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37.最難関ふたたび??

「ロイス兄様。カインは本物かと思ったけれど、違ったようですわ。だってカインが笑うなんてこと、あるはずがないもの」


「そうだな。あれも偽者だ。影が吹き出して笑うなどしたら、隠密行動はできないからな」


カインはシャルルが幼い頃からの従者。

しかし、シャルルと幼馴染のわたくしたちでさえも、長い付き合いなのにほとんどカインが笑っているのを見たことがないの。


ロイス兄様のいうカインが影というのは、なにかの本で宰相の家には影と呼ばれる諜報部員がいるはずだと思い込んだロイス兄様が、宰相の息子のシャルルにその存在を聞いたことに始まる話。

シャルルは知らないと言ったのだけれど、そういうものに憧れる幼い年齢だったロイス兄様は、あきらめきれずに『本当はカインも影なんだろう?』とカインに詰め寄ったの。

それをカインが『たしかに自分は影ですが、それはないしょですよ』と認めたのよ。


今なら子供の戯言に付き合ってくれたのだとわかるけれど、ロイス兄様、まさかいまだに本当だと信じているの?

そもそも、姿を現さないから影なのでは?と思うけれど、ロイス兄様のロマンを壊すのは悪いから黙っていましょう。


「カイン!笑っていないでなんとか言って!」


偽シャルルが地団駄を踏んでいる。

ああいうところはシャルルっぽいわね。


「んん!失礼いたしました。奥様と口調も同じだったのが面白くて。しかし、まさか私まで疑われるとは。

ロイスバル様、エミリアーヌ様、ご無沙汰しております。こちら、いまだご実家でも疑われておりますが、間違いなくシャルルジーク様でございます。私も本物です」


うっ、まあ、カインは声も変わっていないし本物っぽいわね。

でもシャルルだというのは信じないわ。

だって、わたくしはゲームで15歳のシャルルを知っているもの。

現時点12歳、いいえ、今日はもう13歳のシャルルでも、あんなに大人っぽいはずがないのよ。


「嘘よ。だいたい、シャルルは今、領地にいるはずよ」


「誕生日だから戻ってきたのですよ。エミリアーヌ」


「ロイス兄様!偽シャルルがシャルルの誕生日を知っています!」


「エミリア。詐欺師がその程度の情報を持っているのは基本だ。だいたいその呼び方もおかしい。シャルルはいつもエミリアのことは名前で呼ばないだろう?」


「ロイス兄様は口出しをしないでください。

エミリアーヌ。今日はどういう日かおわかりですよね?」


ええ、わかるわ。

記憶にないけれど、まだ幼い頃わたくしが『シャルルの方がひとつ年下なのだから、わたくしのことはお姉様とお呼びなさい!』と言ったらしく、律儀にシャルルはわたくしのことをそう呼んでいるの。

でも、シャルルとは誕生日が2日違いで、昨日誕生日だったシャルルと明日が誕生日のわたくしは、昨日と今日だけは同じ年齢になるのよ。

だから、毎年この誕生日の間の日だけ、シャルルはいつものお姉様呼びではなく、わたくしのことを名前で呼ぶのが恒例なのだけれど。


「ええ。たしかに今日はシャルルがわたくしの名を呼ぶ日ね。だからって、あなたがシャルルだという証拠にはならないわ」


「えー?ダメですか?では、質問してください。僕しか答えられないような質問を」


「質問?シャルルに関する?ええと、一緒に寝ているぬいぐるみの動物はなにか答えなさい!」


「それ何年前の話ですか!?もうぬいぐるみと一緒になんて寝ていませんよ」


「やっぱり!偽者だからわからないのね!」


「エミリア。そういうぬいぐるみはだいたい熊だ。当たりだろう?」


上手い質問だとおもったのに、ロイス兄様にあきれられてしまった。


「そ、そうです、くまさんです。

では・・・領地へは何をしに行ったのか答えなさい!」


―――『この塔は僕が12歳の時から建築に携わったものでね。最上階に客間を作っておいてよかったよ』

というセリフがゲームに出てきたことを、この間のアンドリューの件で思い出したのよ。

シャルルもこのままゲーム開始時に領地から帰っていなかったらどうしようと考えた時にね。


だから今、シャルルは宰相の息子として、采配を振ることを学ぶために関わっているはず。

そう。シャルルルートのバッドエンドで、ヒロインが幽閉され、わたくしがウエディングドレス姿で鎖につながれることになるあの塔よ。


万が一、シャルルルートに入ってしまった場合は事前に爆薬を調達しなければならないわ。

どうやって仕掛けるのかはわからないけれど。


「え?おね、エミリアーヌに話しましたっけ?新しい塔の建築に関わることになったので、地盤調査と設計の為に領地へ行っていたのですよ」


「ロイス兄様。あの人はシャルルで間違いありませんわ」


「ええっ!?どこで判断がついたんだ?あれだって、シャルルに関する情報を知っていて言っているのかもしれないだろう?」


「ロイス兄様は口出ししないでくださいと言いましたよね?

エミリアーヌ。信じてくださって嬉しいです。ああ、そうだ。新しい塔の最上階に、エミリアーヌが遊びに来た時のための客間を作りましょう。きっと眺めの良いお部屋になりますよ」


「いやいやいやいや、嫌よ!絶対に行かないわ!そんな部屋、作らないでちょうだい!」


ロイス兄様の後ろから出て、全力で拒否する。

やはりシャルル本人に間違いないわ!

ヒロインのためにもここで阻止しておかないと!


「あれ?高いところはお嫌いでしたっけ?」


「ええ。今嫌いになったわ!それと、人を鎖で繋ぐような場所も、絶対絶対ぜーったいにっ!作らないでちょうだい!」


「はいっ?鎖!?牢獄を作っているわけではないので、そんな場所作りませんよ」


「今の!今のその言葉!絶対に忘れないでね!!!」


言質は取ったわ!これだけ周りに人がいるから証人もできたし、一安心ね。


「はぁ。わかりましたが、いったいなんの話なんですか?ああ、そうだ、話だ。エミリアーヌ。僕がシャルルだとわかってもらえたところで、ふたりっきりでお話をしたいのですが」


「駄目だ」


「ロイス兄様には関係ありません!結婚に関するお話ですから」


それはわたくしの家族であるロイス兄様にも、関係なくもないのではないかしら。

結婚?たしかに釣り書きはきていたけれど、お父様が断ったはずよね。

まさか、シャルルにもゲームの強制力が働きだした?


「そういう話ならば、私を通してもらおうか」


わたくしの後ろから、そう声が掛かった。





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