SIDE 友人代表 久美 2
引き続きお通夜のお話です。
苦手な方はかっ飛ばして下さい。
「隠しキャラか。ファンブック2の最後にちょろっとだけ書いてある情報だから恵美は知らないと思うよ。私もその話はしなかったし」
奈々は細かいからめんどくさいとファンブック類を読まないけれど、恵美のようにネタバレは知りたくないとは言わないので、私からだいたいの情報を聞き、恵美よりも知っていることが多い。
「まあ、隠しキャラは全ルートをトゥルーエンドで終わらせないと出てこないんだもんね。シャルルルートがバッドエンドにしかできない私達には無縁だね」
「そうそう、恵美はほぼ王太子ルートしかやらないからよけいにね」
隠しキャラ、それは、ゲームの舞台であるライニッシュ王国の「ああ、久美ちゃん、奈々ちゃん、今日は来てくれてありがとうね」
いつもは明るい色の服を着ていることが多いのに、今日は黒い着物でなんか変な感じの恵美ママが、やっとこちらに声を掛けてくれたのでぺこりと頭を下げる。
出掛けに母親から、ご挨拶をするなら、この度はご愁傷さまですと言うのよと教えてもらったけれど、言葉が出なかった。
「これ、これを、柩に、入れてもいいですか?恵美ちゃんに、恵美ちゃんに読んでもらいたいんです」
奈々が恵美ママと話し始めた途端にまた泣き出した。
「ええ、もちろんよ。お手紙かしら?ありがとう。私が預かるわね」
「えっ?え、ええと、あの、直接恵美ちゃんに渡したいので・・・」
奈々がまた紙を握りしめる。
読まれたくないのなら、ちゃんと封筒に入れてくればよかったのに。
「でも・・・大丈夫?その、遺体とか、あまり見たことはないでしょう?」
恵美ママが、泣いている奈々の涙をハンカチで拭いてくれながら私を見た。
「大丈夫です。去年おばあちゃんが亡くなったので」
「私も、大丈夫です」
「そう?・・・じゃあ、恵美にお別れを言ってあげてね。本当にいままで仲良くしてくれてありがとう」
恵美ママにもう一度ぺこりと頭を下げて式場へと戻る。
他にも直接お別れを言う人がいて、柩の蓋は開けられているようだった。
すぐ脇に、恵美の高校の制服をきた男子がひとり、放心状態で立っているのが見えた。
「ねぇ、あの人ってもしかして・・・」
奈々も一目でわかったのだろう。
あれが、恵美がクロードと逆ハーレムルートを嫌いになるきっかけになった、女ったらしのイケメンだと。
たしかにかなりのイケメンだ。
あれに甘いことをささやかれたら、耐性のない私達はイチコロだろう。
なんとなく近寄りたくなくて立ち止まっていると、私達を追い越してまたひとりの男の子が柩の脇へ行った。
彼は柩に向かって小さく合掌すると、友人だったのか、何事かを言ってイケメンの腕を引っ張る。
すると、途端にイケメンの端正な顔立ちがくしゃりと歪み、片手でばっとその口を押えた。
イケメンはそのまま友人に肩を抱かれて私達の脇を通り過ぎる。
それを見送りながら思う。少しは恵美に罪悪感を持ってくれと。
きっと恵美はそこから君を見て、舌打ちをしたとは思うけど。
誰もいなくなったので、奈々を促して柩へと向かう。
恵美の身体には真っ白な布団が掛けられていて、かろうじて顔だけが出ていた。
でも、その顔の左頬には大きな絆創膏が貼られていて、あまりよく見えない。
柩の中にはすでに色とりどりの小さな花束や、お菓子、手紙らしきものもたくさん入れられていた。
「え、恵美、恵美ちゃん、これ、これ、私が書いたの、読んでね」
奈々は、そう言って二つ折りにした紙を柩と布団の間へ押し込むと、声を上げて泣きながら部屋から出て行ってしまった。
私は奈々を追うこともせずに、まだ、これは本当に恵美なのだろうかと顔をぼーっと見ていた。
ふと見慣れたものが目の端に入る。
それは祭壇に置かれた、赤い携帯型のゲーム機だった。
裏返されているので、貼られたシールが見える。
奈々と3人で撮った、仲良しと書かれたプリクラもある。
間違いなくこれは恵美の物だ。
私は祭壇の方へと回り、手を伸ばしてゲーム機を手に取るとひっくり返した。
無残に割れた画面を見た途端、なぜか一気に涙があふれてきたので、慌てて元に戻した。
上げそうになった声は喉で押し殺し、もう一度恵美を見る。
嘘よね?恵美、あんた本当に死んじゃったの?
なんでよ、次回は駅向こうに新しくオープンした有名なカフェのチェーン店で、玉子サンド食べるって言っていたじゃないの!
怒りなのか悲しみなのかよくわからないけれど、目が痛くてこれ以上恵美の顔を見ていられない。
他の人と話しながらも心配そうにこちらを見ている恵美ママに素早く頭だけ下げて、式場を早足で抜けてエレベーターへと向かう。
お通夜会場の5階からエレベーターで1階ロビーに降りると、ソファに座りながら奈々が泣いていて、さきほどの葬儀場のお姉さんが、箱ティッシュとゴミ箱を持ってきてくれたところだった。
ぐずぐずと泣く奈々の隣に座ると、また涙が出てきてしまったので、しばらくふたりでぐずぐずと泣いた。
ようやく泣き止んだ頃、お姉さんが温かいお茶を出してくれたので、ふたりでちびちびと飲む。
「ねぇ、ずっ、奈々、せめて恵美が好きだったレオンハルトだけでも、幸せに、すればよかったんじゃない?」
「だめ、ずっ、ひとりだけ、幸せになるのは、ずっ、許さん」
なんなの?その不幸好きは。だから奈々はシャルル推しなのか。
「ずっ・・・じゃあ、恵美とレオンハルトが、結ばれる話を書いたら?」
「・・・どういう設定で?ずっ、恵美ちゃんが、ヒロインに転生するとか?ずっ、恵美ちゃんでも、平民から王太子妃は、苦労するよ」
「そうだよね。現実だったら厳しいよね・・・ずっ、転生特典のチート満載にするとか・・・は都合よすぎか・・・あ、侯爵令嬢のエミリアーヌになるとか?」
「悪役!処刑されちゃう!ぐずっ」
「え、あるじゃん。ずっ、王太子ルートでたった一本だけど、婚約者のエミリアーヌと、レオンハルトがそのまま結婚する、バッドエンドが」
「そうなの?ずっ、知らなかった。恵美ちゃんは、やったのかな?」
「いやぁ、恵美のことだから絶対バッドエンドをやってみようとかはしなかったと思うよ。ずっ・・・あの子、そういうとこ変に頑固だったから」
「そうだね。少し思い込みが、激しいとこもかわいかったよね、うっ、ぐすっ」
またふたりで鼻をかんでいると「遅くなってごめん!」と言いながら、私の兄が入ってきた。
仕事が終わったら車で迎えに来てくれることになっていたので、ここで待っていたのだ。
「お焼香だけさせてもらってくるよ、もう少し待ってて」
「あ、お兄ちゃん、なんか引換券があるの」
兄は私達から券を受け取ってエレベーターに乗っていった。
そういえば、一人っ子の恵美は私に、優しいお兄ちゃんがいていいなぁと言って、ずっと羨ましがっていたな。
葬儀場のお姉さんにお礼を言って、茶碗やらティッシュやらを返し、戻ってきた兄と駐車場へ向かう。
奈々の家はうちのすぐ近所なので、とぼとぼと歩く奈々も一緒に連れて行く。
車へ乗り込む前に、もう一度葬儀場のビルを見上げた。
あ、結局、レオンハルトの切り抜きを入れるのを忘れちゃった。
今夜たくさん切り抜いて、明日葬儀へ行くお母さんに持って行ってもらおう。
もちろん、封筒に入れてきっちりと封をしたものを用意して。
そして今夜は徹夜で王太子ルートをやろう。
明日の試験は捨ててもいいや。
私はそう決めて、家路についた。




