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03.選んだけれど間違えた?

 自室に戻ると机に向かい、乙女ゲームのあらすじをざっと書き出したノートを広げる。


『光の君に口づけを』

平民なのに光の魔力が顕現したヒロインが、学院で身分差を乗り越えて恋愛する、超王道な、初心者向けの乙女ゲーム。


攻略対象者は5人。

対して悪役令嬢はわたくしのみ・・・手抜きね。

そういえば、イベントも誰ルートでもほぼ同じだったわ。


お父様がやけにあっさりと王太子の婚約者候補からの辞退を認めたのは、他の攻略対象者と婚約するためのシナリオの都合なのかしら。


ヒロインがあらわれるまでは、まだ3年もあるわ。

わたくしに甘いお父様とはいえ、拒んでもやはり家のためにと婚約を命令されてしまえばそれで決まってしまう。

ゲームの強制力から逃げきれず、攻略対象者の誰かとの婚約させられた場合、どう穏便に婚約破棄されるかを考える方が先かも。


だいたい、婚約破棄の理由はヒロインに対するいじめなのだから、断罪されるようなことをしなければいいのでは?と思うけれど、悪役令嬢は直接手を下さずに人を使っていたし、ヒロインを妬んでいたご令嬢は他にもいたから、たぶんイベント自体は起きると思う。

そうなると、やはりゲームとしては婚約者を首謀者にしたほうが盛り上がるから、結局は逃れられない気がするわ。

どう転がるかわからないので備えだけはしておきましょう。


とりあえず忘れてしまう前にと、思い出す限りのストーリー展開を書き出すことにした。


「まずヒロインが入学したときの、平民風情がって囲まれた時は、口だけでなにもされてないわよね。

この次のイベントは学院の中庭でお弁当を台無しにされて・・・で、こう選択すると花壇で薔薇を投げつけられて・・・ええと、水を掛けられたのは夏のイベントだったかしら?」


どうしてもヒロイン目線でしか思い出せない。

基本、悪役令嬢は睨んでいるだけだったし、裏で何をしているかなんてシーンは出てこなかったもの。

でも、書き出してこうして見直してみても、他の乙女ゲームに比べたらたいしたことないわね。

この程度で婚約破棄されるのだから、逆上するわー。ああ、それでメインイベントが起きるのね。


王太子ルートでは、悪役令嬢が国外追放されるだけで済むエンドはなかった?

基本選択肢では悪役令嬢が破滅する方を選んでいたから、毎回処刑されてた気がする。

そもそも簡単すぎて王太子ルートでバッドエンドを迎えた覚えがないし。


・・・国外に追放されるとその後の暮らしはどうなるのかしら?

処刑だって「処刑されました」で片付けられていたから、どんな形でなのかがわからない。


「そういえば、空から降ってくる花をキャッチするミニゲームもあったけれど、あれ、現実(ここ)でも起こるのかしら?全部落とさずに受け取れると、一回デートできるから毎回がんばったのよね・・・まあ、わたくしはヒロインではないから、やる機会はないか」


どうせならヒロインに転生したかったのにとぶつぶつつぶやいていると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。


「どうぞ~」


書き込んでいる最中なので顔も上げずに返事をする。

誰かが入ってくる気配はしたけれど、茶器の音がしたので侍女だと思い、振り向くことはしなかった。

お父様の執務室から戻る際、朝食は部屋でとると執事に言っておいたから、運んできたのね。


声がしないということはアンだわ。


侍女のアンは無口でいつも淡々と仕事をするだけ。

わたくしが何か書いていたとしても気にも留めないわよね。

いつものように少し離れたところにあるテーブルに朝食を置いたら出て行くはず。


それにしてもちょっと遅かったじゃない。お腹ぺこぺこよ。

顔に包帯が巻かれているのだから、食べやすい物を選んでいたのかしら?


とりあえず、腹ごしらえしましょう!

そう思って書き込んでいた手を止めて顔を上げたのだけれど、すぐ右後ろに人が立っている気配がする。

そうっと振り向くと、そこには・・・

長い銀髪をひとつにまとめて背に流した男が、ノートを覗き見ていたかのように背をかがめていた。

しかも顔が近い!


「ひっ!」


わたくしは慌ててノートを閉じた。


「お嬢様。朝食をお持ちしました」


その男がすました顔でそう言った。


「あ、ええ、ああそうなの。ありがとう。ええと、ラウルが持ってくるなんてめずらしいわね。あ、ア、アンはどうしたのかしら?」


そう、この男こそ執事のラウルよ。

冷静さがにじみ出る涼し気な青い瞳を持ち、いつも品よく行動するこの男に対し、今のわたくしは慌てふためいていて我ながらかなり挙動不審だわ。


「アンは本日から一週間お休みをいただいておりますが」


そうだった!朝からいなかったじゃない。

主人が怪我をしたというのに、休みを取るとはいい度胸ね。


「で、ではメアリは?」


「ちょうど手がふさがっておりましたので。私ではご不満でしょうか?」


「い、いいえ、そういうわけではないのよ。ええ、ちょっと驚いただけで」


びびびっくりしたわ。

ノートを見られたかもしれないけれど、この世界の文字は日本のゲームのくせに日本語ではない文字が使われている。

ノートは日本語で書いていたので、たぶん読めなかったはずよ。

ふー、危なかったわ。


それでもまだ、動悸も冷や汗もとまらない。

たぶん顔色は青いか赤いか・・・包帯で半分隠れているから顔色はわからないか。

はやく平静を装わないと。


そんなわたくしの様子を見ていたラウルがふっ、と笑った。


「旦那様からお話は伺いました。お嬢様が私との婚姻をお望みだとか。今までの態度からすれば信じがたかったのですが、その様子では少なくとも私を意識なさっているようですね」


ひゃ!そうだった!ラウルに懸想してるとお父様に言ったのだったわ。

もう本人に打診したの?お父様、お仕事が早すぎます!


勘違いですって言っちゃだめよね?

逆ハーレムルートにするには執事と婚約しなくちゃいけないものね?

チェンジで!ジェラルドとチェンジしてください!


今までこの男にはそっけない態度を取っていたのよ。

ラウルに対するお父様の態度が少しおかしいので、隠し子かもしれないと疑っていたから。

でも、わたくしとの婚約ルートがあるということは、異母兄妹ではないはず。


「わかりました。前向きに検討させていただきましょう」


そんな上から目線の言葉を残し、ラウルは部屋から出て行った。


は?何様よ?

本当にこの怪しい男と婚約しないといけないの?


今更だけど、逆ハーレムルートをやらなかったことを後悔した。





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