31.犬のいぬ間に
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設定はゆるゆるなので、細かいことは大目にみてくださいませ
「こちらのお菓子は、わたくしの母の故郷であるエスペル王国のお砂糖を使用して、わたくしが作りましたの。よろしければ皆様で・・・」
わたくしが話している途中で、周りが一瞬ざわりとした。
こそっと「どうするの?犬がいないのに」「しっ、黙って」と言う声も聞こえた。
どういうことかしら?
殿下の飼われている犬がいなくなり、探している途中だからお菓子を食べている暇はないということ?
「あ、ええと、改良中なので、できれば感想やご意見をお聞きしたかったのですけれど、お忙しいようなら・・・」
今日は三盆糖、ココア、そして紅茶味を持ってきた。
そう、レシピを改良し、種類も増やそうと、只今モニター募集中なのよ。
でも、考えてみたら彼女は仕事中だから無理は言えないわね。
感想を聞くのはあきらめようとしていると、案内人のお爺様が「おひとついただきなさい」と彼女に言ってくれた。
「で、では。い、いただきます」
彼女が三盆糖のをひとつつまみ、おそるおそる口元へ運ぶ。
なぜか周りのメイド達がハラハラしている気がするわ。
やはり王城となれば、常日頃毒殺の心配をしなくてはならないのかしら。
王族の居住区へ持ち込む前に毒見はされているけれど、ここでもう一度わたくしが毒見をしたほうがよかったわね。
一口サイズなのに、お上品にちょっぴりだけかじった彼女が、あれ?っという顔をしてからもう少しかじり、そして全部を口に入れた。
あー。あれは一口で入れないと口に砂糖がつくのよね。
「とてもおいしいです」
砂糖がついた口元に、砂糖がついた手を当てながら目を瞬かせた彼女がそう言ってくれた。
か、かわいい。さすが殿下の恋人様。
「お口に合ったのなら嬉しいですわ。あ、こちらの箱はココア味で、もう一つは紅茶のお味ですのよ」
彼女が3つとも食べてくれ、三盆糖のが一番好きで、紅茶のは風味を生かすためにもう少し甘さ控えめでもいいときちんと感想をくれた。
喜んで聞いていると「あのー、わたくしもひとつ、いただいてもよろしいでしょうか?」と後ろから声が掛かる。
振り返った先にいたのは、メ、メアリ?
今日はスノーボールを持っているせいか、やたらついて来たがったから逆に置いてきたはず、なのになぜここに?
・・・ああ、違うわ、別人ね。
そこにいたのは、一瞬うちのメイドのメアリかと思ったくらい、よく似たぽっちゃりメイドだった。
うーん、すごいわ、本当にメアリそっくり。
最近、お菓子やパンの改良・開発のために味見をさせている、いえ、進んで味見をしているせいか、かなり太ったメアリと頬っぺたの辺りが。
ひとつと言ったのはその同じ口だったと思うのに、おいしいと言いながら次々と口に入れているところも。
感心して見ていると「メアリ、いい加減になさい」と他のメイドが止めにきた。
メ、メアリ!名前まで同じっ!!
吹き出しそうになったのを堪え・・・きれなかったので咳払いすることでごまかした。
「らってー、ふぉんとうにおいひいでふよ」
ふっ、だめ、耐えられない。
扇を広げて顔を隠し、横を向いてみたけれど、どうしても肩が震えてしまう。腹筋が痛い。
すると誰かが、ぶっ!と吹き出した。
「ふ、ふふふ」
「く、くく」
「っ、ちょっと、お、可笑し、メアリ、くく」
「ふふふ」
笑い出した皆を眺めながら、またメアリがひとつお菓子を口に入れる。
ああもう堪えきれないので、笑い出した皆と一緒に遠慮なく笑うことにするわ。
案内人やメイド長らしき年配の女性が、笑っている若いメイド達に顔を顰めたけれど、客であるわたくしも笑っているのでお咎めはない。
それにしても、こんなに笑うのは久しぶりだわ。
できるだけ上品に笑いながらも、ふと、もう二度と友達とゲラゲラ笑うことはできないのねと少し寂しく思った。
彼女たちはあとで叱られるのだろうなと考えていると「わたくしもいただきます!」と言って、一緒に笑ったメイドたちがお菓子を食べてくれ、様々な意見もくれた。
メイドと言っても彼女たちも一応貴族令嬢。
そしていくら侯爵令嬢とはいえ、まだわたくしの見た目は子供。
わたくしのご機嫌を損ねたところでくびになるわけではないので、うちの使用人達よりはわたくしに遠慮のない意見も飛び交う。
三盆糖は好評で、もうこのままでもよさそう。
ココアはお母様の好みに合わせて現時点では甘めなのだけれど、もう少し控えめでもいいという意見が多かった。
紅茶はやはり、好き嫌いが出たわ。
次は野菜入りのも考えていると言ったら、ここのメアリに食べたいと言われたけれど、残念ながらもうここへ来ることはないのよね。
「あの、よろしければご意見をいただきたのですが」
案内人とメイド長にもむりやり食べさせることにした。
巻き込んでしまえば、きっとお咎めも軽いわよね。
そうしてしばらくは褒めてもらえたり、他のお菓子の話もしながら楽しく過ごし、そういえば犬は探さなくてもいいのかしらと思ったところへ「殿下の御成りです」との知らせが来て、慌てて皆で取り繕って殿下をお迎えしてから10分。いいえ、もう15分は経ったところが、今現在よ―――
なんとなしに横を見たら壁際にメアリがいた。
あ、口!口元にお砂糖が付いていますわよ!
ゆっくりと人差し指をあげて口元を指し、砂糖が付いていることを教えようとしているのに、メアリが両手を胸の前でグッと握って見せてきた。
え?頑張れってこと?いや、そうではなくてお砂糖が・・・
「よし」
いきなり殿下がそうおっしゃったので、殿下に視線をもどすと、右手を軽く上げられていた。
すすっと皆がテラスから出て行く。
ええ!?人払いまでして、わたくしはこのあと一体なにをされるのでしょうか?




