SIDE アルフレット・マルセルム 1
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アルフ兄様目線で3話お送りします
※1/22・25・26に投稿したものをこちらへ移動しました
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「エミリアーヌを僕にください!」
「シャルル。話を聞いてはやれるがそれは私が決めることではない。それに今エミリアに下手なことを言うと、父上に遠ざけられてしまうぞ」
我が家の門前にて騒いでいた弟妹たちを解散させ、その騒ぎの発端であるシャルルジーク・ルーベンスを連れて私の執務室へと入る。
従者のカインを廊下に待たせ、ドアを閉めたシャルルが開口一番嘆願してきたが、それは私が叶えてやれる願いではない。
「だってまた結婚の申し込みを断られたんですよ。おかしいです。今度こそエミリアーヌは僕のものになるはずだったのに。しかも今回の理由は一番酷いじゃありませんか!エミリアーヌの魔力発現を待って結婚相手を決める?それは、魔力の釣り合いで決めるってことですよね?発現が一年遅い僕には不利です。僕は対象外ですか?あれだけ急いだのに?僕は何のためにあの痛みを乗り越えたというのでしょう」
「シャルル?・・・まさか・・・シャルル、まさかお前、あれを飲んだのか?」
「『魔女の背伸び』ですか?ええ、飲みましたよ!3ヶ月間必死に探し回り、ようやく見つけたと思えば、激痛が長引くから成長が止まっていない者が飲んではいけないと言われましたけどね。ええ。それでも飲みましたとも。丸々1ヶ月のたうち回りました。それなのに、そんなどうしようもない理由で断られたのですよ!あの苦労がすべて無駄にされるだなんて酷すぎます!」
捲し立てるシャルルの言葉にあった『魔女の背伸び』というのは、隣国を挟んだ向こうにある国にだけ生息する魔獣の牙と、希少な薬草をいくつも使って作る、背丈を伸ばすことのできる薬だ。
『魔女の祈り』という有名なシリーズの中のひとつで、他には髪の毛が生える、一気に痩せる、体臭が減る、胸が大きくなるなどの薬があるらしい。
しかし、原材料が希少な為めったに作られることがなく、それに伴いとても高価なそれらの薬は、その効果が現れるまで激痛を伴うということもあって、そもそも使用する者も少ないという。
それでもすがりたい大人の悩みを解決する薬を、これから成長するシャルルが飲んだのだから、背丈だけではなく成長自体が促されてしまったのだろう。
エミリアが一目でわからなかったというのも無理はない。
今、目の前で嘆いているシャルルは、私が半年ほど見ないうちに別人のように成長しているのだから。
声はまだ定まらないのか少しかすれているが、エミリアより低かった背丈は今やロイスと大して変わらないほどだ。
顔つきも少年と青年の境ではあるものの、子供特有の可愛らしいかった面差しはすっかり消えている。
同年代に比べ成長が遅く、いつまでも子供っぽい容姿を気にしていたシャルルにやっと成長期がきたのか。それにしても急激だな。とは思ったが、まさか薬を飲んだとは。
後々悪影響がないのは保証されているが、なんという無茶をしたのだ。
そんな薬をシャルルが探している時点で、誰か止める者はいなかったのか。
「なぜそんな薬を・・・」
「なぜ?やっとお姉・・・エミリアーヌが王太子なんかやめてくれたんです。次は僕の番でしょう?それなのに僕が小さいせいでエミリアーヌは弟としてしか見てくれない。だから薬を飲んだんです。まあ、成長してもあまりエミリアーヌの反応は芳しくなかったですけどね。でもやっとエミリアーヌの横に並んでも見上げなくて済むんです。これからなんです!アルフ兄様、せめて僕の魔力が発現するまで待ってもらえるように、僕に味方して下さい!」
「う、うむ・・・」
必死なシャルルには悪いが、魔力云々というのは単なる時間稼ぎに過ぎない。
だからシャルルがそんなことを言ったら、喜んでもう一年延期しそうだな。父上は。
そう。あれはエミリアーヌを嫁に出したくない父の悪足掻きなのだ。
私達の父親であるマルセルム侯爵と、シャルルの父親であるルーベンス侯爵は親友だそうで、シャルルが生まれた時点で一年先に生まれていたエミリアと将来は結婚させたいという話がきたらしい。
しかし、すでに娘にメロメロであった父がエミリアを嫁に出すのを渋り、婚約には至らなかったそうだ。
まだ1歳の娘に親馬鹿なことだ。
まあ、当時11歳だった私も、もちろん大反対した覚えがあるのだが。
それでもずっとシャルルが一番の候補者であった。
エミリアが王太子の婚約者候補に挙がるまでは。
たぶんシャルルもそう言われて育ったのだろう。
ことあるごとに結婚の申し込みをしてきていたのだから。
「ん?そういえば、シャルル。半年ほど前、バーンズ伯爵家の末娘との縁談があったのだろう?」
「ふっ。アルフ兄様。あれは縁談ではありませんよ。ちょっと調べものがありましてね。仲良くしてみただけです。ああ、なかなか尻尾を出さないのですが、あちらにはこの容姿は役に立ちそうですね。まあ、尻尾の毛でも掴めたら、一番にアルフ兄様にご報告いたしますよ」
シャルルが父親である宰相に似た笑顔を浮かべる。
まったく何を調べているのやら。
あーあ。エミリアではないが『かわいいシャルルを返して』と私も言いたい。
「シャルル。あまりひねくれてくれるなよ」
「ひねくれ・・・ああ、すでに僕はひねくれてしまったのでしょうね。アルフ兄様ごめんなさい。実は僕、エミリアーヌが顔に怪我をした時、チャンスだと思ってしまったんです。たとえエミリアーヌの顔に傷が残ったとしても僕には関係ないので。だからエミリアーヌが包帯をしていた期間、結婚の申し込みをしていたのは僕だけだったはずです。
あー、もう何度申し込みをしたことか。それをここへきて魔力の相性という条件を持ち出されるなんて。おじさまがエミリアーヌの気持ちを最優先にするとおっしゃるから僕は我慢してきたのに。ああ、アルフ兄様、もしエミリアーヌが誘拐されることがあったら、一番に僕を疑ってくださって結構ですよ」
「シャルル。ぐだぐだするんじゃない。それにもしエミリアが誰かに誘拐されたなら、一番に見つけ出すのはお前だろう。そこは信頼するぞ。なあ、シャルルよ。そう思い詰めるな。幼いころから言われてきたから、エミリアを結婚しないといけない相手と思い込んでいないか?」
「思い込みであの薬が飲めるとでも?エミリアーヌは僕が食べられない物を、自分が悪者のようになってまで避けてくれたのですよ。僕の弱みをロイス兄様に悟られないようにするためにね。その時に決めたのですよ、薬を飲もうと。激痛がすると言われた薬を、躊躇なく飲めるくらい僕は本気ですよ」
「そ、そうか。でもなぁ、魔力が発現するまでは婚約者を決めないというのはよくあることだが、シャルル待ちをしていますという言い訳は通用しないなぁ」
まあ、どうせ父上が違う言い訳を考え出すだろうがな。
「僕は諦めませんよ。僕が一番早く、そして僕が一番多く結婚を申し込んできたのですから」
「ああそうだ。一応シャルルには教えておくか。エミリアが包帯していた期間に結婚の申し込みをしてきたのはお前だけではなかったぞ」
「クロード・ファドリックのことですか?あれは正式なものではなかったのでしょう?二度目のだってファドリック侯爵の承認はなかったと聞いています」
「・・・相変わらず耳がいいな。まあクロードなどはなから論外だが」
父は縁談に関する情報を伏せていたはずだが、ルーベンス家にはやはり筒抜けか。
いっそシャルルに頼んで、クロードがなぜ独断で動いたのか、理由を調べてもらうか?
まあ、あれも尻尾は出さないタイプだが。
クロードとは教会で挨拶しただけとエミリアは言っていたが、いったいなにを企んでいるのだろう。
エミリアに魅了されたというならば、当然だから仕方がないが。
「そうですね。なにをとち狂ったんだか。あ、そういえば、なんか厚かましくもエミリアーヌと婚約したとかふざけたことを言った騎士もいたそうですね。左遷先で消えてもらいますか?」
はぁ。シャルルも笑顔でそんなことを言うようになったか。
無駄なことだがやはり私も言いたい。
『かわいいシャルルを返して』と。




