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29.窮令嬢ハムチーズサンドを噛む

「な、なんでしょう?」


クラウディア・ファドリック侯爵令嬢

わたくしと同じ年齢で、同じ侯爵家の令嬢だけれども、3年前にファドリック侯爵家の養女となった彼女とは、付き合いも浅いし、親しいわけでもないというのになんのご用かしら。


先ほどからなにかわたくしに問いたそうにしていたのはわかっていたけれど、クロードに関わりたくないからあえて素知らぬふりをしていたのに。


そう、この方はクロードの妹なのよ。血のつながりはないけれど。


クロードと同じく、エレオット教の敬虔な信者のはず。

勧誘? 間に合っています。

そもそもこの国は一神教だから違うわね。


訝し気に見ていると、一度後ろを振り返り、誰も聞いていないことを確認したクラウディア様がとんでもないことを言い出した。


「あの、先ほどの騎士様とのご婚約のお話は、リリメリル様の思い違いだということでしたが、それでは、ええと、先日、クロード兄様から、教会でエミリアーヌ様に会われたとお聞きしまして、あの、もしかして、クロード兄様とのご婚約のお話などが、」「万が一にも、億が一にもございませんわ!」


食い気味に間髪入れずに断固否定拒否拒絶をする。

先ほどのアンドリューの一件で、もうライフが半分だというのに、止めを刺す気なの!?


「クラウディア様。あなた様のお兄様とは()()、ほんとうに運の悪いことに()()()()!お会いしてしまったので、()()()()()!ご挨拶をしただけですの。ですから絶・対・に!そんなお話は今も今後も一生一切あり得ませんから!!」


「は、はい」


ドレスを着た凶手の追撃に、わたくしは死力を尽くした。

その剣幕に一歩下がったクラウディア様だったけれど、あからさまにホッとした表情を浮かべる。

これは妹として? それとも・・・


そうだわ、クラウディア様はクロードルートで、ヒロインをいじめる側にいたわ。

そうそう、『平民のくせに聖女を騙り、クロード兄様の気を引くなんて』と言って、クロードがヒロインに贈ったストールを取り上げたのはこの方よ。

でも、あれが悪役令嬢の指示ではなくこの方が主導だったとしても、結局、悪役令嬢(わたくし)のせいにされてしまうのだわ。

おおう、ヒロインも悪役令嬢(婚約者)も、まとめて陥れるとは、なかなかの策士よのう。


ちなみに、ストールが無くなって寒そうにしていたヒロインのことは、クロードが背後から抱き締めて温めるのよ。 けっ!

つい『ええい!離せ!』と、ゲーム機を持ったまま腕を振り回してしまったわ。


んー、クロードなんて女ったらしはやめなさいと言いたいところだけれど、きっとこの方はわかっていてもクロードが好きなのよね。


ヒロインに取られることがわかっていても、まだわたくしが殿下のことを好きなように。


でも、叶わぬ恋に苦しむ者同士だとしても、クロードは譲れないわよ。

・・・なんか嫌な言い方になってしまうけれど。

だって、破滅回避(わたくし)のために、クロードにもヒロインのハーレムに入ってもらわなくてはならないのですもの。


「二度とそんな(不快な)ことをおっしゃらないでくださいましね!」


クラウディア様に念を押して別れ、ランチボックスを抱えて戻ってきた従者と共にようやく休憩エリアへ入る。

ライフゲージが赤い点滅を繰り返しているというのに、案内されたのは最奥の部屋だった。

王城に来るたびに歩かされるなんて、これも罰の一環かしらと思ったけれど、案内された部屋に入って驚いた。

そんなに休憩室を何度も利用したことがあるわけではないけれど、ここで一番良いお部屋ではないかしら。


会議などの利用ではない個人に貸し出されるのは、たいがい一組の応接セットと机、そして簡易な給湯室と、おトイレ、シャワールームが備わった個室のはずなのに、ここはまるで恵美がテレビで見た、海外の高級リゾートホテルのスイートルームのよう。

大きなダイニングテーブル、わたくしの部屋のものよりも豪華なバスルーム、奥の部屋には大きなベッド、そしてこの部屋専用の庭には噴水まである。

あれがプールであれば完璧だったのに、惜しいわ。


「あの、宿泊ではなくご休憩1時間の利用なのですが」

と、なぜか変な言い方になってしまいながらも、案内してくれたメイドにこの部屋でいいのかと問えば「マルセルム侯爵家のご令嬢がご利用になられる時は、こちらへご案内するようにとの指示がございました」という。


なるほど。

きっと、呼び出しの日時指定があった時点で、その日は休憩室を使いたいとお父様にお願いしたから、前もっていいお部屋を取って下さったのね。


お茶を淹れてくれたメイドが下がると、ダイニングテーブルの一番端の、窓に背を向けた位置に座り、従者にハムチーズサンドを出してもらう。

そして従者に無理を言い、隣に座ってもらって一緒に食べた。

だって、なんとなく誰かに見られているようで落ち着かないのよ、この部屋。

べ、別に怖いとか、そういうんじゃないからね。昼間だし。


淹れてもらったお茶がやたらいい茶葉の紅茶で、ちょうど紅茶について勉強中だという彼と話が盛り上がっているうちに、妙な気配は消えていた。


『親が死んでも食休み』

恵美の母親の口癖を守り、ふかふかのソファで休みながら先ほどのことを考える。


アンドリューには、ロイス兄様に贈った時のように刺繍リボンを付けたりはしない、本当に買った時のままのただのアクセサリーを贈ったのに、どうして婚約の証などと思ったのかしら。

ゲームの公式グッズだから?


・・・そうね、相手の立場で考えてみれば、わたくしと婚約しないとヒーローになれないのですもの、功績を上げたいアンドリューは必死だからゲームの強制力が働いているのね。

王太子とロイス、そしてシャルルもあっさりと婚約を避けられたから油断していたわ。


でも考えてみたら、このままアンドリュールートでいいかもしれないわね。

だって他のルートは、クラウディア様のようなモブキャラがやらかすことまで悪役令嬢のせいにされてしまう可能性はあるけれど、ええと、例えばロイスルートでわたくしがヒロインを溺れさせなかったとしても、誰かがやらかして「エミリアーヌ様の指示でした」と言われてしまえばそれまででしょう?

でも、アンドリュールートでの魔獣召喚は、唯一の闇の魔力を持つわたくししかできないわけじゃない?

ということは、わたくしさえやらかさなければ、とりあえず漸死は免れられるじゃないの!


・・・でも、この間、わたくしを襲った魔獣がどこから現れたのかは、まだ判明していないのよね。

この先、わたくしが闇の魔力を発現した後に現れる魔獣は、原因不明のものなのか、わたくしが召喚したものなのか、他人が見ても区別がつくのかしら。

結局ゲームの強制力でイベントが起こったら?


ああ、なるほど。

ゲームの悪役令嬢がなぜ微弱しか持たないのに光の魔力ばかりを強調し、そしてアンドリュールートでしか闇の魔力を使わなかったのかがわかったわ。

魔獣が現れるたびに、わたくしが疑われる可能性があるのね。


あー、かわいい系の魔獣を召喚して、もふもふする計画だったのにー!(※13話参照)

誰かさんのように肩に乗せて歩きたかったから、闇の魔力の本を探していたのよ。

光はともかく、闇の魔力持ちだということも隠蔽しなくてはならないの?

え?そうなると、わたくしは無能力者?平民落ち?それも破滅じゃない!


・・・家族が知っていればいいのよね。お父様に相談案件だわ。

まだ先の話だから、自分なりに対策も考えなくては。


え?クロードのことは考えなくてもいいのか?ですって?

胃もたれしたくないからいいのよ。




―――そして現在、時刻は午後2時を10分ほど過ぎたと思われるあたり。


わたくしはとても困った状況に置かれている。





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