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26.マヨラーってほどではありません

「あら?そこにいらっしゃるのはエミリアーヌ様ではございませんこと?」


はい、皆さまごきげんよう。

ただいまご紹介にあずかりました、エミリアーヌ・マルセルムですわ。

聡い皆さまはもうお気づきですわね。

ええ、本日わたくしはまた王太子殿下のお呼び出しにより登城し、例の回廊にいるところですの。

本日は理由があって指定時間の3時間前から王城におりますのよ。

どうやらそれがアダとなって、まためんどくさいのに見つかってしまったようですわ。



―――早く来た理由のひとつは、王城の図書館に行きたかったから。


王太子妃を目指す勉強をやめたことで時間があまり、ヒマヒマ星人と化したわたくしは、家の図書室で魔力に関する本を漁ったのだけれど、歴史あるマルセルム侯爵家をもってしてもご先祖様には発現された方がおられなかったようで、闇と光に関しては基礎の書物しか無かった。


さすがに王城の図書館なら少しはあるわよねと、先ほど期待して足を踏み入れたものの、ずっと後についてくる従者が邪魔。

帰ってから『お嬢様が闇の魔力の本なんて不可解なものを探しておいででした』と報告されても困るし。

本屋で思春期の娘についてまわる父親並みにうざ・・・父親?あら?お父様と本屋なんて行ったことはないのに・・・あ、恵美の方の父だわ。わたくしったら、何を忘れているのかしらね。


王城の図書館は二階建てで、難しい専門書は二階に集中している。

ああ、本は希少なので図書館からの持ち出しは禁止なのよ。

窓際にキャレルが並んでいるので、必要なことは自分で書き出せスタイル。

別棟に禁書庫があり、そちらは厳しく管理されていてわたくしのような子供は当然入れない。


それにしても、なんとか従者から離れないと。

そこで『わたくし、この間作ったスノーボールというお菓子のレシピが載っていた本を探したいの。ここで見たのよ。でも一階か二階だったのかさえ思い出せないの。こう多いと今日中に探し出せるかしらー。困ったわー、お母様にご報告しなくてはならないのに。え?手伝ってくださるの?まあ、うれしい。では、わたくしは二階を見てくるから、あなたは一階をお願いね』と言って、ようやくひとりになれた。

嫌ね、最近嘘ばっかり言ってる気がするわ。


カモフラージュ用に料理本を数冊手に持ち、重厚な本棚の間を一時間ほどうろついたけれど、闇の魔力の本はまったく見つからない。

魔力発現もしていない小娘が、闇の魔力の本はどこ?と司書に尋ねるのはおかしいので、自力で探し出すしかないのに。

もしかして、禁書庫扱いなのかしら。それならあきらめるしかないわ。


正午を知らせる鐘がなったので、思わぬ筋トレになった料理本を戻した。

図書館の前の道は回廊と繋がっており、申請すると回廊の向こうにある休憩用の個室が借りられる。

図書館に入る前に申請済みなので、そこでランチにしようと回廊まで出てきた。 ←イマココよ。


「え、エミリアーヌ様?ですわよね?」


本日のランチはお弁当を作ってきた。

この前の朝稽古の後、玉子サンドを作ろうと厨房へ行ったらちょうどパンを成型していたところだったので、お願いしてコッペパンの形にしてもらったの。

なぜかこの世界には食パンがないのよね。型を注文しようかしら。

それからゆで卵を作ってもらっている間に、マヨネーズを・・・と思ったら、マヨネーズもないというじゃない!調理実習で作り方を習っておいてよかったわ。

ああ、マヨネーズは手を出さず、レシピを教えて作ってもらったのよ。

だってあれ、混ぜるのたいへんなんですもの。


「エミリアーヌ様?人違い?」


それでどうにか出来上がった玉子サンドも好評で、只今、ロイス兄様がドはまり中。

もともとのパンが白パンなので、柔らかくておいしいのよ。

でも、かぶりついて食べるのはぜったいにお母様が許してくださらないだろうから、両親がいないとき限定のお楽しみとなりつつあるわ。

今日はコッペパンにハムとチーズを挟んだものと、苺のジャムサンド。

今、従者に馬車までランチボックスを取りに向かわせたところよ。

ここで待とうと思っていたのだけれど、さっさと個室へと向かいましょう。


「エミリアーヌ様は、魔獣に襲われてお耳も聞こえなくなってしまわれたのー?」


そうそう、昨夜また揉めたのよ。

玉子サンドの名前で、ではないわよ。

いいかげん、顔の傷もお化粧をすればわからないだろう、というくらいにはなったと自分では思ったので、包帯をせずに夕食の場へ赴いたのだけれど、即座にお母様に怒られてしまったの。

包帯姿の方が目立ちますと訴えても、お母様の許可は下りなかったのよ。

なので本日はまだ包帯姿。

だから見つかってしまったと思うのよね。


「エミリアーヌ様、エミリアーヌ様」


ずっと中庭の噴水の方を向き、そちらへは背を向けていたのに肩に手を置かれた。


わたくしは、口元に広げていた扇をわざと音が大きく鳴るようにパチンと閉じる。

すると、わたくしの肩に置かれた手がビクリっとして離れた。


そうだったわね。あまりにも面倒で、声を掛けられていることは忘却の彼方へ追っ払っていたわ。

侯爵令嬢(わたくし)の肩を掴むなどという、無礼なことをしでかしてまでお話したいのならば仕方がない。

お相手して差し上げましょう。


わたくしは優雅に振り向くとこう言った。


「あら、ごきげんよう。()()()」と。





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