SIDE 友人代表 久美 1
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お通夜のお話です。ちょっと残忍な表現もあります。
苦手な方はすっ飛ばして下さい。
2話になりますが本編には支障はありません。たぶん。
「ねぇ、奈々、本当にそれを入れてもらうの?」
「だって、読んでもらいたいんだもん」
今、私と、私の幼馴染の奈々は、同じく幼馴染である丸瀬恵美のお通夜に来ている。
その知らせは突然に、仕事へ出かける前でバタバタし、目も合わせないでいる私の母親から、早口で告げられた。
『恵美ちゃんがね、一昨日交通事故にあって亡くなってしまったと恵美ちゃんママから連絡がきたの。それでね、明日お通夜があるから、お別れに行ってきなさい。私は夜勤があるから翌日の葬儀の方に参列するわ』と。
そして今日、告げられたことの意味を理解することもできないままに奈々と駅で待ち合わせをし、高校の制服で駅から徒歩5分の葬儀場に来た。
奈々もうつむき気味で何も言わない。
詳しいことを話し合う気も起きなかった。
7階建てのビルに入り、受付で母親に持たされたお香典を出し、名前を書く。
周りには私達とは違う、恵美の高校の制服を着た子がたくさんいた。
葬儀の式場とは思えない、ヨーロッパ調のかわいらしい部屋へと誘導される。
たくさんの花に囲まれた祭壇の中央には、幼いころからよくみている笑顔の、大きな写真があった。
この写真には見覚えがある。先月三人で遊園地に行った時に奈々が撮ったもので、恵美の隣には私も写っていたはずだ。
それを認識した途端、隣にいた奈々が声を上げて泣き出してしまい、葬儀場の人なのか、見知らぬお姉さんが来て世話をしてくれた。
その後、ぐずる奈々をなだめながらお経を聞いていても、前の人のまねをしながらお焼香をしても、まだ私にはまったく実感が湧かなかった。
あまり会ったことがない恵美パパの挨拶を聞く。
どうやら恵美は塾帰りに車にはねられたらしい。
式が終わると隣の部屋でご飯を出された。
知らない高校の生徒に混じっていて居心地が悪い。
あっちにいる中学の友達の方に座ればよかった。
私は恵美が好きだった玉子のお寿司とかっぱ巻きだけを食べ、あとはオレンジジュースを飲んでいた。
隣の奈々は小さくなって、黙ってうどんをちびちびと食べていた。
ぼちぼち帰る人が出てくると、私達は式場の前へと戻り、参列者をお見送りしている恵美ママに声を掛けるタイミングを待つ。
奈々が持ってきた紙の束を、柩の中に入れてもらうために。
―――丸瀬恵美
私達の幼稚園からのお友達。
顔はけっこうかわいいのに、言動がちょいヲタだったために残念な子だ。
恵美は頭がよかったので高校は別になってしまったけれど、私達はそれでも仲良しだった。
中間試験の間はあまり連絡できないけれど、終わったら遊ぼうと先週話したばかりだったのに。
本当に?本当にこれは恵美のお通夜なの?まだ実感がない。
今にも「ごめん、塾で遅くなっちゃった」と言いながら現れそうだ。
私達三人は子供の頃からゲームが大好きで、最近やっていたのは乙女ゲーム好きの恵美おススメの『光の君に口づけを』だ。
恵美はその中に出てくる王子様のレオンハルトに夢中だった。
レオン様レオン様と毎日飽きもせずに王太子ルートばかりやっているようだったので、私の推しのロイスルートもやらせたところ、2回はやってくれたようだった。
奈々がシャルルが攻略できなーい!といえばシャルルルートもやっていたけど、恵美もバッドエンドだったという。
あれはネタバレ満載のファンブック2を読んだ私でもバッドエンドにしかならないので、それすら読んでいないふたりには絶対に無理だ。
今、奈々が握りしめている紙の束は、奈々が書いた『光の君に口づけを』を元にした二次創作の小説。
試験が終わったら恵美にも読んでもらうと言っていたもので、私は数日前に読ませてもらっていた。
奈々が、二つ折りにしたそれをずっと握っているのでもうだいぶ紙がよれよれになってしまっている。
紙もひどい状態だが、その内容はもっとひどい。
なにがひどいって、ゲームの結末のその後のお話なのだが、誰も幸せになっていないのだから。
そもそも奈々がなぜこれを書こうと思ったのかといえば、私がファンブック2に載っていた、攻略対象者のひとりであるロイスバルの、秘密とされていたことを話したことからだった。
【ロイスバルは婚約者であるエミリアーヌに冷たくされていたことで、気持ちが弱っていたところにヒロインであるルーチェと出会い、新たな恋をした。
ルーチェのおかげでコンプレックスを乗り越え、魔力も強くなった。
しかし、ルーチェと結ばれてもなお、エミリアーヌのことも愛していた。
だからエミリアーヌがルーチェをいじめるのは、嫉妬してくれているのかもと実はうれしかった。
だからルーチェがエミリアーヌに溺死させられそうになったときにも、エミリアーヌに対して攻撃するのをためらってしまった。
人を殺そうとするほどに精神を病んだのは、自分のせいだと言って父親に頼み込み、エミリアーヌを領地送りにしてもらう。
これでエミリアーヌは誰の元にも嫁ぐことなく領地にいてくれる。
そのうちこっそり会いに行こう。ロイスバルは満足だった。
そして迎えた幸せなエンディング。
ロイスバルがエミリアーヌの事故死を知ったのは、それから二ヵ月後のことだった】
(ファンブック2より抜粋)
・・・公式設定はここまで。
そしてこれを私から聞いた奈々が書いた話の続きはこうだ。
ロイスルート【エミリアーヌが死んでしまったその事故は、実は娘を恥とした家族の仕組んだことだと知り、逆上して兄の幼い息子を含めたマルセルム侯爵家、一族全員を惨殺。
エミリアーヌの墓の前で剣により自害しようとしたが、ルーチェの聖なる光の魔力で助けられる。
しかし、もう自分は家族殺しの犯罪者。ルーチェも幸せにはできない。
そこで今度はルーチェを先に刺し殺し、自らも果てた。
その手首にはエミリアーヌから贈られたアクセサリーが、エミリアーヌのリボンで括り付けられていた】
(奈々著作原稿用紙8枚分より抜粋)
・・・ヒロインまで殺しちゃったよ。
そしてこれを書きあげたことで調子に乗った奈々は、他の攻略対象者の分も書き上げた。
あらすじはこうだ。
王太子ルート【ルーチェと結婚したものの、平民だったルーチェがいつまで経っても王太子妃としては不足で、馬鹿にした家臣たちに裏切られて王太子は失脚。弟に王位継承権を奪われ、追放先で死亡。ルーチェは教会にて、一生聖女としてこき使われる】
クロードルート【ルーチェと結婚しても女遊びがやめられず、浮気相手に刺される。聖女としてこき使われ、地方に行かされていたルーチェが間に合わずに死亡。ルーチェは一生を教会で過ごす】
アンドリュールート【騎士家が聖女を娶るという栄誉に釣り合おうと功を焦り、国内最大級の魔獣退治に単身出かける。補助しようとこっそりついてきたルーチェがかえって足手まといとなり、もろとも魔獣に殺される】
シャルルルート【聖女と侯爵令嬢を監禁した罪で死罪。ルーチェとエミリアーヌは監禁生活で心が壊れており病院送り】
逆ハーレムルート【ルーチェが子供を産んだが、攻略対象者の誰とも似ておらず、その後家臣や使用人たちとの浮気が発覚。後継ぎが望めない攻略対象者たちは、それぞれの家から除籍される。お金がなくなった攻略対象者たちを見限ったルーチェは隣国に渡ろうとしたが、追手に捕まる。後に国を裏切り、男を破滅させる悪女として処刑】
・・・ひどい。
今後の付き合いを考え直すレベルだ。
まあ、たぶんズッ友なのだろうけど。
「でもさぁ奈々、それを読んだら、恵美は絶対にぎゃー!ひどいー!って言うよ」
それで、文句を言いに蘇ってくれればいいけど。
「久美ちゃんが入れようとしている物の方が、恵美ちゃんは喜ばないよ!」
そうかもしれない。私が持ってきたのはファンブック2。
貸してあげると言っても、恵美はかたくなにこれを読もうとはしなかったのだから。
「そうだよねー、やっぱり恵美は、ネタバレは読まないよ!って言うよねー」
この本は持って帰ろう。あ、でもせめてレオンハルトの絵だけでも切りとろうかな。
「そういえば、恵美ちゃんは隠しキャラの存在は知ってたの?」
ファンブック2からページを1枚破こうとして折り目をつけていると、奈々がそんなことを聞いてきた。
それはファンブック2に載っている情報だった。




