単なのだ。
まあ、そうなると一族郎党に影響がでる。
アンドリュー・サラメントも無事では済まぬだろうな。
いいだろう。心優しいエミリアが処遇を気にしているようだから、それなりには助けてやるさ。
さあ、そんなつまらんことより、そろそろ時間だな。
シャルルを帰してエミリアを部屋から出してやるか。
ロイスとラウルはもうしばらく謹慎だ。
「あ、そうだ。アルフ兄様。エミリアーヌがロイス兄様の誕生日プレゼントを購入した際に、水属性の魔石のアクセサリーも買ったのですが、誰に贈ったかご存じありませんか?エミリアーヌの周辺で該当するのは執事のバルトかメイドのメアリなんですけど、ふたりとも誕生日は半年以上先ですし」
「・・・シャルル。私もアクセサリーの行方は知らない。それと、もうひとつ私が知らないことがあるのだが、それをシャルルに問うてもいいだろうか?」
「なんですか?アルフ兄様。なんでも調べますよ」
「我がマルセルム侯爵家には、何人くらいルーベンス侯爵家の手の者が入り込んでいるんだ?」
「えー、いやだなぁ兄様。なんの話ですかー?」
シャルルが爽やかな青年っぽい笑顔を浮かべているが、嫌なのはこちらの方だ。
我が家の執事とメイドの魔力属性や誕生日など、どうやって把握している?
そもそもエミリアが購入したアクセサリーの種類なんて、私は知らなかったぞ。
――コンコン
「お話し中失礼いたします。アルフレット様、リディアンヌ様がご到着されました」
そう告げにきたのは執事のジェラルドだった。
バルトはまだ戻らないか。
エミリアからアクセサリーをもらったなどとは聞いていないが、確認せねば。
「ああ。今行く。エミリアにも声を掛けてくれ。
シャルル。悪いがこれから結婚式の衣装合わせでな」
「はい。お忙しいところ、お話を聞いて下さりありがとうございました。アルフ兄様が味方に付いて下さるなら心強いです。あ、この来週のお茶会のリスト、要注意人物に印を付けておきましたからお渡ししておきます。それと、エミリアーヌには僕が薬を飲んだことは言わないでくださいね。では、本日はお騒がせして申し訳ございませんでした。また明日参ります」
そう言ってシャルルが執務室から出て行ったが、はて。
味方に付くと言った覚えはないのだがな。
いや待て。
それより今シャルルが差し出してきたこのリストは、来週エミリアが主催する茶会の招待客リストではないか!?
シャルルは招待客ではないのに、一体これをどこから手に入れた?
はぁ。かわいくなくなってしまったシャルルだが、今後も敵に回すべきではないな。




